川内原発 知事の停止要請は重い
7月に初当選した鹿児島県の三反園訓(みたぞのさとし)知事が、九州電力川内原発1、2号機の一時運転停止と再点検、周辺の活断層調査などを九電の瓜生道明社長に要請した。「熊本地震による原発への県民の不安の声の払拭(ふっしょく)」を理由に挙げている。
ただ、知事に原発を停止する法的な権限はない。九電は、一時停止には応じない方針だとみられる。
しかし、要請は4月の熊本地震を重視した三反園知事の選挙公約で、多くの有権者の支持を得た。知事は、原発事故に備えた現行の避難計画に問題があると指摘し、見直す意向も示している。九電と政府は、要請を重く受け止めるべきだ。
震度7の揺れが2度も発生した熊本地震では、耐震基準を満たしていても被害を受けた避難所があった。交通網も各地で寸断された。隣の鹿児島県で、原発の過酷事故と大地震が重なる複合災害への不安が高まったのは当然のことだろう。
知事は今月、川内原発周辺の避難道路や福祉施設を視察した。道幅が狭いことなどを確認し、住民の声を聴いた。その後、避難計画を見直す必要性に改めて言及していた。
伊藤祐一郎前知事は、福島第1原発事故後、全国に先駆けて川内原発の再稼働に同意した。ところが、原発から10〜30キロ圏の医療機関や福祉施設の入所者の避難先を事故後に決めることにするなど、避難計画の不備が指摘されていた。
安倍政権は、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発について、地元の理解を得て再稼働する方針を掲げている。原発が立地する道県と市町村の同意が前提となるが、鹿児島県ではこの構図が崩れた。
そもそも、三反園知事は県の避難計画策定の最高責任者だ。前任者が策定した計画に問題があると言うのなら、自らの責任で、速やかに実効性ある計画づくりに取り組む必要がある。選挙で公約した、有識者による原子力問題検討委員会(仮称)の設置を急ぎ、県民にも開かれた議論を進めてほしい。
避難計画の策定義務は原発30キロ圏内の自治体が負っている。ただし、規制委の安全審査の対象外で、再稼働の要件ではない。避難計画を原発の安全審査の対象にするよう、国に要請することも必要だ。
知事は「原発に頼らない社会」の実現も掲げる。そのために、鹿児島でどのような施策を実施していくのかも問われよう。
川内原発1号機は10月、2号機は12月に法定の定期検査で停止する。2基の稼働による収支改善効果は月約100億円というが、住民の安全が最優先だ。九電は、県の意向をおろそかにしてはならない。