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【大企業に何が起きているのか?】ソフトバンク 元参謀の見た孫正義 「後継者」の条件 - 嶋聡(多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長)

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「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして3兆円を投じての英国アーム社の買収……。
ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く


 2016年7月18日、ソフトバンクは、イギリスの半導体設計大手アームホールディングスを3.3兆円で買収した。スマートフォンや自動車向けのCPU(中央処理装置)における中核技術を持つ会社である。2006年のボーダフォン、2013年のスプリントと買収を重ねてきたソフトバンクにとっても「創業以来最大の投資」である。孫正義はこれを「たかが3兆円」と言い放ち、注目を浴びた。

 私は2005年から8年間ソフトバンクの社長室長を務め、孫正義氏の「参謀」と呼ばれた。元「参謀」から見ると、今回のアーム買収からは孫氏の「帝国」建国の野望を感じる。

 孫氏の夢は「300年続く企業を創る」であり、一時期、ローマ帝国、モンゴル帝国などがなぜあれだけ、世界に伸びたのかをよく研究していた。孫氏の視線は「世界」にある。

 「ロックフェラーがなぜ、自動車の時代の世界を制覇したか分かるか? 世界の油田を押さえたからだ」

 スマホの通信用半導体で九割超のシェアを持つアームを買収したのは、ロックフェラーが自動車時代の源流、油田を押さえたのと同じである。

「アームは独自の基盤技術・プラットフォームを持っておりまして、この分野では世界NO.1」と孫氏は言う。孫氏がアームを買収したのは、アップルやグーグルが今のプラットフォームを握っているようにアームがIoT時代のプラットフォームを握ると考えたからだろう。なぜなら、プラットフォームこそ、徴税権、立法権を持つデジタル社会の「帝国」だからである。

 プラットフォームは国家のように「徴税権」をもつことができる。まさに「私的帝国」である。たとえば、アップルやグーグルなど独占している市場を持つ企業は、レベニューシェアと言って、売り上げの一定割合を配分するように要求することができる。これをIT業界ではアップル税、グーグル税などと呼んでいる。

 プラットフォームはまた「立法権」=ルールの制定権も持つ。グーグルのユーザーは、サービス規約はもとよりサイト設計のすみずみにいたるまで、大きな影響を受ける。

 英国、ケンブリッジの記者会見で孫氏は「創業以来、最もエキサイティングな日だ」と語った。孫氏の目には「IT産業の最上流」を押さえ、「300年続く帝国」への道筋が見えたのである。

目標はスティーブ・ジョブズ

 孫氏は事業家と投資家という二つの面を持つ。低迷していたボーダフォンを2006年に買収、ソフトバンクとなり、V字回復させたのが事業家としての孫氏。アリババに見るように2000年の20億円の投資が、2014年の上場で8兆円の含み益となり、4000倍になったというのが投資家としての孫氏である。

 ソフトバンクの組織構造は、ソフトバンクグループという持ち株会社のもとに、ソフトバンク(携帯電話事業、旧ソフトバンクモバイル)、ヤフー、スプリントなどの事業会社が連なっている形である。

 持ち株会社自体は、私の社長室長時代、200人もいなかった。持ち株会社の幹部が、事業会社の役員を兼務している。孫正義社長としては、この持ち株会社のスタッフを使い、全体を統括、経営する。買収などの投資案件を孫社長の号令一下、検討するのも持ち株会社のスタッフである。

 持ち株会社のメリットは、新規事業の立ち上げや他企業に対する買収がしやすく税金を節約できることと言われる。ソフトバンクはそのメリットをもっとも活かしている組織だといえる。そして、何よりも、事業家と投資家の両面を持つ、孫氏の力が十分に発揮できる組織形態なのである。ソフトバンクという組織のビジネスモデルは鉄道会社に似ている。鉄道会社は路線を引くのに大規模な投資を必要とする。携帯電話会社も同じで基地局というネットワークをつくる設備投資に数兆円もかかる。

 鉄道会社は運賃で、携帯電話会社は通話料で回収をしていく。キャッシュが安定して入るので、金融に対して信用力を持つ。そこで、鉄道会社が宅地開発などの不動産投資をするように、ソフトバンクは目が利くネット企業への投資をする。

 アリババなどネット企業への累計投資額(平均9.5年)は3877億円。これに対する累計リターン(収益額)はおよそ30倍の11兆6699億円にのぼる。IRR(内部収益率)は45%にもなった(数字はいずれも2014年4〜9月期)。「ソフトバンクは金の卵ではなく、金の卵を生むガチョウだ」と孫氏は言う。

 一方、事業家としての孫氏に自身は満足していないと思う。孫氏の目標とするのはスティーブ・ジョブズである。

「スティーブ・ジョブズのすごいところは3回もライフスタイルを変えたことだ。将来、ジョブズは、天才レオナルド・ダビンチとならび称されるだろう」と、孫氏は言う。

 3回とは、アップルコンピューターでコンピューターの概念を変え、iPodで音楽の楽しみ方を変え、iPhoneでスマホ革命を起こしたことだ。

 孫氏は2006年、ボーダフォンを買収し、見事にターンアラウンド(戦略的な収益改善)を成功させ、2014年には、全体の売上高でNTTドコモを抜いた。ただ、その成功の理由が、スティーブ・ジョブズと直接交渉し、日本でのiPhone独占販売権を得たことにあることは、孫氏本人が一番よく知っている。孫氏は、この点に関してはイノベーションを起こした「企業家」ではなく、iPhoneを売る携帯電話会社のマネージャーにすぎない。そのことが孫氏には不満なのだ。後述するが、その不満が、アーム買収をさせたのだと思う。

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