知的障害者施設の99%で警備強化 NHK調べ

知的障害者施設の99%で警備強化 NHK調べ
k10010654411_201608260731_201608260732.mp4
相模原市の知的障害者施設で起きた殺傷事件から26日で1か月となるのに合わせて、NHKが全国のおよそ90の知的障害者施設に聞いたところ、ほぼすべての施設で防犯カメラの増設など警備の強化を進めていることがわかりました。一方で、警備の強化によって地域とのつながりが失われることを危惧する声も多く、葛藤を抱えながら対策を探る姿が浮き彫りになっています。
NHKでは、先週から今週にかけて日本知的障害者福祉協会に加盟する入所施設のうち、定員が100人以上の全国89の施設を対象に緊急の調査を行い、93%にあたる83施設から回答を得ました。

今回の事件を受けた警備面の対策を尋ねたところ、「新たな対策を講じた」と回答したところが27か所、「対策を検討中」という回答が55か所と、合わせて82施設、率にして99%とほぼすべての施設で警備の強化を進めていることがわかりました。

具体的な対策として複数回答で最も多かったのが、「安全マニュアルの見直しや策定」で、施設の65%、次いで「施錠の強化」が57%、「侵入者対策訓練の実施」が51%、「防犯カメラの増設」が34%となったほか、「警察への自動通報システム」や「民間の警備会社の巡回」を新たに導入する施設もありました。

一方で、施設からは「閉鎖的な施設を生み出すことにならないか」などと、警備の強化によって地域とのつながりが失われることを危惧する声も多く、これまで目指してきた「開かれた施設」の在り方と逆行することに葛藤を抱えながら対策を探る現場の姿が浮き彫りになっています。

寄せられた葛藤の声

アンケートでは、今回の事件を受けて、ほとんどの施設が警備強化の必要性を認識している一方で、費用面の負担や入所者の人権に対する懸念のほか、地域に開かれた施設の在り方を目指してきた中で、警備の強化をどのように図っていくのか戸惑いや危惧を訴える意見が多く寄せられました。

このうち、関東地方の施設からは「対策を強化しすぎることにより施設を利用される方々の生活環境の悪化や行動制限につながらないような配慮が重要だ」という意見が寄せられました。

中でも最も多かったのが、施設の閉鎖性を危惧する意見で、東北地方の施設からは「防犯対策は当然必要であるが、従来の『開かれた施設』と逆行する結果になり、閉鎖的施設を生み出すことにならないか危惧する」という意見や、中部地方の施設からは「殺意を持った者の侵入は、想定外であり、今後、それを防ぐため何らかの対策は必要だが、一方で地域に開かれた施設作りも目標としてあり、バランスをとるのが難しい」といった意見が相次ぎました。さらに、関東地方の施設からは「塀を高くしたり、セキュリティーを高めること、このことは結局、人と人との間に垣根を作ることになる。障害者の生き生きとした姿が目に入りにくくなり、社会へ適応した人間のみの歪んだ社会となる懸念がある」といった指摘がありました。

このほか、東北地方の施設からは「この事件により障害者差別が広がったり、施設が閉鎖的になることがあってはならない。施設は人と人のつながり、利用者と職員の信頼関係、地域の人の支えがあり、コミュニティーの中に存在する。私たちの施設は、地域住民との交流を大切にし、利用者が自由に出入りできる環境を守り、開かれた施設を目指します」と、地域との共生の中で施設の運営を続けていくことの重要性を訴える意見もありました。

警備強化した施設では

知的障害者など100人余りが入所する相模原市中央区の施設「たんぽぽの家」には、事件の後、入所者の家族などから不安の声があがったことから警備体制を強化しました。

まず、不審者の侵入を想定して新たに民間の警備会社の通報システムを導入しました。このシステムでは、施設内の事務所など2か所に設置された通報ボタンを押すと24時間、警備員が駆けつけるともに、必要に応じて警察にも通報します。さらに、夜勤の職員には持ち運びができる通報ボタンがついた端末を配備することになりました。ほかにも施設の施錠を徹底するほか、新たに玄関に防犯カメラを設置したり、食堂と施設の2階部分のベランダに不審者の侵入を知らせるセンサーを設置したりすることを決めました。

施設では、これまで地元の中学生の体験学習を受け入れたり、夏祭りやクリスマス会に住民を招いたりしてきたほか、地元の祭りにも入所者が出店を設けるなど地域との交流を積極的に図ってきました。「たんぽぽの家」の山田努部長は「利用者を狙った外部からの侵入はこれまで全く想定していなかったので、事件を機に急きょ警備体制を見直しました。一方で、閉鎖的な施設にしないよう、地域での取り組みはこれからも変わらず続けていかなければならない」と話しています。

識者「施設の在り方が問われている」

ほぼすべての施設が警備の強化を進めているという結果について、障害者の施策に詳しい浦和大学の河東田博特任教授は「施設は生活の場、人が暮らす場であり、これまで地域に開放し、地域の人たちと触れあえるよう地道な取り組みが進められてきた。入所者や家族の不安の声を受けて何らかの対応策を取ろうとしている施設も“苦渋の決断”として、やらざるを得ない状況に追い込まれていると感じる」と話しています。

そのうえで、「事件によって、これまでの流れを絶対にとどめさせてはならない。いまこそ、障害のある人が地域で当たり前に暮らしていけるような社会を目指していく必要がある。教育や、人と人との関係、障害のある人たちへの社会の支援、そして、施設の在り方そのものが問われている」と指摘しています。