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第24話 第9の試練と転機となる宝物
魔術の修練も終了し、早めの昼食を食べ迷宮80階層へ向かう。
疲れも溜まっていることから回復薬の授業を取り止めたのだ。
91階層の見た目は何の変哲もない青色に染まった石性の壁、床、天井。
例にも漏れず、一歩踏み込めば身を切り裂く真空波が常時発動している階層でもあった。
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【風刃】
★説明:1分あたりレベル38の者のHPを50だけ減少する。ただし以下の条件に従う。
・レベル37以下:レベルが1下がるごとに1分あたりのHP消費が1.2倍。
・レベル38~60:レベルが1上がるごとに1分あたりのHP消費が0.8倍
・レベル61以上:HPの消費なし。
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レベル70以上の僕らは傷を一切受けないし、僕らが身に着けている服は自身と同等レベル以下の一切の攻撃を無効とする効果を持つ服だ。
この服は61階層~70階層で服が高熱で燃えて使い物にならなくなったことにより製造した服であり、この迷宮攻略では重宝する。
いつものように十字路で3方向に分れて探索を開始する。一緒に探索するのは事実上、試練の間のボスモンスターとのバトルのときだけだ。それも一瞬なのでステラとアリスが実戦でどのような戦い方をするのは僕にもわからない。
エンカウントした魔物は風を操るファンシーな白兎に僕に向けて真空破をまき散らしながら高速で飛んでくる魔剣、それに風を操る蜥蜴。風を操るイタチに、巨大な虎のような獣。
僕は敵の間を神速で縫っていき、すれ違い様に【ルイン】と【終焉剣武】で造り出した剣で袈裟懸けに切り裂き、横一文字に横断し、垂直に切り落とす。
【終焉剣武】による剣武は反則的だ。
僕自身の腕なのに僕のステータスでも視認しえない速度で輝線を描き、魔物に無数の斜線を走らせ、バラバラに解体する。
【究極地図】により接近して倒すだけで紅石が、食材が、素材が倉庫へ入庫される。
休憩がてらに確認すると今日も風を操る兎とイタチは食材、風の魔剣は伝説の金属――ミスリルとして倉庫に入庫されていた。ゲームで言うところのドロップアイテムだ。
この迷宮は食材と伝説の金属の宝庫。
特にこの魔剣系の魔物は大抵5メートル近くあり、上手く倒せれば1体でだけで、4~5トンにもなる。
この上手く倒す方法は柄にはめ込まれている半径30センチほどの魔剣の核である宝玉のみを壊すことだ。それ以外を傷つけるとどういうわけか屑鉄になってしまう。だから此奴だけは慎重に剣で突き刺して倒している。
第65階層から出現する炎魔剣では10体近く倒して初めてそのことに気が付いた。それからステラ達と連絡を取り、魔剣系は必ず宝玉だけを壊すことを僕らの方針とした。
その後も65階層から69階層で氷の魔剣、75階層から79階層で雷の魔剣が出現し、僕らは莫大なミスリルを得た。
この風魔剣は81階層から多量に出現しているので既に普段の数倍の量のミスリルを得ている。
加えて【レベル4白魔術魔道書】、【レベル4呪術魔道書】、【レベル4青魔術魔道書】が相次いで発見される。
なおかつ隠し扉の中から【レベル5黒魔術魔道書】を手に入れた。これで黒魔術はLV1~7までコンプリートだ。
81階層から90階層はボーナスステージなのかもしれない。
普段とは段違いのお宝の山に顔が壮絶ににやけている僕らは今週最後の試練――第9の試練に挑む。
第90階層はいくつもの竜巻が唸り狂い、真空波が乱舞する階層。低レベルならば瞬きをする間も無くバラバラの肉片となり果てる階層。
もっとも僕らは規定以上のレベルがありダメージは一切受けない。
《挑戦者の冒険者カードの認識開始…………終了
ギルド名:スピリットフォーレスト。
キョウヤ・クスノキ、ステラ・ランバート、アリス・ランバート》
《『第9の試練:【風魔星剣】を倒せ!』
・クリア条件:【風魔星剣】の討伐
・特殊条件:討伐時間が短いほど得る宝物の価値が高くなる
・ボーナス条件:屑鉄にせずに倒せばスペシャル特典あり》
空中に悠然と浮かぶ15メートルを遥かに超える巨大な真っ青な美しい剣を見上げて、解析をする。
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ステータス
【風魔星剣】
★レベル:64
★能力値:HP10000/10000 MP10000/10000 筋3400 耐久力3400 俊敏性3400 器用3400 魔力3400 魔力耐性3400
★魔術:《天体魔術》
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ボーナス特典があるせいか、ボスモンスターが強すぎる。
しかも《天体魔術》? 聞いたこともない魔術だ。だが名前からして強力な魔術だ。注意はすべき。だけど倒し方もスペシャル特典の獲得条件も把握している。
皆で攻撃すれば他の部分に当たり屑鉄となる可能性もある。ここの階層だけは下手は打てない。僕が責任を持って処理する。
「アリス、ステラ、今回は僕がやる。
今日は僕のバックアップに回って!
僕が失敗したら即座の処理お願い」
この3日のボス戦で僕の《終焉剣武》の能力を理解しているステラとアリスはすんなり了承し僕の背後に下がり油断なく構える。
僕の《終焉剣武》――《終の型Ⅱ》は精密な攻撃を司る。改めてスキルを確認する。
《・《終の型Ⅱ》:自身から200メートルの範囲で結界を張りその結界内部のすべてを認識する。認識した特定の場所に刻印を刻み、剣を放つ。
剣は必中。因果律を逆転させ、刺さる結果が生じ、その後剣が飛ぶという行為が生まれる。
崩壊因子によりあらゆるものを崩れさせる効果を剣に付与可能》
強面の男性の野太い声で、《ロストファンタジー》の試練の間の常套句のアナウンスが流れている間に結界を張り、風魔星剣の核である《宝玉》を探す。
《宝玉》は鍔の上部に埋め込まれた直径1センチほどの青色の球体だった。
鈍い僕にもこの第9の試練にたっぷり含まれた悪意に思いが至った。
(……ふざけんな。僕の《終の型Ⅱ》でもなければこんなの見つけられないし、当てられない!
この迷宮を造った柱の性格はマジで最悪だ。
スペシャル特典を得たければ僕らは《宝玉》を見つけなければならない。
だけどこんな小さい《宝玉》を戦闘中に発見するのは不可能だし、仮に発見してもこの1センチ以外に攻撃したらアウトだ。他の魔剣と同じなら《宝玉》以外に少しでも傷をつければ、宝玉を壊しても屑鉄になるから。
つまりスペシャル特典まで色気を出すなら一切攻撃ができなくなりなぶり殺しとなる。
僕らが必至こいて《宝玉》を探し全滅するシーンを見て手を叩いて喜んでいるんだろうけど、そうは問屋がおろさない!)
――与えられるのは偉業か、死。
武をつくせ、叡智を尽くせ。
されば与えられん!》
厳つい声色の言葉が終了すると同時に《終の型Ⅱ》を発動し《宝玉》に刻印し、細長い剣を造り出し放つ。
パキーンとガラスの割れる音。
次いで【風魔星剣】は地面に落下し突き刺さり轟音と爆風を引き起こすが、同時に【究極地図】により入庫される。
《第9の試練クリア。挑戦者側の勝利。
討伐経過時間0.0000001秒。評価|ΩΩΩ
第9試練|ΩΩΩランク宝物解放
スペシャル特典解放》
とうとう、評価がΩΩΩに変わってしまった。部屋の中央には7つの宝箱が出現している。
3つも多い。
1つ目――【伝説の調理王の叡智全書】
2つ目――Sランク紅石80個
3つ目――SSランク紅石80個
4つ目――【神の建築学全書】
5つ目――SSSランク紅石300個
6つ目――Ωランク紅石300個
7つ目――【高次元生命創造術の理】
宝箱の中身を解析した結果は以下の通りだ。
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【伝説の調理王の叡智全書】
★説明:伝説の調理王の叡智の全書。伝説の調理王の叡智のスキルを得る。ただし一度使うと消滅する。
全書に触れ《発動》と念じることでスキルを得る。
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伝説の調理王の叡智全書ね。この迷宮内には多種多様の食材が存在している。食材があるんだ。この系統のスキルの全書があってもおかしくない。
これも後から入る仲間用にとっておこう。
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【神の建築学全書】
★説明:神の建築学の全書。神の建築学のスキルを得る。ただし一度使うと消滅する。
全書に触れ《発動》と念じることでスキルを得る。
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建築学のスキルの取得できる書物。今すぐ獲得したいところでもある。
しかし、建築学に興味がある仲間が今後、ギルドに加入するかもしれない。
後で思金神に相談してみることにする。
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【高次元生命創造術の理】
★説明:高次元生命創造術の理を得る究極の奥義書。高次元生命創造術の才能とLV1~7までの叡智を得る。ただし一度使うと消滅する。
奥義書に触れ《発動》と念じることで才能と叡智を得る。
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【高次元生命創造術の理】。高次生命を創る? 神様じゃあるまいし。
ホントこの迷宮作った天族って、悪ふざけが過ぎると思う。これも思金神に相談だ。
次に【究極地図】に入庫された【風魔星剣】を調べると、驚いたことに全てオリハルコンで構成されていた。
ゲームでも貴重な伝説の金属オリハルコンが数十トン。金属も大分集まってきた。仲間が増えたらこの階層で風魔剣を定期的に狩り、ミスリルを得るのもよいかもしれない。
こうして今週の僕らの迷宮探索は終了する。
《終焉の迷宮》到達階数――第90階層。
第6の試練討伐魔物
○炎魔卵(LV20)――128匹
○フレイムファング(LV20)――110匹
○フレイムクロコダイル(LV22)―137匹
○炎魔剣(LV22)――165匹
○フレイムレオ(LV34)――1匹
第7の試練討伐魔物
○氷鳥(LV24)――105匹
○氷犬(LV24)――156匹
○アイススネイク(LV25)――98匹
○デビルフリーザー(LV26)―133匹
○氷魔剣(LV26)――180匹
○イエティ(LV40)――1匹
第8の試練討伐魔物
○サンダーバード(LV30)――100匹
○ライトニングエイプ(LV30)――122匹
○巨雷人(LV34)―101匹
○雷魔剣(LV34)――186匹
○雷牛(LV46)――20匹
第9の試練討伐魔物
○ウインドラビット(LV38)――92匹
○風魔剣(LV38)――358匹
○風魔精霊(LV42)―80匹
○鎌鼬(LV42)―186匹
○ウインドビースト(LV46)――190匹
○風魔星剣(LV64)――1匹
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ステータス
【楠恭弥】
★レベル:81
★能力値:HP18000/18000 MP20000/20000 筋力5801 耐久力5802 俊敏性5814 器用5811 魔力5828 魔力耐性5813
★EXP:268376/330000
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ステータス
【ステラ・ランバート】
★レベル:81
★能力値:HP12000/12000 MP24000/24000 筋力3808 耐久力3806 俊敏性4805 器用4800 魔力9844 魔力耐性7805
★EXP:74076/330000
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ステータス
【アリス・ランバート】
★レベル:81
★能力値:HP18000/18000 MP20000/20000 筋力6845 耐久力6809 俊敏性5814 器用5811 魔力3806 魔力耐性3815
★EXP:74076/330000
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食後自室に入ると思金神の声が脳内に響く。
《マスター。お願いがあります》
「お願い? 何?」
《【高次元生命創造術の理】を《発動》していただきたいのです》
いつものごとく抑揚のない声だが、口調がやや早い。柄にもなく興奮しているのだろうか。
「君がそうしろというならするけどさ。なぜ?」
《この魔術があれば私はもう一段界進化しえます。もっとマスターのお役に立てるのです》
思金神は僕から生まれたスキル。僕なしでは生きていけない分身のような存在だ。そしてその存在し続ける栄養は僕の役に立つこと。その一点のために思案し、行動する。
仮に僕の役に立てなくなったときは、その時が此奴の死らしい。つまり此奴にとって僕の役に立つことは戦いに等しいのだ。その此奴が、【高次元生命創造術の理】は僕の役に立つと判断した。なら拒む理由がどこにある?
「了解した。どの道、魔術とスキルは君の管轄。【高次元生命創造術の理】については君の判断を仰ごうと思っていたところだよ」
アイテムボックスから【高次元生命創造術の理】を取り出し、魔道書に触れ《発動》と念じる。
僅かに芯が熱い。魔術を獲得したようだ。僕は今、魔術獲得のリバウンドを最大限抑えるブレスレットをしている。それなのに身体の芯が熱くなった。虚無の魔術なのだろう。
「思金神?」
返事がない。思金神が僕の問いかけに返答しないのは初めてのことだ。
多少不安ではあるが思金神は僕の利になることしかしない。放っておいて心配ない。
僕はベッドに横になり、兄さんの本でLV3の呪術の勉強を始める。
そして3時間後――。
《マスター、暫しの不敬ご容赦ください》
――思金神の言葉。
この言葉を契機に僕の世界は真っ赤に染まる。
異常な脈動をする心臓。
グツグツと煮えたぎる血液。
地獄の窯の中に沈められ茹でられているような感覚。
指先一つピクリとすら動かせない中、灼熱の劫火は僕の細胞全てを焼き尽くし、新たな何かを造り出していく――。
そこで僕の意識は焼き切れた――。
お読みいただきありがとうございます。
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