三菱自動車の燃費不正問題を機に改めて注目を集めた「三菱」のブランド。再三にわたるブランド価値の棄損、同じ三菱グループの有力企業による救済の可能性など、スリーダイヤを巡って様々な議論が噴出した。ただ、今日考えたいのは三菱自ではない。御三家の一つ、三菱重工業についてだ。
5月、日産自動車との資本提携を三菱自動車が発表する前の段階のこと。三菱重工業は東京の本社で中期経営計画の進捗などについて説明する記者会見を開いた。
質疑応答では、三菱自支援への三菱重工のスタンスを問う質問が続出。これに対し、宮永俊一社長は「(どのような対応が可能かは三菱重工の)株主への説明責任が一番の問題」と述べるにとどめた。その後の展開を見る限り、今のところ三菱自の再建は日産主導で行われることで、三菱重工の出番はなさそうだ。
本業とのシナジーを考えても、三菱自へのさらなる支援はとても株主や社内が納得するとは思えず、透明性や合理性を重視する宮永社長もこれ以上の関与は避けたいのが本音だろう。雇用や地域経済への影響は極めて大きく、三菱自の経営再建は重要な問題ではあるが、三菱重工が深入りする話ではない。
乏しい海外でのブランドイメージ
三菱重工による三菱自への対応はもちろんだが、その日、興味深かったのは、海外広報戦略の強化についての新たな取り組みの説明だった。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスなどインフラ関連の競合と比べ、グローバル市場での認知度が低いとの危機感が背景にある。海外でも日本企業の代名詞のような「三菱」はそれなりに有名だが、三菱重工の英語の略称、「MHI(Mitsubishi Heavy Industries)」はあまり知られていないという。常々、海外大手をライバルとして位置づけ、経営数値などでも強く意識している三菱重工としては、彼我の認知度の差は見過ごせないようだ。
海外広報強化にあたり、三菱重工は世界に散らばる社内外の関係者から、自社がどのように認識されているのか聞き取り調査した。それによると、海外の顧客・政府・マスコミ関係者からは「三菱は知っているが、MHIは聞いたことがない」「事業内容を知らない」「個性・柔軟性に欠ける」、国内外の社員からも「電車をつくる会社だと思っていた」「強みがステークホルダーに伝わっていない」「お客様と距離感があるイメージ」などの指摘があった。