PKOの新任務 派遣前に丁寧な議論を
3月に施行された安全保障関連法に基づく自衛隊活動の訓練が始まった。政府は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)へ11月から派遣する陸上自衛隊の部隊に「駆け付け警護」の訓練をさせ、その他の活動の訓練も順次、実施していくという。
「駆け付け警護」は、PKOで、離れた場所にいる国連職員や他国軍が武装勢力に襲われた時、自衛隊が武器を持って助けに行くことだ。
他国軍とともに活動拠点を守る「宿営地の共同防護」も可能になり、訓練が行われる。
安保関連法のうち、集団的自衛権の行使容認や地球規模での後方支援にかかわるものは別として、PKOなどの国際協力活動には、日本は憲法の範囲内で積極的に取り組んでいく必要がある。
ただし、そのためには、自衛隊員の安全確保が不可欠だ。
南スーダンPKOには、約60カ国から約1万2000人が参加し、日本からは道路整備などを担う陸上自衛隊の施設部隊約350人が派遣されている。当初は「国づくり」が主眼だったが、混乱の長期化で「文民の保護」というリスクの高い活動に中心が移っている。
7月には、首都ジュバで、政府軍と元反政府勢力の戦闘により約300人が死亡し、在留邦人も国外退避する事態になった。
治安の悪化は深刻で、国連安全保障理事会は今月、南スーダンPKOに約4000人の地域防護部隊の増派を決議した。
日本のPKO参加には、「紛争当事者の間で停戦合意が成立している」など「参加5原則」が満たされている必要がある。
南スーダンでの戦闘について、政府は「武力紛争が発生したとは考えておらず、参加5原則が崩れたとは考えていない」(菅義偉官房長官)という。現地情勢を正確に踏まえた判断なのか、疑問が残る。
PKOの新任務のための訓練はしても、実際に派遣部隊にその任務を付与するかどうかは政府が判断する。慎重な検討を求めたい。
安保関連法により、PKOの自衛隊部隊は「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」のほか、巡回、検問などの「安全確保業務」も法的にはできるようになった。政府は当面、安全確保業務の訓練はしないというが、将来的にどうしようと考えているのか、はっきりしない。
安保関連法は実質計11本の法律を束ねたもので、論点が多岐にわたり、昨年の通常国会で改正PKO法はほとんど議論されないまま成立した。秋の臨時国会では、自衛隊員に無用な不安を抱かせないためにも、丁寧な議論が必要だ。