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第二話 夢うつつで今の己を知る。
「また男の子か……。これで八人目だぞ」
「あなた、こんなに元気な男の子なんですよ。それに相応しい名前を」
「そうだな。ヴェンデリンとするか。その子が、バウマイスターの家名を継げる可能性はほぼゼロだがな」
突然の眠気で再び夢の世界へと落ちた俺は、その夢の中で不思議な光景を目の当たりにしていた。
俺が意識を移らせていると思われる、あの小さな少年らしき赤ん坊が生まれた場面が、まるで映画のワンシーンのように見えていたからだ。
どうやら俺は、このバウマイスターという家で八番目の男の子として生まれたらしい。
いや、正確にはその存在を乗っ取ったという方が正しいのであろうか?
それと話が進むに連れて、このバウマイスター家が辺境の人口二~三百人が住む村を三つほど治める下級貴族である事。
現当主であるアルトゥル・フォン・ベンノ・バウマイスターは、良くも悪くも平凡な四十男であり、同じ下級貴族出身の妻と地元名主の娘を妾にしている事。
その二人の妻との間に、俺ヴェンデリンを含めて男八人、女二人の子供がいる事などがその名前と共に判明していく。
しかし、精々人口八百人程度を治める下級貴族の癖に子供が十人とか。
良い年をして、家族計画を理解しているのかと本気で考えてしまう。
もう既に今までに知り得た情報から、俺の居るこの世界が中世ヨーロッパに非常に酷似した世界である事は理解している。
子供が生まれても、必ず全員が無事に成人するという事も無いのであろう。
一人っ子というわけには行かないし、正妻が必ず子供を生める保障もないので、妾がいるのも納得はいく。
でも、この人数は多すぎであろう。
下手をすると、御家騒動の原因にも成りかねないからだ。
妾の子供は、可哀想だがこの際除くとして。
実際にまだ顔を見ていない妾は、男の子二人と女の子二人の母親であったとこの体の記憶にあったが、男の子達は名主の跡継ぎや、娘しかいない豪農や名主の家に婿として入る予定らしい。
女の子は、既に嫁ぐ先も決まっているようだ。
彼女等の事は良いのだ。
将来がちゃんと決まっているのだから。
肝心の残り六人兄弟、本妻の生んだ男子連中について。
てっきり八男の俺なので、自分は妾の子だろうなどとタカを括っていたが、何と俺は本妻が四十歳近くになって生んだ子供らしい。
というか、年甲斐もなくそんなオバさんを孕ませないで欲しい。
多分、どう見ても貧乏そうな領地なので、主に財政的な面から新たに若い妾を作るのは不可能なのであろう。
逆に言うと、夫婦仲が良好で良かったとも言えるのだが。
「あなた、ヴェンデリンには剣や魔法の才能があるかもしれません」
「もしそうならば、独り立ちも可能であろうか」
この俺が乗っ取っている小さな子供の記憶というか、その情報を元にした第三者的な視線から、俺は次々と現在自分の置かれた情況を次第に理解していく。
まず俺が、貧乏貴族の恥かきっ子である八男ヴェンデリン満五歳、数えで六歳くらいに転生というか乗り移った事。
貴族の家に生まれたが、あまりに子沢山過ぎて領地などは当然継げず。
下手をすると、というか間違いなく貴族としてすら生きられない可能性が高いという事をだ。
普通に考えれば長男が家を継ぐし、次男は予備と考えて、三男以降は己で生きる道を模索しないといけないはずだ。
広大な領地を持つ大貴族家や、中央で代々要職に就いている世襲法衣貴族家ならともかく、この子作りしか取り得の無い貧乏下級貴族に、三男以降の身の振り方を考える甲斐性など期待しない方が懸命であろう。
となるとだ。
平成日本の自宅マンションで寝ているはずの自分はどうなったとか、先程聞こえた『魔法』というキーワードに浮かれたりとかしている余裕などない。
この世界の成人が何歳かは知らないが、それまでに自分一人で生きていく術を得なければいけないからだ。
「(慌てるのも良くないが、子供だからって遊んでばかりいると人生詰むな……)」
それからも俺は、この第三者的な俯瞰からヴェンデリンのこれまでの人生をダイジェストで確認し、目が醒めてから新しい家族に不信の目で見られないように懸命に情報を集めるのであった。
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