あれからの僕達は(仮)
作者:筆ペンギン
あれから二十年後…
僕は隣町の大きな病院にいた。
中央の噴水を囲むように四階建ての病棟が三棟それぞれ渡り廊下で繋がっている。
駅側の棟がメインの出入り口。外から見ると簡単な造りに見える。でも中はまるで迷路。
特に第三棟は、廊下に日の光が入らない構造になっているのか何度も迷ったのを覚えている。
病室しかなく入院患者専用の棟になっているのだろう、いつもの事だけどなんだか空気が重く暗い。
スライド式の扉もなんだか重く感じる。
病室に入るとそこには白い花瓶を持ったしずかちゃんがいた。
お気に入りの薄いピンクのロングスカート。肩まで伸びる綺麗な黒い髪。
子供の頃となにも変わっていない。
「しずかちゃん、先に来ていたんだ」
しずかちゃんは八重歯を見せて「シーッ」と言って人差し指を唇にあてて見せた。
「お母さんね、ついさっき寝ちゃったの」
しずかちゃんが残念そうに肩を落した。でもなんだか楽しそうだ。
活ける花をカーテンから差し込む夕日にかざしている。
たぶんまた僕の悪口を母さんと話していたのだろう。
僕は少しふて腐れつつ母さんの顔を覗き込んだ。気持よさそうに眠っている。
だいぶ痩せてしまった体からは、子供の頃僕をしかりつけていた母さんの面影はもうない。
いきなりの事だった。本当にいきなりの事、僕達が結婚して間もなく、母さんが倒れた。
検査して病気が見つかった時には母さんの身体は重い病気に罹っていた。
「のび太さん、この花綺麗でしょ」
花瓶の花を整えながらしずかちゃんが言った。
僕は軽く頷いて、椅子に座り母さんの細い手を祈るように握った。
しずかちゃんは気を使ってくれたのか、花瓶を置いてなにも言わずに病室を出て行った。
・・・沈黙の中どれだけ時間が経っただろう。いつの間にか外は暗くなっていた。
ノックをして入ってきたしずかちゃんが慣れたてつきでカーテンを閉める。
「お母さん疲れていたみたいね」
ハッとして僕は力を抜いた。
「ねえのび太さん、今日は帰りましょう?」
「そうだね」と言って強張った体をほぐすよう椅子から立ち上がった。
「また来るからね」と小さい声で寝ている母さんに言葉を残し僕としずかちゃんは病室をあとにした。
帰り道の事だった。
しずかちゃんが裏山へ行こうと言いだした。
千年杉が見える山頂付近の拓けた場所。小山でもここからは僕達の町が一望できる。
昔、僕はよくこの場所に来ていた。
ジャイアンにいじめられたり母さんにしかられた時、僕は決まってここで泣いていた。
僕は切り株に座って一息ついた。
しずかちゃんは綺麗とは言えない夜景を見下ろしている。
「ねえ、のび太さん、またここに来ていたでしょ?」
背を向けたまましずかちゃんが言った。
今でも僕はこの場所に来ることがある。
しずかちゃんには内緒で来ていたつもりだったけど気づいていたんだ。
僕はなんだか恥ずかしくなり俯いた。
「のび太さん昔から嫌な事があった時は決まってここに来るのね」
少し間が空いて、しずかちゃんが僕の横に座った。
そして僕の顔を覗き込むようにして質問を続けた。
「なにを考えていたの?」
しずかちゃんと結婚してから僕は弱音を吐かなかなくなった。
泣き顔だって見せた事がない。そのかわり、笑う事にしたんだ。
どんなに辛い時だって僕は笑って誤魔化してきた。
でも「なにを」そう言われて頭に浮かんだのは母さん事だった…
僕は、なにかにすがるようにポケットに手を突っ込んだ。
ポケットの中で強く拳を握って、笑うんだ。そう思い無理やり表情を作ろうとした。
その瞬間。
「ドラちゃんの事…?」
ハッとしてしずかちゃんの顔を見るとなんだか悲しい表情をしていた。
でもすぐにニコっと笑い僕のへんてこな顔を覗き込んだ。
そして立ち上がってこう言った。
「ドラちゃんが今ののび太さんを見たらきっとこう言ったハズよ…
間が空いて、
しずかちゃんは少し頬を膨らませて言った。
『のび太くんは本当に泣き虫だね』
続く…少々お待ちください
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