FITC 2005
東京では桜満開の4月9日〜11日、カナダ・トロントでフラッシュカンファレンス「FITC 2005」が開催された。第4回となる今回は、中村勇吾、コリン・ムーク、ジョシュア・デイビスなどお馴染みの面々から、デヴィッド・カーソン、ロバート・L・ピーターズといったデザインの大御所まで、60名を超える幅広いゲストスピーカーたちが一同に集合。連日朝から夕方まで、様々なトークセッションやワークショップが続いた。
FITCの醍醐味は何といってもそのボリュームだろう。今年も80を超えるトークセッション、ワークショップ、パネルディスカッションが6つの会場で並行して催された。それらは「ビジネス」、「クリエイティブ」、「テクニカル」で大きく分類され、ウェブに関わるものにとってはどれも興味深く、思わず目移りしてしまうほど。今回はその中でも特に印象的なセッションをかいつまんで、フラッシュの最前線ではどんなことが旬なのか、レポートしてみたい。
会場となったのはオンタリオ湖に面する高級ホテル、ウエスティン・ハーバー・キャッスル。会期中は雲ひとつない好天に恵まれ、デッキから見晴らす湖の水面が清々しい。参加者もスピーカーもラウンジで振舞われたスターバックスのコーヒー片手に、とてもリラックスした雰囲気。
「FLASH THE FUTURE」という基調講演のあと、マルコス・ウェスカンプのセッション「Expression through information visualization」がスタート。 ソーシャルネットワーキングでのつながりを表現した「フリッカー・グラフ」(FITC アワード・エクスペリメンタル部門の大賞を受賞!)や、Google News を視覚的にした「ニュースマップ」などの作品をモックアップの段階から紹介。『圧倒的な量の情報が溢れる中でそれらをシンプルにビジュアル化する、そんな全く新しいユーザーインターフェイスへと挑戦していきたいですね。』と締めくくった。
ゆがんだエッフェル塔の映像と怪しげなBGMで幕を開けたのは、オキュラートことジェフ・リールマンのセッション。(オキュラートとは「眼の」という意味の“オキュラー”と“アート”を融合した造語)『僕は視覚要素のアート・パフォーマンスをしているんだ。』という彼の近作「オキュラート・オーケストラ」では、ウェブカムでキャプチャーした手の動きに合わせて奇異なキャラクターが音を出す。その置き去りにするような彼の独特な世界観に、オーディエンスは完全に惹き込まれていたのが印象的だった。
続いて登場はニューヨークのストリートを華麗に駆け巡る「NI9E.COM」のエヴァン・ロス。タイトルは「GEEK GRAFFITI(オタクのグラフィティ)」。詳しくは彼のサイトを是非ともチェックしていただきたいのだが、数ある郵便局ネタには会場から拍手喝采!他にもアスキーアートとグラフィティを融合した「アスキー・グラフ」や、グラフィティの筆跡を分析する「グラフ・アナリシス」などを紹介しながら、『リアルに存在するもので、新しいコミュニケーションがしたいだけさ。』と洒落っぽく語る姿は相当に格好よかった。
FITCの2日目もすばらしいクリエーターの競演、まずは、デザイナーズ・リパブリックや、ワープ・レコーズのウェブサイトを手がけた、クレバーのグラフィックデザイナー、トム・ミューラーが登場。サイト管理者に優しいバックエンドの構築や大いに盛り上がりを見せるフォーラム機能の仕掛けなど、ウェブの洗練されたユーザビリティを感じさせるプレゼンテーションだった。写真は終了後のトム(左)と、ウィーワークフォーゼムのマイク・チーナ(右)。優れたクリエーターが交わるそこかしこで広がるデザイン談義。
次にイコグラダ(国際グラフィックデザイン団体協議会)会長のロバート・L・ピータースが壇上に上がると、場内はすっと静まった。 「THE FUTURE – BY DESIGN」というタイトルで、引用されたシンプルな言葉と強く思慮深いビジュアルを交錯させながら、『デザインがカルチャーを生み出す。カルチャーが価値観を形成する。そして価値観が未来を決定する。だからこそデザイナーは、未来の子どもたちが暮らす世界に対して責任を持っているのだ。』とデザイナーの社会における責任に言及した。前述のマイク・チーナも『ソーシャルなことにデザイナーは取り組まなくちゃね。』と話してくれたが、拍手喝采を送るオーディエンスの反応を見ても、いよいよソーシャル・クリエーターの時代がきていることを直に感じた。
そしてついにFITCも最終日!朝一から言わずと知れた、キャットマンの作者、カナダ在住の日本人クリエーター青池良輔さんが登場。何かとテクニカルな側面がフォーカスされるフラッシュにおいて、アニメーションの道をひたすら突き進む姿が新鮮で、貴重なFLAファイルを紐解くプレゼンテーションでは、アニメーションの細かいテクを多彩に披露、メモをとるオーディエンスの姿が目立った。
午後から全身タトゥーのジョシュア・デイヴィスが満を持して登場。TOOLというハードコアバンドとのプロジェクトを巡るドキュメンタリのこぼれ話をフックに、エッジの効いた笑いが織り交ぜられ、会場のボルテージも最高潮。スーパーマリオの新しいシリーズ「ペーパーマリオ」からインスピレーションを得たという2Dと3Dが行き交う空間を自動生成するアプリケーションは、思わず見ほれる動きだった。
いよいよ大トリは、フラッシュの方向性を結果的に進化させた張本人、YUGOPこと中村勇吾が登場。会場は超満員に膨れ上がっていた。“お金を生み出すタイポグラフィ”たる「AMAZTYPE」は、国境を越えて大好評!『普段何気なく使っているロジックの“ちょっと間違った使い方”を起点に、それをオーバーに洗練させていくと作品に何ともいえないオーラが宿ってくる。そうすることで、まだ見たことのないものをつくっていきたい。』という彼らしい卓越した言葉に、場内からはスタンディング・オベーションが起こった。
こうして濃密な3日間は幕を下ろしたが、グラフィックデザインやビジネスモデル、マルチメディアユースにいたるまで議題は非常に多元的だったといえる。それはフラッシュというひとつのクリエイティブ・ツールが、その可能性と魅力で各分野のいろいろな才能を惹きつけるプラットフォームへと進化してきた証だろう。3日間のうちに幾重にも重なったインプットは、ウェブクリエイティビティに関わるものそれぞれにとって、「ウェブのその先」を描くための示唆に富むヒントとなったにちがいない。
FITC 2005
会期:2005年4月9日〜11日
会場:ウェスティン ハーバー キャッスル、トロント・カナダ
http://www.fitc.ca
Text and Photos: CBCNET : Yoshihiro Kanematsu