16/16
第16話 初実戦
従業員たちが『魔ホール』と呼ぶ工場内の広大な空間、そしてその中心部にある魔方陣付近には僕を含めて四人の従業員が待機していた。僕以外とは、現場リーダーの最上、柘植、蜂須賀だった。平課長と那須は魔ホール出入口付近にある従業員休憩スペースのテーブルで休んでいた。
魔方陣付近で待機する僕ら四人は魔方陣を取り囲むように床に腰を下ろして雑談をしていた。
「源、次に現れる異物がダークレベル3以下だったら独りで対処してみな」
最上が表情を変えることなく一重の鋭い目で僕を見ながら言った。
「いきなり僕ひとりですか?」
「もちろん、俺たちがフォローする」
「だけど初めてなのに大丈夫かなあ」
僕が不安そうな表情を浮かべると、自動小銃の照準器を覗き込みながら柘植がポツリと言った。
「魔物相手の筆おろしなんてあっという間だよ」
僕は黙って柘植の方に顔を向けた。自動小銃を構えた柘植は僕を見るとニタッと笑った。
「源くん、俺の初めての魔物はリザードマン二匹だったよ。必死でハンマーを降り回したよ。気づいたら二匹とも床に倒れていた」
巨大ハンマーを武器にしている大男の蜂須賀が低い声で笑いながら言った。僕は黙って蜂須賀を見た。
蜂須賀のような巨体で筋肉質な体躯と巨大なハンマーという強力な武器があればトカゲ人間くらい簡単に倒せるだろう。だけどいま僕が手にしているのは火炎放射器なのだ。しかもまだ自分の操作で火炎を放射してもいない。このまま魔物と実戦に突入しても大丈夫なのか?
「最上さん」
「なんだ?」
「ちょっと試しに火炎放射器を使ってみてもいいですか?」
「今か?」
「はい」
「やりな。だけど俺たちから離れてやってくれよ」
「わかりました」
火炎放射器の試射ができる。それだけでも幾らか安心した僕は立ちあがった。そのときだった。サイレンが魔ホールに響き渡った。
『ゲート開放警報。ダークエネルギー感知。ダークレベル3。至急臨戦態勢を整えてください』
大剣を肩に担ぐように持った最上が立ちあがった。
「レベル3だな。源、筆おろししてきな」
「まだ火炎放射器の試射をしていないのに…」
「銃口を魔物に向けてトリガーを引くだけだ」
柘植がそう言いながら自動小銃を手に立ちあがった。
まもなく魔方陣上に一体の漆黒の球体が現れた。やがてそれは人の形になった。それはやや肥満体だった。
「オークだな」
柘植がそう言いながら自動小銃を構えた。
柘植がオークと呼んだ魔物は以前に現れたコボルドと同じような体躯ではあった。しかし顔つきはまるでイノシシのようだ。ただコボルドと違うのは筋肉質な肥えた体躯に粗末な革製とみられる鎧をまとい、右手には打撃部分が球状のメイス(鎚矛)が握りしめられていたことだった。
「みんな下がれ」
オークが一体、魔方陣上で実体化すると最上が叫んだ。すると最上や柘植、蜂須賀が魔方陣付近から後退した。それに合わせて僕も魔方陣から後ずさりを始めた。
「お前まで下がったら誰が戦うのだ?」
最上の一喝によって僕は歩みを止めた。正面からはオークが一体こちらにゆっくりと近づいてくる。オークが手にしているメイスが不気味に黒光りしていた。オークの体格は僕と同じくらいだ。そしてその目は殺気に満ちていた。それは明らかに僕に向けられていた。
「これが魔物なのか」
間近で見る魔物は今までディスプレイで見てきたゲーム世界の魔物とは明らかに違う。まるで精巧にできた立体的なCGのようだ。オークが次第に僕に近づいてくるのが分かる。泥臭いようなオークの体臭が鼻をついた。
「源、何をしている。戦うのだ」
最上からの一喝に僕は我に返った。そのとき、すぐ目前にまで迫っていたオークが唸り声をあげながらメイスを高く振り上げた。僕は恐怖におののきながら火炎放射器のトリガーを引いたのだった。
※【Kindle版】電子書籍『 ファクトリー・ウォーズ ① ~美魔女と魔界の異物たち~ 』の限定公開はここまでです。
ご愛読、ありがとうございました ♪
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。