クローズアップ現代

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No.33812013年7月17日(水)放送
世界を監視するアメリカ ~”スノーデン告発”の衝撃~

世界を監視するアメリカ ~”スノーデン告発”の衝撃~

世界を監視する米国 “スノーデン告発”の衝撃

入り口も、館内も長蛇の列。






アメリカ・ワシントンにある、スパイ博物館です。
世界の諜報活動の歴史を紹介する、この博物館には、スパイが使う盗聴器や変装グッズなど、さまざまなものが展示されています。
スノーデン氏の告発以来、情報機関の活動に関心が高まっています。



女性
「自分の電話のデータが見られているなんて、怖いわ。」





男性
「情報が誤って使われる可能性のほうが、ずっと高いと思うよ。」




NSA=国家安全保障局の諜報活動に携わっていたスノーデン氏は、衝撃的な実態を告発しました。



エドワード・スノーデン氏
「私には、誰でも盗聴できる権限がありました。
あなたや、あなたの会計士、連邦判事、それに大統領さえも盗聴できます。
このようなやり方が正しいかどうか、国民が判断すべきだと思ったのです。」


これは、スノーデン氏が暴露した、NSAの活動についての機密文書です。
NSAが、民間のインターネットやIT企業の協力を得て、個人情報を収集していることが記されていました。




世界最大の情報機関、NSA。
海外の通信の傍受や分析を行い、3万人が働いていると言われています。





旧日本軍による真珠湾攻撃を未然に防げなかったことを教訓に、1952年、盗聴などを行う政府機関として、トルーマン大統領の下で設立。
当初は、存在そのものが秘密にされていました。
その後も、詳細な活動内容については、ほとんど明らかにされてきませんでした。

NSA元幹部が語る 米 情報機関の実態

NSAは、どのように情報を収集し、それをどのように使っているのか。
NSAの元幹部ウィリアム・ビニー氏です。
今回、取材に応じ、その実態を語り始めました。

NSA元幹部 ウィリアム・ビニー氏
「重要なのは、われわれの活動を秘密にしておくことでした。
秘密の命令が出され、その秘密を守らなければなりませんでした。」


ビニー氏は1990年代、インターネットが急速に普及する中、盗聴に代わる、新たな監視システムの開発に取り組んでいました。

NSA元幹部 ウィリアム・ビニー氏
「世界中に飛び交っているデータは、数千テラバイトという規模です。
それをどのように集め、分析するのか。
そして、その中から、必要な情報をどのように整理し、選び取るのか、それが課題でした。」

2001年の同時多発テロ事件。
これを未然に防げなかったことが、NSAのその後の情報収集の方向性を決定づけました。

NSA元幹部 ウィリアム・ビニー氏
「恐怖、パニックでした。
アメリカ本土で起きた真珠湾攻撃を防げなかったのです。
そのときから皆、口々に、すべての情報を集めなければと言い始めたのです。」

テロを防ぐには、世界中、すべての通信情報を監視する必要がある。
そこでNSAが目をつけたのが、メタデータと呼ばれるデータです。
あるテロリストを追跡するとします。
その人物が電話をかけた場合、その通話の中身ではなく、何時に、どこから、どの番号に電話をかけたのかに注目します。
これが、メタデータです。
パソコンでメールを送った場合には、メールの中身ではなく、時刻や相手先のアドレスなど、ATMから現金を引き出した場合には、時刻や場所など、さまざまなメタデータを集めます。
通信の中身そのものを見るよりも、メタデータを収集することで、被疑者の行動範囲や、連絡をとる相手が浮き彫りになり、テロ組織の発見につながるというのです。

NSA元幹部 ウィリアム・ビニー氏
「メタデータのおかげで、私たちは、データの中身を一つ一つ調べなくてもよくなりました。
いったんメタデータを分析してしまえば、世界の人々の行動がどう関係し合っているか分かるからです。」

世界中の情報を得るために、NSAは、アメリカを中心に張り巡らされているインターネットの通信網を利用しています。
世界中の電話や通信データの80%以上は、海底の光ファイバーケーブルを通って、アメリカを経由する仕組みになっています。
NSAは、アメリカ全土のおよそ20か所に傍受を行う拠点を設け、データを収集しています。


さらに、この光ファイバーのネットワークでカバーしきれないデータは、大手インターネット企業から直接、入手するようになりました。
これが、スノーデン氏が告発した監視システム、PRISMです。
こうしてNSAは、世界の通信データのほぼ、すべてを入手できるようになったというのです。

NSA元幹部 ウィリアム・ビニー氏
「企業に対して、加入者のデータが欲しいと言うだけで、入手することができます。
どこへ行こうとも、あなたはNSAから逃げることはできないのです。」

アメリカ西部のユタ州です。
ここで、NSAの極秘プロジェクトが進められています。

10万平方メートルの敷地に姿を現した、巨大な建物。
およそ1,700億円かけて整備する、最新のデータセンターです。
全世界の通信データ100年分を保存できるとも言われています。
長年、NSAの活動を取材してきた、ジャーナリストのジェームズ・バンフォード氏です。
NSAのねらいは、世界中から集めたデータを将来にわたって、いつでも解析できるようにすることだといいます。

ジャーナリスト ジェームズ・バンフォード氏
「NSAは、世界中に傍受システムを構築しましたが、その膨大なデータを蓄積する場所がありませんでした。
これまでにないほど、多くの保存ができる場所が必要となりました。
ユタのデータセンターは、いわばNSAの外付けハードディスクなのです。」

世界を監視し続けるNSA。
その情報収集は、空前の規模で拡大を続けています。

世界を監視する米国 “スノーデン告発”の衝撃

ゲスト土屋大洋さん(慶應義塾大学教授)

●アメリカは、どこまで情報収集が可能になっているのか?

全世界すべてっていうのは、若干、大げさだと思うんですね。
アメリカがアクセスできるネットワークから取れるということは、そのとおりだと思うんですけれども、例えば、日本の中だけで完結している通信だとか、あるいは日本と直接つながってる国と国との間の通信というのは、なかなか事業者の協力がないと、取れないわけですね。
ただ例えば、パキスタンとかアフガニスタンにいるテロリストが、ロンドンと連絡をとりたいといったときには、中東のほうを回らないで、アメリカを通っていってしまうことが多いわけですね。
そうすると、アメリカにとっては、それは有用な情報だ、そういうものも含めて、できるだけ取りたいというのが、アメリカの考えなんですね。

●“メタデータ”を集めることは有用?

中身のほうが、われわれは一見すると、有用じゃないかと思いがちなんですけれども、これを世界中からたくさん集めてしまうと、やっぱり解析に時間がかかっちゃうわけですね。
それを、中身の本当の判断をするには、人間が介さないといけない。
でも、メタデータというのは、数字とアルファベットで来ますから、コンピューターで処理しやすいわけですね。
この人が疑わしい人だ、この人は、この携帯電話の番号を使っている。
それを検索してみると、パッと出るわけですね。
じゃあ、この番号は、この電話と長いこと話をしている、よく電話をかけている。
じゃあ、その相手の人というのは、どことつながってるんだろう、こういうふうに芋づる式にネットワークが見えてくる、その人の行動が見えてくる。
ここでお金を下ろした、ここで飛行機に乗ろうとしてる、そういうことが全部見えちゃうんですね。

●実際に成果が上がったケースは明らかになっている?

例えばですね、オサマ・ビンラディンですね。
彼のアルカイダのネットワークというのがあったわけですけれども、この幹部たちを捕まえていくときには、この通信傍受というのが非常に役に立ったんですね。
それが分かったものですから、途中からオサマ・ビンラディンは、電子通信というのは一切使わなくなったわけですね。
ところが、彼のメッセンジャーをしていた、人間を使って通信を、メッセージを伝えてたわけですけれども、その人の携帯電話番号が分かったので、最終的に追い詰めることができたわけですね。
そういう意味では、非常に有用なツールだというふうに思います。
今回、アメリカ政府は、テロを50件止めたと言ってるわけですけれども、正確な数字ではないと思いますが、今まで手の内を明かせなかったわけですけれども、今回、言わざるをえなくなって、成果が上がっている。
でも、成果が上がってるってこと自体、ある種、秘密だったわけですね。

●アメリカ政府は大きな衝撃を受けている?

そうですね。
いわゆるスパイ活動っていうのは、昔は人間を使っていたわけですね。
CIAですね。
CIAは、人間のスパイを世界中に送り込んで情報を集める、ということをやってました。
ところが今、アメリカは世界中から反発を受けてるものですから、なかなかアメリカのために働いてくれる人がいない。
外国人で、いないわけですね。
じゃ、アメリカの中に外国語、アラビア語、インドネシア語を話せる人がどれぐらいいるか。
そこが問題なわけですね。
じゃあ、人工衛星で見ようといっても、もうその人工衛星が飛んでくることを前提に、工作をいっぱいしてるわけですね。
そうしたときに、やっぱり通信というのは、非常に大きな、有用なツールだった。
でも、そのやり方というのが今回、世界に暴露されてしまったという面では、アメリカにとっては、大きな痛手だと思いますね。

●一般市民からの反発は大きいのでは?

特定の疑わしい人については、そういう情報は集めているだろうということは、みんな想定していたと思うんです。
ただ、今回の分かってきたことというのは、もう底引き網のように、ザーッと全部持っていってしまっているわけですね。
持っていったあとに、そこから検索をして探そうというのは、やっぱり一般の人たちは、なかなか想定していなかった事態じゃないかと思います。

“スノーデン告発”の衝撃 反発する市民たち

市民
「監視をやめろ!」

今月(7月)4日、アメリカの独立記念日に、300人以上の市民が集まり、NSAの情報収集に対し、抗議の声を上げました。



市民
「私たちの人間性が奪われてはなりません。
NSAの横暴を、これ以上許すわけにはいきません。」




市民
「政府が、われわれのデータを盗むことができるのはおかしいですよ。」




市民
「民主主義が失われています。
自由が奪われているのです。」




これまで極秘に行われてきた、NSAの大規模な監視活動。
スノーデン氏の告発によって、政府も、その事実を認めざるをえなくなりました。

オバマ大統領
「100パーセントの安全と、100パーセントのプライバシー尊重は両立しない。
監視活動は、きちんと法令を順守しながら行っている。」

権限を拡大してきた 米 情報機関

NSAによる大規模な監視活動に事実上、法的な根拠を与えたのが、2001年、同時多発テロ事件直後に成立した、愛国者法です。
この法律により、NSAは、通信会社から情報を入手する強い権限を与えられました。
さらに、アメリカの一般市民の監視も、実質的に認めるようになりました。
ただ、こうした権限を行使するためには裁判所の命令が必要でした。


しかし2008年、ブッシュ政権の下、法律が改定。
裁判所の命令なしで、情報を入手することが認められました。
ついにNSAは、みずからの判断だけでも、世界中の個人情報を収集することが可能になったのです。



NSA・国家安全保障局 アレキサンダー長官
「NSAの監視活動によって、これまで世界20か国・50の案件で、テロリストを暴くことができた。
国家の安全は、われわれ情報機関の地道な努力の結果だ。」

拡大する監視活動 アメリカはどこへ

アメリカの最新の世論調査によると、情報収集活動によるテロ対策について、45%が行き過ぎていると答える一方、40%が不十分だと答えており、評価は二分されています。
しかし、監視活動の対象がテロリストや犯罪組織にとどまらず、疑われれば、一般市民にまで広がっていくという懸念も出ています。
死刑制度に反対する活動を行ってきた、マーティーン・ズンマニスさんです。
NSAに自分の生活が監視されていたのではないか、と疑っています。

ズンマニスさんは最近、人権団体の調査によって、自分が以前、警察の監視対象だったことを知りました。





マーティーン・ズンマニスさん
「ここに、私の名前があります。」




マーティーン・ズンマニスさん
「私をテロリストと一緒にするなんて、ものすごくショックです。」

警察の監視内容は、NSAにも報告されていたと、ズンマニスさんは人権団体から聞きました。

マーティーン・ズンマニスさん
「NSAは、私を監視していたと思います。
スノーデン氏が気付かせてくれました。」

NSAの監視対象の広がりに歯止めをかけようとしてきた、NSAの元幹部がいます。
2001年から、NSAで情報収集システムの開発に携わった、トーマス・ドレイク氏です。
NSAによる個人情報の収集に反発し、議会やメディアへの告発に踏み切りました。

NSA元幹部 トーマス・ドレイク氏
「すべての情報を収集する白紙の令状が、NSAに与えられていました。
アメリカ国民も、外国人も関係なくです。
私は、黙って見逃すことはできないと思いました。」

しかし、告発を続けるドレイク氏に対し、政府は機密情報を持ち出したことなどを理由に、10の容疑で訴追しました。
ドレイク氏の声を封じ込めようとした、アメリカ政府。
ドレイク氏は、自由の国アメリカの先行きに危機感を抱いています。

NSA元幹部 トーマス・ドレイク氏
「政府は、真実を話す者を脅すだけではなく、犯罪者として訴追したのです。
われわれは、監視国家を止める必要があります。
それは公共の利益にならず、民主主義に反することです。」

拡大する監視活動 アメリカはどこへ

●情報収集活動によるテロ対策 きっ抗する市民の声をどう見る?

やはり、まだ9・11の記憶というのは、それなりに残っている、強く残ってるんだと思うんですね。
その9・11のあとも、例えば、ニューヨークのタイムズスクエアに爆弾を満載した車が止まっているのが見つかったり、あるいは先日はボストンで、これは組織によるものじゃないですけれども、テロが実際に起きてるわけですね。
アメリカはそんなに安全じゃないって、まだみんな思っているわけですね。
そういったときに、こういったものは必要悪として、存在しなきゃいけないんじゃないかと思っている人が多いんじゃないかと思いますね。

●一般市民までNSAの監視対象 危うさもあるのでは?

本来は、警察と情報機関がやることというのは、分けて考えなきゃいけなかったわけですよね。
そこは、あまり情報を共有しちゃいけなかったわけです。
ところが9・11で、その情報共有が始まっていき、その結果、なし崩しになっているところがあるわけですね。
それは、この治安対策、テロ対策以外のところに広げていくというのは、明らかに違法で、これ、やっちゃいけないことで、これは止めなきゃいけないわけです。
でも、それがもし本当にそういうふうに広がってるんだとしたら、それは本当にゆゆしき事態だと思いますね。

●NSAに歯止めをかけるシステムは作られていない?

いわゆるアメリカ政治の原則というのは、三権の総合チェックなわけですね。
そういう面では、行政府がこういうことをやったときに、立法府なり、司法府なりがチェックをしなきゃいけない。
本来は、その特別な裁判所があるんですけれども、ここは、ほとんどチェックができてなかった。
立法府はどうかというと、立法府は、ちゃんと事前に通知を受けてたわけです、こういうことやりますよというふうに、オバマ政権から言われていた。
ところが、非常に技術的な問題ですし、それを高齢の議員たちが聞かされても、よく分からないと。
ただ、これはとても重要で、これはあなただけに教える秘密ですというふうに言われると、うん、そうかそうかと言って、わりと簡単に流してしまったところがあるんだと思いますよね。
ここはやっぱり、もっと作り直していかなきゃいけないポイントだと思いますね。

●作り直していくうえでのポイントは?

やっぱり、この共有をするということは、行政府と立法府との間で共有するというのは、とても重要なんだけれども、でも、そこに本当に行き過ぎはないかということをチェックする。
そこに立法府の側も、例えば技術的な、そういうものを持った人たちをちゃんと抱えておくということですよね。
技術の特別な専門用語に圧倒されないようにするということが、重要だと思いますね。

●ユーザーとして、どう向き合うべきか?

やっぱり、自分が使ってるサービスは何なのかってことですね。
少なくとも、われわれには選択の余地が、まだまだあるわけですよね。
自分が使ってる事業者というのは、こういうことをやってるのか、やってないのか。
プライバシーポリシーは、どうなっているのか。
自分の情報はどこに保存されて、安全に守られているのか。
そういうことを確認、もう一度するってことが重要だと思いますね。

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