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志布志事件 教訓は可視化の拡大だ

 限度を超えた警察の取り調べの違法性を断罪した内容だ。

     2003年の鹿児島県議選をめぐり、起訴された12人の無罪が確定した志布志(しぶし)事件で、福岡高裁宮崎支部が、逮捕や起訴されなかったものの「違法な取り調べを受けた」とする住民6人の訴えを認め、595万円の支払いを県に命じた。双方とも上告せず、判決はこのほど確定した。

     志布志事件は、取り調べの録音・録画(可視化)の法制化が進むきっかけになった事件だ。今回の裁判所の判断を踏まえれば、任意の取り調べであっても、可視化の仕組みが必要だといえる。

     住民らの取り調べは、公職選挙法の買収などの容疑で行われた。

     「取り調べ中の交番の窓から外に向かって『2万円と焼酎2本をもらったが、それ以外はもらっていません』と大声で叫ばせた」「高血圧性脳症の疑いと診断されて入院したのに外出許可を取らせて連日の取り調べを強行した」「大声で怒鳴りながら机をたたくなどの取り調べを連日長時間繰り返し、入院を余儀なくさせた」−−。いずれも判決が認定した内容である。1審よりも違法な取り調べの範囲を広くとらえた。

     これは取り調べの名に値しない。住民が「人権侵害だ」と訴えたのもうなずける。結果的に、警察の見立てに沿う自白調書ができた。

     志布志事件では、逮捕や起訴された住民の裁判でも信じられないような取り調べが明らかになった。心理的に追い込むため、親族の名前などを書いた紙を取り調べ中に踏ませた「踏み字」もその一つだ。

     刑事事件は07年に無罪が確定した。無罪の住民と遺族が国家賠償を求めた訴訟でも「公権力をかさに着た常軌を逸した取り調べだった」と認定され、計5980万円の賠償を命じた判決が昨年確定している。

     今回の控訴審判決が確定し、志布志事件の裁判は、刑事・民事とも終結した。

     この事件で明らかになったのは、いったん捜査機関が事件の筋を見立てると、自白を得るために相当強引な取り調べをすることがあり得るということだ。なぜ捜査は強引に推し進められたのか。同じことを繰り返さないためにも、県警は住民らの意向を踏まえ、事件を検証して原因を明らかにする責任がある。起訴して公判を続けた検察の責任も大きい。

     5月に成立した刑事司法改革関連法では、捜査機関への可視化の義務づけを、主に裁判員裁判対象事件で身柄拘束中の容疑者に限定した。これは、全逮捕・勾留事件の3%程度にとどまる。だが、志布志事件の教訓を生かし、可視化の範囲はさらに広げていくべきだ。

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