米大統領選の投票日まで80日を切りました。世論調査では、ヒラリー・クリントン民主党候補がドナルド・トランプ共和党候補を大きくリードしていますね。よほどのことがない限り、クリントン氏で決まりとみていいのですか。
高濱 選挙予想で高い評価を受けているバージニア大学政治センター所長のラリー・サバト教授は8月18日の段階でこう予想しています。「クリントン氏は選挙人数で『確実』(当選圏内に入った数)と『優勢』(今少しで当選圏内に入る数)を合わせて348人を獲得している。これは過半数である270人を大きく上回る」
各種世論調査でもクリントン氏が5%前後、トランプ氏を引き離しています。
興味深いのはリバタリアン党のゲリー・ジョンソン大統領候補がなんと10%前後の支持率を確保していることです。選挙分析専門家の1人は筆者に「トランプにいや気がさした共和党支持者の一部がクリントンではなく、ジョンソンに流れている」と指摘しています。
前回、お話ししたトランプ氏に関する「人格障害説」や「突然撤退説」の影響を受けているでしょう。
("Latest Election Polls,"Real Clear Politics, 8/18/2016)
日本にとっては「一難(トランプ)去ってまた一難(クリントン)」
「トランプ大統領」の可能性が萎み始めたことで日本人はほっとしています。トランプ氏は、日本は防衛分担金を増加すべきとか、日米安保条約は再交渉すべきなどと打ち出していました。同氏が万一、大統領になったら日米関係はどうなるのか、といった懸念が広がっていました。 しかし「クリントン大統領」になっても一難去ってまた一難。クリントン氏は、12か国で合意した環太平洋経済連携協定(TPP)に反対しています。クリントン氏は、国務長官当時はTPP推進派だったんじゃないんですか。
高濱 その通りです。
クリントン氏は国務長官在任中(2009年から2013年まで)は、「TPPは自由貿易のゴールデン・スタンダード(黄金律)になる」とまで言っていました。<TPPを貿易の自由化度や規律の質の高い、最も理想的な基準にしたい>というのがクリントン国務長官の最終目標でした。
つまりクリントン氏は、オバマ大統領の最重要課題だった「アジア回帰」政策にとって、TPPは一つの柱、もう一つの柱は日米安保体制の深化、ということを十分理解していたのです。
国務長官に在任中、クリントン氏はTPPの重要性について記者会見や講演でなんと45回も言及していました。
("45 Times Secretary Clinton pushed the trade bill she now opposes," Jake Tapper, www.cnn.com, 6/15/2015)