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強くてニューサーガ 作者:阿部正行

第四章

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第四章ダイジェストその1

 人間領のほぼ中央に位置するエッドス国は 神秘と冒険者そしてドラゴンの国と呼ばれていた。
 深い森林を持ち、伝説の中にしか登場しないような幻獣が住んでいて、それを目当ての冒険者が集まり、そしてドラゴンが確認されている唯一の国、それがその名の由来だった。
 ガルガン帝国で行われた武術祭から三か月後、そのエッドスの首都リネコルに二つの目的の為にカイル達は来ていた。

「結局ほとんど何も解らなかったな……」
 カイルが愚痴るのは目的の一つ、メーラ教に関してだ。
 帝国で会い、カイルに接触してきたメーラ教がこの地でも何か活動をしていると聞いてきたのだが、まるでその動向を掴めなかったのだ。 

 仕方ないので気を取り直し、もう一つの目的を果たすことにする。

「『暁の火竜亭』……ここのようだな」
 そこは冒険者の酒場と言われる、文字通り冒険者たちの集う場所だった。

 カイルのこの国に来たもう一つ目的、それは『竜の巣』と呼ばれるドラゴンの住処に向かい、ドラゴンと交渉をする事だ。
 その為に道案内を頼むために、森に詳しい冒険者を雇うため『暁の火竜亭』に来たのだ。

 だがドラゴンにあうなど、常識から考えてありえない危険なことだし、最近一頭のドラゴンが活発に行動しているとのことで、高額の報酬を出したが反応は鈍かった。
 またダークエルフの自治領に、密猟者が入り込み荒らしている為にダークエルフがほとんど敵対状態になっているなことも教えられた。
 何よりも今のカイルは英雄になる為、人助けを無償で行うという言わば冒険者の仕事を奪う形で名声を高めていた為、冒険者達から評判が悪かったからだ。

 だがこれはカイルの予定のうちで、案内人はできれば欲しいということでしかなく、それ程期待してはおらず翌日にはキャンセルをしてしまう。

 その帰り、別行動をとっているミナギと路上で会い、ドラゴンと会うなど無茶だと咎められるが、カイルは止めるわけにはいかなかった。

「ああ、無茶かもしれないが無謀ではない。ちゃんと成功の見込みがあってのことだ」
 人族が滅亡寸前にまで追い込まれる『大侵攻』その際にドラゴンは魔族に味方していた。
 誇り高く、決して中立を崩さなかったドラゴンが何故魔族の味方をしていたか解らないが、それは人族にとって大きな脅威だった。

 幸い明らかにドラゴンは仕方なしに従っていると言う感じで積極性は無かったので助かったが、だからこそ今回は出来れば人族に味方を、せめて魔族に協力しないよう先に約束を取り付けたいのだ。
『魔法王』と呼ばれたシルドニアの本体はドラゴン達の長『竜王』ゼウルスと交流があり、話し合いには持っていけるとのことなのでそれをカイルはあてにしていた。

 そして『竜の巣』にはついて来ず、別行動をとるミナギにある事を頼もうとしたその時、切羽詰まったような声の少女に話しかけられる。
 革鎧の上に実用一点張りで丈夫そうなマント、頭は厚手の帯状の布を巻きつけて覆っており、ショートボウといわれる小型の弓と矢筒を背にしょっている典型的なレンジャー姿だ。
 少し幼いながらも顔立ちの整った美しい少女だが、芯の強そうな目でカイルを見ている。

 エリナと名乗ったカイルより少し年下くらいのその少女は、どうしてもお金が必要で自分を案内人に雇ってくれと必死なまでに売り込みをしてくる。
 周辺の詳しい地図を持っているのと、ダークエルフにも詳しいとアピールしてきてその熱意と、一目見た時からわき起こる自分も解らないエリナに対する妙な感情が気になったカイルが、エリナを雇うことに決めた。

 だが、予定外に雇った案内人が同年代の少女と聞いて、リーゼとウルザに疑いの目を向けられるのであった。


   ◇◇◇


 過酷な環境で有名なエッドスの森。
 念入りな準備と熟練者がいなければ、半日生き延びられたら奇跡、そう言われるほど危険な森だった。

 だが高価な、それこそ家でも立つような高価な魔道具を用意し、危険や不快さをカイル達は回避している。
 そして根本的にカイル達の実力も高く、軍の重装歩兵小隊でも全滅させかねない魔獣もカイルは一撃で倒す。
 更には、美味しいハチミツと欲しい言う理由だけで危険なキラービーという大型の蜂に襲い掛かるなど結構快適で充実していた。

 稼ぐために森に入る冒険者には決して真似できない、完全に採算度外視のカイル達にエリナは言葉を選びつつも呆れていた。


   ◇◇◇


 その日の夜、こういった野営の場では大抵保存食しかないがないが、リーゼの努力のおかげで旅の最中カイル達が食事の質に困る事は無かった。
 更には昼に狩ったワイルドボアという小山の様な猪の魔獣の肉を鍋にしたり、高級食材のハチミツを使ったりと、むしろ非常に豪華な食事になっていた

 無論警戒を怠っているわけではないが、魔獣を寄せ付けないよう結界も張ってあるので、その場は死と隣り合わせの森とは思えない賑やかな雰囲気が漂っていた。

 食事を終えた後、この森についての雑談をした後、今後の予定を話し合う。
 エリナが言うにはやはり警戒しているダークエルフ達を避けるには大きく迂回していかなければならないとの事で、時間がかかるとの事だ。
 ドラゴンが活発に行動しているとの目撃情報もあるので、できれば急いでいきたいところだが、ダークエルフとトラブルを起こすのもまずい。
 どうしたものかと難しい顔になったカイルに、何か問題があったのかとエリナが心配そうな顔になる。

「……やはり迂回していく。ただしなるべく早く行きたいのでギリギリの所でお願いしたい」
 カイルの言葉にほっとしたかのような声を出してエリナが大きく返事をした。


   ◇◇◇


 深夜、どこまでも続く深い闇の中、時折遥か彼方から魔獣の雄叫びらしき聞こえる以外は静寂に包まれており、焚火のパチパチという音が妙に響いていた。
 結界を張ってあるとはいえ不測の事態が起こる場合があるので、交代で見張りを行っており今はカイルとリーゼが見張りをしており、他の四人は寝入っている。

 焚火を挟んで向かい合い、いつも通りの他愛ない会話を続けていたリーゼが、少し改まったかのように話しかけてくる。
 内容はのエリナのことで、お金を欲しがっている理由を聞いたのかということだった。
 ひどく気を使っているのが手に取るようにわかり、気になっていたのだ。

「……まあ、あまり立ち入ったことを聞くのもな。何らかの事情があるのは間違いないだろうが金が必要な理由なんて人それぞれだ。もしかしたらそれが彼女にとって踏み入れられたくない領域かもしれないし……エリナの案内は問題ないどころか的確で助かっている。終わったあと依頼料を払えば問題ないだろ」
 カイルは自分に言い聞かせるようにわざと少し冷淡気味に言った。

 自分でも理由はわからないが、エリナのことが妙に気になっているのは自覚しており、これが所謂恋愛関係なのかただの同情なのか判断がつかないので、エリナとは雇用関係のみと自分で線引きして、これ以上立ち入らないようにしているのだ。
 何よりこれ以上深入りするのはリーゼに対し後ろめたさを感じたからだろう。
 そんなカイルの内心を知ってか知らずか、リーゼは一応納得するが、目つきは少し不審げだった。

 そのまま二人の間に沈黙が流れ、カイルはその気まずい空気を打ち消すかのように、日ごろ言えなかったことを口にする。

「な、なあリーゼ、そのなんだ……いつもありがとうな」
 お礼を言われたというのに、むしろ驚いたかのような反応をするリーゼ

「いやお前が色々とサポートしてくれているおかげで、旅が何とかなっているからな……」
 これまで旅を快適に過ごせているのは、リーゼが旅の最中の洗濯や料理、衣服のちょっとした繕いなどの雑事を一手に引き受け、完璧にこなしてくれているおかげで、特に毎度の食事などは楽しみになるくらいだった。
 そんなカイルにはにかんだ笑顔でリーゼが応える。

「感謝してるんだぜ本当に……リーゼだけでなくウルザやついでにセランにも……俺の我侭に付き合ってくれてるんだからな」
 感謝の言葉を述べながらもカイルの顔に少し影が差す。

 カイルの悩みそれはこれ以上リーゼ達に負担を強いていいのか、巻き込んでいいのかということだ。

 勿論このまま放置すればいずれ起こる『大侵攻』により人族は滅びリーゼ達の命もない。
 だがだからと言って命の危険のあるこの旅につき合わせてもいいのか、本末転倒ではないかと自問自答することがあるのだ。

 ならばいっそのこと真実を、自分が人生をやり直していることを話してしまおうかとも考えるが、まだ踏ん切りがついていなかった。

(俺は……リーゼに何をしてやれるんだろうか? どうやって報いればいいのだろうか……)

 カイルが考え込んでしまうと、何かを感じ取ったのかリーゼが立ち上がり近づいてくる。
 そのまま無言でカイルの隣に座ると、リーゼが身体をあずけてきて、何があろうと側にいる、そう言った。

 カイルが何を悩んでいるか、リーゼは正確には解っていないだろうが少し弱気になっているのはよく解り、それに対し自分の出来ることをしたのだ。
 何ががあろうとも一緒にいると言うことを。

 リーゼの気持ちが伝わってきたカイルは、もしここが野営の場でなければ、視界の範囲内に皆がいなければリーゼのことを思いっきり抱きしめていただろう。
 代わりにカイルは肩に乗ったリーゼの頭に手をやり、気持ちを込めて髪をそっと撫でると、リーゼはまるで猫のように気持ちよさそうな吐息を漏らした。



 その後もカイルはリーゼを撫で続け、そのいちゃつき(・・・・・)は見張りの交代で起きたセランに見られ、思いっきりからかわれるまで続いた。

 翌朝妙に機嫌のよいリーゼと、微妙に不機嫌そうなカイル、何故か負傷していながらもにやついて二人を眺めているセラン達三人を見て、首を傾げるウルザだった。


   ◇◇◇


 二日後の間も無く昼になる頃、カイル達は丈の短い草に覆われた湖の湖岸に出た。
 一休みの場とに丁度よく、カイル達は昼食をとりながら、地図を広げこれからの進路について打ち合わせをする。 
 ここからしばらく湖岸沿いに進みその後山越えでになるとの事だ。
 地図上の道筋は湖に沿って大きく迂回していて、これは対岸だと稀にダークエルフがいる場合があるとのことで大きく迂回しているのだ。

 その時エリナが弾かれたように振り向き、鋭い視線を対岸に投げかける。
 かなりの距離がありほとんど点にしか見えず、カイルやセランでさえも気付かなかったが確かに何か動いていた。
 エリナが小声だが鋭く警告し、カイル達は素早く反応しその場に伏せた。

「ダークエルフか?」
 伏せながらカイルが尋ねるエリナが肯定するが、まだ気づかれた様子は無いのでこのまま大きな音や声を出さなければやり過ごせると言った。
 だがそのタイミングで花摘みに行くと、離れていたウルザが満面の笑みを浮かべ、美味しい木の実を見つけたと大声で駆け寄ってきた。

 すぐに事情を察知したウルザが慌てて口を押さえるが、これ以上伏せていても意味が無いのでカイルが立ち上がる。

 状況を理解したウルザが、頭を抱え落ち込み嘆いているが、今はそれに構っている暇はなかった。
 本来なら湖を挟んでいるのですぐに立ち去れば逃げきれそうなものだが、相手はまっすぐこちらへと最短距離で向って来ているのだ。

 澄んだ湖面の上を波紋をおこしながら、普通の馬の何倍もの速さで駆けてくる一角獣――ユニコーンにリーゼが目を奪われる。

 そうこうしているうちにユニコーンと、その背に乗っているダークエルフの女性は、はっきりと見えるところまでやってきた。
 ユニコーンの疾走する姿は、人間の手では決して作り出せない自然の美ともいうべきしなやかな躍動美を全身で表しており、その目には普通の馬には無い知性をはっきりと感じさせていた。

 ダークエルフは人間ならば二十代前半くらいで、闇に近い褐色の肌とは対照的に透き通るような銀髪で、顔はきつそうではあるが美人である部分をのぞいてエルフと変わりなかった。
 その手には複合弓と言われる大型の弓を持っており、騎乗していると言うのにまったく体幹をぶれさせないその構えは、こちらに狙いをつけていると言うのに思わず見惚れてしまう程に様になっていた。

 ユニコーンの白と、ダークエルフの黒というそのコントラストは一枚の絵画のように美しさを栄えさせていた。

 矢を向けたまま、ここで何をしていると敵意を漲らせた鋭い詰問の声を出すダークエルフ。
 だがカイルが何か答えようとする前に、ユニコーンが遮るかのように流暢な言葉で喋りだし、パセラネと呼ばれたダークエルフの女性が止める間も無く、こちらに駆け寄ってきた。

 ユニコーンは風のような速さで一気にリーゼの目の前まで来る。
 互いの息がかかるのではないかと言う距離までつめ寄られたリーゼは目を丸くするが、ユニコーンは親しげに自らをロアスと名乗り話しかけてくる。
 その次にロアスはウルザにも話しかけるなど非常に親しげだが、それはあくまでリーゼ達のみで、カイルやセランは完全に無視しているどころか、存在そのものを認めていないかのように振る舞っている。
 その様子をみてシルドニアが呆れ気味に、ユニコーンは人族の乙女、即ち処女にのみ心を開くと説明する。
 なんとか復活したウルザも、要するにユニコーンは極度の女好きだ、と身もふたもなく言う。

 幼い頃みた絵本でユニコーンに憧れを持っていたリーゼはセランみたいだと大きく落胆した。
 その間も馬上のパセラネが必死に離れるように命令するが、ロアスは意に介す様子は無かった。

 ここでセランがリーゼだけでなくウルザも処女だったのか、といつも通り余計な事を言い、容赦ない制裁を二人から受ける。

(愚かな……まあ、ウルザが処女なんて解っていたことではあるがな……)
 目の前の惨状を見てさすがに声に出さずカイルが思う。

 前の人生での魔王との最終決戦前夜、カイルはウルザと結婚と同意義である【契約の応用】を行い、その時ウルザの真名を知り生き残ったら残りの生涯を一緒になろうと誓ったのだ。
 その時にウルザが乙女だというのをカイルは身をもって知った。
 結局その約束はウルザがカイルを庇い、目の前で消滅したことにより果たされることはなかった……

(……今考えてみれば決戦前夜に結婚の約束なんて、思いっきり悲劇の英雄譚の主人公だな……)
 そんな取り留めの無いことを考えつつカイルはウルザを見ていた。


 そうこうしているとロアスが、固い表情のまま一切口を挟まなかったエリナに久しぶりだなと、話しかける。
 ロアスの声はそれまでと変わらず、馴れ馴れしいまでに親しげだが、今までにないどこか優しげな響きを感じさせた。

 パセラネもまたぶっきらぼうに、何をしに戻ったとわざと感情をこめないかのようにエリナに聞く。
 この言葉にウルザは、エリナがダークエルフのハーフだと気付き驚きの声を上げた。


   ◇◇◇


 完全に確信したウルザの物言いに、エリナは固い顔をしたままそっと頭を覆っていた帯布を取る。
 するとパセラネと同じ銀髪、そして押さえ込まれていた耳が表れる。
 人間とは明らかに違う、だがウルザやパセラネ程長いわけでもなく、丁度人間とエルフ中間辺りの長さで、それはハーフエルフ特有の耳と一緒だった。

 違う種族の人族で子供を作れるのは人間とエルフ、またはドワーフだけだと言うのが一般の定説で、それ以外は確認されていない。
 もっともダークエルフは他種族がその姿を見ること自体全く無いと言っていいほどなので、前例がなかっただけかもしれないが。

「もしかして元々はダークエルフ達の所に住んでいたのか?」
 カイルの問いに二年前まで住んでいたということで、通りで地図を持っていたり、詳しい訳だと納得した。

 どうやらパセラネが問答無用で攻撃しなかったのはエルフがいたのと、顔見知りがいたからのようだ。
 追放された身で何をしに戻った、その者達は何者だ、まさか密猟者でその手引きかとまくしたてるパセラネ。
 すでにダークエルフにもユニコーンにも密猟の被害が出ており、気が立っているロアスがすまなそうに、そして悲痛さを滲ませてエリナに説明をする。

 これにはエリナも驚いた。
 この森はダークエルフ達の庭と言って良く、そこに進入して、ダークエルフを害することが出来るなど通常では考えられない。
 だと言うのに短期間にそこまで被害が出るほど密猟者達に好き勝手されている、それがパセラネの苛立ちの原因なのだろう。

 ここで困った顔をしたエリナはちらりとカイルを見る。目的地を言っていいかと尋ねているのだ。
 それに対しカイルは小さく頷いき、エリナは『竜の巣』に向かう案内だと告げる。
 母のルクテラが病気でその治療に大金が必要だとも言うと、パセラネが顔をしかめるが、同時にカイルも驚きの表情を浮かべかける。

 ロアスが最近のドラゴンの動きと関係があるのか聞いた事から、ダークエルフ達もドラゴンの同行は掴みかねているようだった。
 ここでパセラネはもういいとばかりに話を切り上げ、密猟者に関係ないのならとっとと立ち去れと強く警告する。
 ロアスはユニコーンの角にある癒しの力をルクテラに仕えない事を詫びて、パセラネと共にその場から去った。

 パセラネとロアスがいなくなった後、エリナから自分の生い立ちの説明があった。
 冒険者だった母のルクテラが森でダークエルフの父と会い、恋に落ちたらしい。
 父親はダークエルフの中でも一番の弓の名手で最も強かったそうで、だからこそ人間との結婚も黙認という形で許され、自分の力が及び目の届く範囲に妻子を住まわせたとの事だ。
 森での生活は色々と大変なこともあったが両親がいてくれたおかげで、辛くは無かったが二年前に父親が亡くなり、そのまま住み続けるのは難しくなったので人間の街であるリネコルに行き、生計を立てる為に母子で冒険者をしていたと言うのだ。
 だがルクテラが重い病になり、その治療に多額の金が必要となり、困り果てていた時にカイルが破格の依頼料で案内人を探しているのが偶然耳に入り、飛びついたとのことだった。

 そこでエリナは心配そうに黙って聞いていたカイルを見る。
「……大丈夫だ、ギリギリの所を行ってくれと指示したのは俺だから、この遭遇で責任をどうこう言うつもりは無い。それにハーフだと言う事は依頼にはまったく関係ないから気にしなくていい」
 カイルが優しい声で言うと、本当にほっとしたように、眼に涙を浮かべながらエリナが礼を言った。

(そうか、ルクテラの娘か……そう言われれば確かに似ているな)
 よく見れば確かに母親の、前世において仲間であったルクテラの面影があった。
 そう言うことかカイルが納得する。ずっと感じていた言葉に出来ない感情、それはエリナ本人にではなくその母への負い目(・・・)だったと解ったからだ。


 弓の名手であるルクテラは魔族との戦いで共に最前線に出て戦っていた仲間で、カイルは彼女のおかげで命を救われたこともあったくらいだ。
 だがカイルは魔族との戦いの末期、孤立してしまった彼女達の部隊を救援に出ても無駄、むしろ本隊にも被害が出ると彼女を、ルクテラを見捨てたのだ。
 仕方なかったことだし、被害を広め無い為にも結果的にはそれが正しかったことだとはっきりと解っている。


(だが、それでも見捨てた事には変わりないな……)
 だからこそ、今度は助けたかった。

「エリナ、安心していい、ルク……君のお母さんの病気だが、俺達が力になる」
 優しい言葉のカイルにエリナは、父が死に心のよりどころと言うべき母の為に必死に頑張り張り詰めていたのが、解きほぐされたのか大粒の涙を流しながら何度も礼を言った。

(しかし……ルクテラが生死をさまよう病だと? そんな素振りは無かったはずだが……)
 心のどこかに引っ掛かるものを感じつつ、カイルは『竜の巣』に向け出発した。
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