ポケモンGOの配信元が提供するゲームアプリ「イングレス」。現実世界の史跡などを訪れることで進行するこの位置情報ゲームが、献血者を増やした。社会的な課題の解決につながるという、位置情報ゲームが潜在的に持つ大きな可能性を示している。
*当連載は、日経ビジネス2016年8月22日号特集「世界を変えるポケモンGO これから起こる革新の本質」との連動企画です。
7月22日に日本で配信され、ブームとなったスマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」。ゲームを使って人を目的の場所に移動させるという、このゲームが持つ特性を事業や地方活性化に役立てようとする動きが進んでいる。可能性は未知数だが、先を占う事例は既にある。
ポケモンGOを開発・配信する米ナイアンティックが、配信している位置情報ゲームアプリ「Ingress(イングレス)」だ。
イングレスでは、ユーザーが現実世界の建造物や史跡などを「ポータル」として登録し、そこにほかのユーザーが訪れることで、ゲームが進行していく。ユーザーは2つの敵対するグループのどちらかに所属して陣地を広げていくという、いわば「陣取りゲーム」だ。イングレスで登録されたポータルは、ポケモンGOのゲームでアイテムを集められたり、キャラクター同士を対戦させたりする場所として、活用されている。
イングレスは2013年に正式にサービスを開始し、現在、世界200カ国以上で累計1500万以上ダウンロードされている。愛好者が多く、日本でもローソンや伊藤園など、多くの企業が事業への活用方法を探っている。
こうした中、従来にはなかった新しい“集客”効果を生んでいるのが、献血だ。
ゲームを通じて17年ぶりに献血
日本赤十字社は2015年から、一部の地域で、イングレスのユーザーが献血に協力するイベント「Red Faction(レッドファクション)」をサポートしている。イベントでは、イングレスのユーザーが、献血ルームや献血バスをポータルとして登録し、そこを回って陣地を広げたり、グループの献血者数を競ったりする。献血の受付では、記念のオリジナルカードやバッジを配布することもある。
「17年ぶりに献血しました」「実は初めての献血です」「これからは献血を習慣にしたいです」──。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には、そんなユーザーの投稿や献血している様子の写真などが上がり、献血者の新規開拓やリピーターの掘り起こしにつながった。献血には協力できなくても、献血ルームを訪れて募金に協力するユーザーもいたという。
実際、2015年6月に関東甲信越エリアで開催したイベントでは、358人ものユーザーが献血をした。
献血と言えば、献血ルームの近くで、必要な血液型の人数を掲示し、スタッフが協力を呼びかけるというのがよく見られる光景だ。献血ルームではお菓子や飲み物などを用意したり、ネイルサービスやマッサージといったイベントを行ったりして、リピーターを増やす工夫もしている。
だが、若年人口の減少などによって、献血者数も減少傾向だ。今から20年前の1996年には600万人を超えていたが、2014年には500万人まで落ち込んでいる。