最新記事

インタビュー

【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

A Responsibility for the Future

2016年8月6日(土)06時02分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

――あなたは何らかの結論に達したのではないでしょうか。ここでその内容を話してもらわなくてもいいですが。

(ため息をついて)同じことを言うようだが、本当のところを知ることはできないと思う。現実として原爆は落とされたのだから。そして、戦争は終わった。仮に私の祖父が「原爆は使わない」と言っていたら、あれほど早く戦争が終結したかは分からない。おそらく、とか多分という話しかできない。

 原爆が戦争終結を早めたことを示す、私がみるところ説得力のある証拠はある。それは、その反対(原爆を使っても戦争終結の時期は変わらなかったこと)を示す証拠よりも説得力があると思う。

 ただ私がこう話すときも、日本人や広島と長崎の人々への敬意を忘れているわけではない。結果をてんびんに掛ければ、原爆が戦争終結を早めたという説のほうが有力に見えると言っているだけだ。それも、本当のところは誰にも分からない。

――それでも、後から振り返って、原爆投下が正当だったか否かという議論はあるのではないでしょうか。

 原爆という爆弾を使ったことを正当化できるかどうか、か。あれは戦争だった。(連合国でも枢軸国でも)人々は市民を攻撃する行為を正当化できると思っていた。当時行われたことのすべてについて、多くの「正当化」がなされた。原爆ほど残虐なものはないと言う人もいるが、残虐な行為はほかにもたくさんあった。東京大空襲で放射能の被害はなかったが、死者数は広島に匹敵する。どれも最悪の出来事であり、どれも正当化することはできない。

――広島と長崎への初訪問の前後で、原爆への見方は変わりましたか。

 変わっていない。そこに行ったとき、私は原爆が戦争を終結させたか否か、正当な行為だったか否かについて語ることをやめた。

 訪問の目的はただ1つ、被爆者の話を聞くことだった。亡くなった方々に敬意を表し、生存者の話を聞く。目的は癒やしと和解であり、原爆使用の是非を議論することではない。

――そもそもなぜ、2つの都市を訪れようと思ったのですか。

 祖父の行いを見たからだ。祖父は1947年にメキシコを公式訪問した際、その100年前の1847年にメキシコ対アメリカの戦争(米墨戦争)で亡くなったメキシコ人士官候補生6人の墓に花輪をささげた。アメリカ人記者が祖父に「なぜ敵をたたえるのか」と尋ねたら、祖父は「彼らに勇気があったからだ。勇気に国境は関係ない。勇気がある人なら、どこの国の人だろうがたたえるものだ」と答えた。

 同じようにヒロシマとナガサキでも、苦しみに耐えて体験を語る勇気は、国とは関係なくたたえられるべきものだ。

 ヒロシマとナガサキについて書き始めた私は、バランスに気を付け、米兵の体験についても語るようにしてきた。ある米海兵大尉は長崎への上陸計画に関わっていたが、計画を実行すれば日本軍の反撃に遭って仲間の多くを失うと思い悩んでいた。だから長崎に原爆が投下されて戦争が終結したとき、彼らは皆安堵した。

 しかし終戦直後に長崎に入った彼らは、破壊された光景を目の当たりにして大きな心的ダメージを受け、平静ではいられなかったという。これこそが人間的な反応だと思う。生き残ったことに安堵するが、ひとたび生き延びたら、相手に何が起きたかを知り、感情移入をする。そうあるべきだと思う。

【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(後編)に続く

[2016年5月31日号掲載]

ニュース速報

ビジネス

米7月中古住宅販売3.2%減、予想を超える落ち込み

ビジネス

財務省、国債利払いの積算金利0.4%引き下げ=17

ビジネス

インタビュー:-ドイツ各行の預金手数料検討に理解=

ビジネス

日銀、成長支援目的のドル資金供給を10月に追加実施

MAGAZINE

特集:世界が期待するTOKYO

2016-8・30号(8/23発売)

リオ五輪の熱狂は4年後の東京大会へ── 世界は2020年のTOKYOに何を期待するのか

人気ランキング

  • 1

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 2

    オリンピック最大の敗者は開催都市

  • 3

    イタリア中部地震で37人死亡、市長「生き物の気配がしない」

  • 4

    イタリア中部M6.2の地震で少なくとも6人死亡、建物損壊で住民が下敷きに

  • 5

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 6

    氷河を堰き止めている棚氷が崩壊の危機

  • 7

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 8

    実情と乖離した日本の「共産主義礼賛」中国研究の破綻

  • 9

    自衛隊、安保法制に基づく駆け付け警護など「集団的自衛権」の訓練開始

  • 10

    テスラ、大容量充電池を発表 世界最高の加速力と航続距離500kmを実現

  • 1

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 2

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 3

    競泳金メダリストの強盗被害は器物損壊をごまかす狂言だった

  • 4

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 5

    オリンピック最大の敗者は開催都市

  • 6

    リオ五輪、英国のメダルラッシュが炙りだしたエリートスポーツの光と影

  • 7

    「ドーピング」に首まで浸かった中国という国家

  • 8

    リオ五輪でプロポーズが大流行 「ロマンチック」か「女性蔑視」か

  • 9

    希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか

  • 10

    中国を捨てて、いざ「イスラム国」へ

  • 1

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 2

    中国衝撃、尖閣漁船衝突

  • 3

    戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」

  • 4

    日銀は死んだ

  • 5

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 6

    【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

  • 7

    トランプには「吐き気がする」──オランド仏大統領

  • 8

    イチロー3000本安打がアメリカで絶賛される理由

  • 9

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 10

    競泳金メダリストの強盗被害は器物損壊をごまかす狂言だった

 日本再発見 「世界で支持される日本式サービス」
 日本再発見 「世界で支持される日本式サービス」
Newsweek特別試写会2016初秋「ハドソン川の奇跡
アンケート調査
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

小幡 績

日銀は死んだ

STORIES ARCHIVE

  • 2016年8月
  • 2016年7月
  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月