―それは日本のことですね。
伊勢崎 自国内に外国の軍隊が駐留していれば、いろいろな事件や問題が起きるのは避けられないことだし、それは基本的にどの国も同じです。これまで紹介してきた他国の地位協定も、そうした問題に直面し、国民が自ら声を上げ、国に働きかけることで改正を実現して、現在のような形になったのだということを忘れてはいけません。
もちろん、アメリカの立場で考えれば、地位協定が自国にとって有利な状況ならばそのまま続けるのが国益に一番かなっている。しかし、受け入れ国が声を上げればアメリカは耳を傾けざるをえないというのは、他国の協定改正の歴史からも明らかです。
―日本でそうした声が上がらないのはなぜでしょうか?
伊勢崎 おそらく、右にとっても左にとっても現状維持がみんな幸せなんです。その陰で沖縄の人たちが幸せじゃないというだけの話であってね。そう考えると、在日米軍基地を沖縄に集中させるという戦略は、本土の人間の目に触れないところに問題を持っていくという意味で、見事に成功していると思います。
それに、「日米地位協定はパンドラの箱だから絶対に開けちゃいけない」みたいなことを言う人の多くが、この不平等な協定に象徴される戦後のゆがんだ日米関係の上で既得権益を抱えている人たちですからね。絶対にそれを手放したくないのでしょう。
でも、日米地位協定の問題は、決して沖縄だけの問題ではないし、単なる裁判権や捜査権の問題でもない。これはもっと大きな、日本という国の主権に関する問題であるということを他ならぬ日本人自身がまず理解する必要があると思います。
そして参院選前の今こそ、「日米地位協定を改正せよ!」と、声を上げるべき時が来ているのではないでしょうか。
●伊勢崎賢治(いせざき・けんじ)
1957年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授。政府や国連から請われ、アフリカ・シエラレオネやアフガニスタンで武装解除を指揮するなど、世界の紛争の現場に詳しい。近著に『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社)、『新国防論 9条もアメリカも日本を守れない』(毎日新聞出版)など
(取材・文/川喜田 研 撮影/有高唯之)