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ひとりぼっちぞうさん

ひとりぼっちのぞうさんがひとりで悲しく更新します。

イケハヤランドの冒険

創作

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王国の入り口にそびえ立つ門扉を眺めていた。僕はふと、上野で見たロダンの地獄の門を思い出した。

 

 「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」 

地獄の門はダンテの『神曲』をテーマに作られたと聞いた憶えがある。――目の前のこの鉄扉には、どんな思いが込められているのだろうか。

そのビルのように大きい門扉には、国王の顔がでかでかと描かれた看板が張り付けられていた。――イケハヤランドの国王は弥生系の顔つきをしている。

 あれは忘れもしない。お盆の頃――今から一週間前のことだ。僕は先祖の墓参りの誘いを断り、安アパートにこもって、ノートパソコンの前で硬直していた。古いクーラーがうなり声を上げる。

僕は日々のブログ更新に頭を悩ませていた。

「ブログはまめに更新し続けていると資産になり、メスのニワトリのように毎朝カネを産む」

僕はその言葉を信じ、安物のノートパソコンを手繰り、ブログを開設した。

開設から一カ月程度は順調だった。トースターにかけたパンをかじり、スーパーで見繕った一番安いインスタントコーヒーに舌鼓を打ちながら、毎朝記事を更新していく。とても単純な作業だ。

しかし、次第に単純な作業は行き詰まりを見せた。

キーボードを叩くスピードが落ち、ノートパソコンの前で固まる時間が増え、ブログの更新頻度は下がっていった。

つまらない人生を送る僕には、ブログに書くようなネタがなかった。なんてことはない事実が僕を打ちのめした。手を打とうにも、打てなかった。何も思いつかなった。

大人も子供も平等に寝静まる中、僕はブログのネタを探していた。光る画面に浮かび上がる文字をさっと眺めていると、ディスプレイの中でひとつの記事を見つけた。記事にはこう書いてあった。

「私の一日を五十円で売ります! 依頼内容はなんでもOK!」と。

これはいい! この状況を打開するにはうってつけだ。

他者からミッションを受け、それをこなす。依頼内容をまとめて記事にする。依頼者はほんの少しのカネを支払うことで遠慮がなくなる。依頼を通じてコネクション作りができる。何よりブログのネタになるのがいい。

しかし単に依頼をするのは癪にさわった。僕はこの記事を書いた方にコンタクトを取り、「このネタを真似した記事を投稿することを許してもらう」ことを依頼し、承諾を得た。取引は五十円で成立した。

この記事を参考にして、キーボードを叩き、文章としてまとめ上げた。一通り推敲したのち、自分のブログの投稿画面に移り、新しい記事として投稿した。

草木も眠る丑三つ時。嬉々としてブログの記事を投稿した直後に、依頼者は僕のアパートに突っ込んできた。

依頼者は白くて四角い形をしていた。依頼者は衝撃とともに時速150kmで僕の住むアパートに飛び込んだ。アパートの骨組みが揺れた。窓ガラスは砕け散り、安月給でそろえたささやかな家具は轟音ととも粉々になった。動きを止めた白くて四角い依頼者から、排気ガスの臭いがした。

――白くて四角い依頼者の正体は、キャンピングカーだ。

キャンピングカーの運転席から、山羊の被り物をした屈強な男が降り立つ。そして手のひらの五十円玉を見せると、それを握りしめ、拳を振りかぶり、僕の頬骨をしたたかに打ち付けた。

混乱する僕を前に、山羊の男は五十円玉を土埃で汚れた床に並べながら話を進める。

「今からお前に仕事を依頼する。依頼金額は一日あたり五十円だ。イケダハヤトという不愉快な男のことは知っているよな。あれが高知県に移住してからの話は、報道で耳にしているだろう?」

僕の事情などお構いなしに、男は話を続けた。男の表情は被り物に隠れて見えなかったが、苛立ちを隠せない様子だった。

――イケダハヤト。この国において唯一、王の名を僭称できるほどの力を持つ男だ。

イケダハヤトは有名ブロガーだったが、最初はただの一個人でしかなかった。高知に移住するという話を聞いたネットユーザは、こぞって彼を馬鹿にした。

彼には先見の明があった。ブログで稼いだ金を基に弟子を雇った。誰も手を付けないような土地を買い占め、開拓した。

彼の土地は膨れ上がっていった。高知県にあるものすべてが買い占められた。消耗しきった高知県の財政では、彼の勢いを止めることができなかった。

高知県はその名を捨て、「イケハヤランド」という名に改められた。

城も街も海岸も草木も、イケハヤランドにあるものはすべて彼のものだ。彼は今、高知城改めイケハヤ城で弟子に守られながら暮らしている。この国でイケダハヤトの名を知らぬものはない。

イケダハヤトは善政を敷いた。イケハヤランドに暮らす民はトマトをかじりながら、彼をこう呼ぶ。――我らの聖霊、天主にして世のあがない主なる御子、イケハヤ王と。

「あの存在は我々――この国全体の利益に反する。お前はイケハヤ王やらの奴隷として王国に潜入し、足を使って仕入れた情報を我々に流してほしい。やれるね?」

僕は嫌だといった。嫌だというたびに、僕の頬は痛みとともに腫れあがった。山羊の男はキャンピングカーからガソリンを取り出し、床に撒き始めた。そして止める僕を蹴り飛ばした後に、マッチで火をつけた。

木造のアパートは炎上し、あっけなく、崩れおちた。

すべてを失った僕は、望まない冒険に出かけることにした。――ブロガーたちの約束の地、イケハヤランドへと。

 

www.buntadayo.com

 

※本稿はこの記事に発想を受けた後、フィーリングのまま書き上げました。本稿の内容はフィクションです。

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