菜花亭日乗

菜花亭笑山の暇つぶし的日常のつれづれ。
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2010/03/05 心の中を流れる音楽 Suicide is Painless

2010-03-05 22:23:43 | (7)音楽


「Suicide is Painless」は、ロバート・アルトマン監督の映画「M★A★S★H」のテーマ・ソングである。


 



映画「M★A★S★H」はブラックコメディだが名作だと思う。
加えて主題歌も、沢山の歌手・ミュージシャンがカバーしており,スタンダードナンバーとなっている。


ジョニー・マンデルの美しい透明感のあるメロディーと心に刺さるものがある歌詞のハーモニーが魅力である。
 一度聞いて忘れられない人も多いようだ。


映画「M★A★S★H」に付いては、2007年6月12日の記事に既に書いたが、その時は英語の歌詞だけ書いた。
 今回は、主題歌の歌詞に付いて前回書けなかった部分を補足しておきたい。


Suicide Is Painless
(M*A*S*H  theme song )
Michael Altman  - Songwriter
Johnny Mandel  - Composer (Music Score)



Through Early morning fog I see
Visions of the things to be
The pains that are withheld for me
I realize and I can see


(chorus)
That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


*Try to find a way to make
All our little joys relate
Without that ever present hate
But now I know that it's too late
And
That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


The game of life is hard to play
I'm going to lose it anyway
The losing card I'll someday lay
So this is all I have to say


That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


*The only way to win is cheat
And lay it down before I'm beat
And to another give a seat
For that's the only painless feat


'Cause
That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


The sword of time will pierce our skins
It doesn't hurt when it begins
But as it works it's way on in
The pain grow stronger watch it grin
For
That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


A brave man once requested me
To answer questions that are key
Is it to be or not to be
And I replied "Oh why ask me."
Cause
That Suicide is Painless
It brings on many changes
And I can take or leave it if I please


And you can do the same thing if you please



さて、この歌詞だが訳すとなると結構難しい。
日本語にならないところがある。


最近、現下の人気作家である村上春樹がこの曲を、彼のお気に入りを集めて、和訳を付けた「村上ソングズ」(中央公論社)で取り上げていることを知った。


村上春樹は、作家でもあるが、カポーティとかサリンジャーとかレイモンド・チャンドラーの翻訳家でもある。


翻訳の専門家である村上の訳を読んでみたが、意訳である。
自身も書いているが、日本語で歌うことを前提にして訳を考えた。
だがら、元の歌詞通りではない。


少し引いてみる。
「自殺をすれば痛みは消える


霧の向こうに
未来が見える。
でも、そこにあるのは、
ただ痛みだけ。


自殺をすれば
痛みは消える。
それがいちばんラクかもね。


憎しみなんか忘れて
愉しいことだけ思って
生きていくなど
ああ、もう手遅れだ。


自殺をすれば
痛みは消える。
それがいちばんラクかもね。


いつかは敗れる
人生のゲーム。
ただそのときを
じっと待つだけ。


自殺をすれば
痛みは消える。
それがいちばんラクかもね。


...


昔、誰かが
僕に尋ねた。
生きるべきなのか、
死ぬべきなのかと。


自殺をすれば
痛みは消える。
それがいちばんラクかもね。


するもしないも、あなたの自由。」



ブレイクの専門家であった英文学のU先生は、我々学生にいつも言っていた。
 「訳は、直訳でなければいけない。」
彼の授業では、関係代名詞はひっくり返って「ところの」とやるのは禁句であった。


そのことを思い出しながら極力直訳で考えてみた。



Through early morning fog I see
朝早く霧の向こうに
visions of the things to be
物事の有様を見る
the pains that are withheld for me
僕に用意されている沢山の苦を
I realize and I can see ...
気づけば知ることができる


that suicide is painless
自殺すれは苦は軽くなることを
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


*I try to find a way to make
僕は努力している
all our little joys relate
僕たちのささやかな喜びが合致するよう
without that ever-present hate
絶えずある憎しみ無しにね
but now I know that it's too late, and...
だが、今となってはもう遅いさ


*that suicide is painless
自殺すれは苦は軽くなることを
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


The game of life is hard to play
人生のゲームは難しい
I'm gonna lose it anyway
どうせ僕は負けるだろう
The losing card I'll someday lay
負け札をいつか引くだろう
so that is all I have to say
だからこれだけは言いたい


suicide is painless
自殺すれは苦は軽くなる
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


*The only way to win is cheat
唯一の勝ち手は誤魔化しさ
And lay it down before I'm beat
負け無いうちに止めるのさ
and to another give my seat
他の人に譲るのさ
for that's the only painless feat.
ただそれだけが苦も無くできる離れ業


*that suicide is painless
自殺すれは苦は軽くなる
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


The sword of time will pierce our skins
時の剣は僕達の肌を突き刺すだろう
It doesn't hurt when it begins
痛くはないさ始まる時は
But as it works its way on in
だが次第に利いてくる
The pain grow stronger...watch it grin, but...
苦痛は強くなってくる 苦痛が歯をむき始める


suicide is painless
自殺すれは苦は軽くなる
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


A brave man once requested me
ある勇気ある人が昔、僕に求めた
to answer questions that are key
重要な問に答えるようにね
is it to be or not to be
生きるべきか死すべきか
and I replied ~oh why ask me?~
僕は答えたんだ どうして僕に尋ねるの


'Cause suicide is painless
だって、自殺すれは苦は軽くなる
It brings on many changes
そうすれば大きな変化が訪れる
and I can take or leave it if I please.
そうするも止めるも自分次第さ


...and you can do the same thing if you please.
そう、君も同じことができるのさ、お望みならね



この歌詞は、映画の冒頭のシーンで流される美しいハーモニーのテーマソングとは違っている。
 映画の冒頭では、*を付けた2箇所のフレーズが省略されている。


映画のサウンドトラックはYouTubeで聞き、歌詞を見ることができる。
歌詞付きオリジナル
http://www.youtube.com/watch?v=xIIqYqtR1lY


歯科医painlessが自殺をするシーンで、歌われるSuicide is Painlessでは、The only way to win is cheatの部分が歌われている。
 元々の歌詞はすべてなのだろう。


冒頭のシーンで、美しいハーモニーのコーラスを聞かせるグループは、俄仕立てでJohn Bahler, Tom Bahler, Ron Hicklin とIan Freebairn-Smithが歌っている。


また、自殺するシーンで厳かに一転して明るく歌っているのはKen Prymusだそうである。


ここでは社会問題としての自殺を論じるつもりはないが、警察庁のデータによると2009年の日本の自殺者数は3万2753人。
1998年以来12年連続で年間3万人を超えている。
 「就職失敗」「生活苦」など不況の影響が読み取れる原因・動機が一般的といわれるが、好景気にも関わらず、2005年から06年にかけての減少幅は1.2%(397人)でしかない。
 日本人は不況だから自殺しているのでは無さそうだ。


2009年の10万人当たりの自殺者数の国際比較では日本は、世界6位である。
ベラルーシ,リトアニア、ロシア、カザフスタン、ハンガリー、日本。米国は43位である。
 南の温かい国は少ないようだ。不況より気温だろう。


この歌は、自殺推奨の歌ではない。
あくまで、死ぬか生きるかは自分次第だと言っている。


つまり、心の問題。心の赴くところだ。
死ぬ勇気があるのなら、人のために命を捧げて苦労した方が良いことは明らかだ。だが、自分のことしか考えられない人もいる。
それは心が決めること。


死を深く考えれば考えるほど、高く生きられることも事実だ。
時には、この歌を聞いて深く考えることもいい。
また、映画を見て些細なことに四苦八苦するちっぽけな人間を笑い飛ばすのも良い。


人間いつか死ぬことは決まっているのだから、急いで死ぬことも無い。



ところで、この曲の歌詞を書いたMichael Altmanは映画監督のRobert Altmanの長男で、作詞をした当時14歳だったそうである。
以下の記事参照。
http://en.wikipedia.org/wiki/Suicide_Is_Painless


DVDのボーナス版に収録されている2000年に開催されたロバート・アルトマンの授賞式の30年振りに集まったスタッフの座談会の中で、プロデューサーであったイーゴ・プレミンジャーが裏話を語っている。


当時14歳だったMichael Altmanが自作自演でこの曲を歌うのを聞いて、プレミンジャーは気に入って、この曲を欲しいが、そのかわり何が欲しいかと聞いたら、Michaelはギターが欲しいと答えたそうだ。
 プレミンジャーは、それでは不十分だから契約をして印税を貰う様に話したそうだ。


その結果として、Michaelは監督のRobertが映画で得た報酬を遥かに上回る印税を得たそうである。


今や50代の中ばを過ぎた彼はどんな人生を送ってきたのだろうか。
suicide is painlessと書いた14歳の少年も現にまだ生きている。


 


【データ】


監督ロバート・アルトマンについて
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%B3


 


TV版MASHについて
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5_(TV%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA)



 

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2 コメント

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Thank you. (Hidetoshi Futamura)
2015-07-07 16:22:18
 昔を忍んで,Mashを探したら"Suicide is painless"に出会ってしまった。あの頃は,メロディにばかり目が向いていて,詩にこんな意味があるとは知らなかった。また,あなたの記事でこの背景を知ることができて大変うれしく思います。50歳の彼,今はそれ以上でしょうが,どうしているか気になりますね。
 「訳は、直訳でなければいけない。」ということにも賛成です。意訳ばかり見てきて,原文に出会った時の衝撃は忘れられません。有難うございます。
人間賛歌 (笑山)
2015-07-08 21:12:42
Futamura 様

こんばんは。

コメントありがとうございます。
内容に則したコメントをしていただくと、嬉しいです。

「M★A★S★H」は、名作ですね。
ストーリーは面白く、登場人物は一癖あるが、活き活きとしています。
 組織に表面上は忠実な顔をしている偽善者をあざ笑い、悪ふざけを繰り返す、ならず者兵士たち。だが無能ではなく仕事は一流。
 これらの人物像は、自主独立のアメリカの個人を感じさせます。
 周囲に気遣い、自分を見失い、内と外の分裂の間で悩みがちな日本人には、自分を取り戻す勇気を感じさせてくれます。

 一方、主題歌は美しいメロディーにややシニカルな歌詞が少し違和感を感じさせます。
 ただ、記事に書きましたが、使われるシーンごとに微妙に変えられています。
 医師painlessが復活するために、ならず者たちが心を合わせ、彼の“悩み”を解決してあげる時は、テンポも速く、リズミカルにしてますね。

最初、ストーリーと主題歌が不釣り合いの感じを与えますが、見終わるとその両方に共通して流れているものを感じさせます。
 一言で言えば、人間賛歌でしょうか。偽善や欺瞞や欲望に振り回されないで、自分に忠実に困った人には救いの手を差し伸べて、そして生きる。

自殺する勇気があるのなら、なんだって出来る。
捨てる生命なら、人のために使え。

最後の歌詞
「...and you can do the same thing if you please.」
は、そう呼びかけているのでしょう。

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