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第30話 地球の活動(5)
屋敷に着く。すでに21時半すぎであったが、ステラ、アリス、弘美さん、喜美ちゃん、和江さん女性陣が和気藹々と話に花を咲かせている。
喜美ちゃんは特等席の和江さんの膝の上に座り、アイスをリスのように頬を膨らませて頬張っていた。
女性陣の話しの内容を察するに渋谷のオシャレグッズで盛り上がっているようだ。
対して清十狼さん、章さん、思金神は酒を飲みながらつまみをつつく。清十狼さんと章さんの真っ赤に発火した顔からも完璧に出来上がっている。
こちらは今後の斎藤商事と《フォーレスト》の事業展開について話し合っている。
「これ……って?」
地球外生命体の長耳のエルフの少女に、年齢層がてんでバラバラの面子。このとても魔術結社には見えない2グループを水咲さんは暫し困惑気味に相互に見ていた。
「僕の仲間です。そして水咲さんの仲間でもある」
やっと僕達がいることに気が付いた2グループは僕達に怪訝そうな顔を向けてくる。言葉にすれば《あの人達誰?》という顔だ。
「マスター、首尾は上々のようで。ひひひっ」
思金神が薄気味の悪い笑みを浮かべてくる。
「おかげ様で、まるで仕組まれていると感じるほど不自然に順調だよ」
「さぁ~て、何のことやら」
そっぽを向いて口笛をヒュー、ヒューと吹く人工知能。思金神を放っておいて僕らが椅子に着くと、皆ワラワラと中央のテーブルに集まってきた。
「マスター、お姿は解除した方がよろしいかと」
ステラに指摘され幻影を解く。水咲さんが僕の横顔を見てズサッと飛びぬく。その化け物を視界に入れたがごときリアクションは結構傷つくのだが……。
水咲さんと皆で互いに簡単に自己紹介をした後、僕が事の経緯を説明する。
僕の言葉が進むにつれて全員の額に縦に太く青筋が張る。
「あの腐れ外道共! どこまで俺達の人生を狂わせれば気が済むんだ?」
「同感ですね。一度地獄を見せた方がよろしいかと」
清十狼さんにすかさず同意する章さん。
「許せません!」
拳を握りしめて目尻に涙をためる弘美さん。
「殺ちゃえばいいんだよ!」
「殺ちゃえばいいんだよぉ!」
アリスの言葉を喜美ちゃんがマネをして、アイスのスプーンを掲げる。
「アリス! 喜美ちゃんが真似しちゃうでしょ!」
ステラに叱られ子犬のようにシュンと身を縮ませるアリス。殺伐とした雰囲気がアリス達のやり取りで若干弛緩した。
「すると、水咲さんを明日の5時までお鍛えになるというわけですね?」
和江さんの問いに僕は頷きで肯定した。
「今から約6時間、地下迷宮の80階層付近で僕と思金神が徹底的に水咲さんを鍛え上げる」
「あ、あの……迷宮って?」
水咲さんが恐る恐る尋ねてくる。水咲さんの疑問にどう答えるべきかと苦笑いを浮かべる一同。
「行けばわかる。しいて言えば現実に強くなるVRMMOってところかぁ?」
清十狼さんが顎をつまみながら隣の章さんに問う。
「まあ、あんなVRMMOが実際にあったら成長速度が速すぎると運営側に苦情が殺到してますよ。きっと……」
だよなぁと顔を見合わせ、はははっと互いに乾いた笑みを浮かべる。
「でも面白いよ!
喜美ねぇ、喜美ねぇ、レベル48になったんだよ!」
ぶ~と口に含んでいたお茶を吐きだす僕。このリアクションを取る僕を許してほしい。まだほんの数時間しかたっていない。いくらなんでもレベル48は早すぎるんだ。
気管に水が入りせき込みながらも清十狼を見るが、頬をかきつつも無言で頷く。経験値100倍と迷宮下層での戦闘を思金神が強いたせいだろう。8歳児に対してどんだけスパルタなんだよ。
僕が非難をたっぷり含んだ視線を向けると思金神はそっぽを向いて口笛を吹き始める。此奴……。
「水咲さんには時間がない。魔術師の誓約もする必要があるし早く始めよう」
「マスター一人に押し付けるのは違うよなぁ。俺と章さんはマスターと共に迷宮に潜るぜぇ。手分けした方が早いに決まってるしよう。いいよな、章さん?」
「勿論ですよ。私もマスターに同行します。80階層で6時間、どれほどLVが上がるか興味もありますし」
少し前に僕の通称がマスターに決定したようで僕が恥ずかしいから止めてくれと何度も懇願しても聞いてくれない。兎も角、手伝ってもらえるのならそれに越したことはない。清十狼さんも章さんもレベル的には80階層は適正階層だ。
「じゃあ、お言葉に甘えます。お願いしますね。清十狼さん。章さん」
「ズル~い。ボクも行きたい」
「喜美も! 喜美も!」
「「「「「ダメです(だ)!!」」」」」
アリスと喜美の我儘に対し申し合わせたように声が見事にハモった。アリスと喜美はプクーとふくれっ面になってしまう。アリス……8歳時と同レベルでどうする……。
「ではマスター、思金神様、清十狼さん、章さんお願いいたします」
ステラも一緒に来たそうではあったが、アリスと喜美の手前、我慢しているのだろう。水咲さんは僕らの話しについていけないのか終始オロオロしていた。
魔術師になるための誓約と《神王軍化》の刻印を水咲さんに刻み、思金神の造成した武具を着用してもらい、さあ出発!
僕らの迷宮探索が開始される。
◆
◆
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それから80階層の魔物を午前零時のリセット時までできる限り駆逐し、さらにそれから再生した魔物を狩る。
僕らの戦闘の基本方針は、風魔剣の特殊な倒し方だけ。それ以外は自由。
スキル・魔術を管理している思金神の指導もあってか清十狼さん、章さん、水咲の3人はメキメキ力をつけて行った。
特に水咲さんは最初の30分ほどは戸惑っていたが、自身の身体が強固に造りかえられていく様にただ目を輝かせて戦闘に望んでいた。
午前5時になり僕らは屋敷に戻ってきた。
討伐した魔物は以下の通りだ。
○ウインドラビット(LV38)――343匹
○風魔剣(LV38)――911匹
○風魔精霊(LV42)―424匹
○鎌鼬(LV42)―549匹
○ウインドビースト(LV46)――666匹
結果、僕のレベルは109まで上がっている。
水咲さんがレベル77、清十狼さんばレベル88、章さんが93となった。
清十狼さんは槍、章さんはナイフを得意とする。それぞれ、槍とナイフについての混沌レベル7、8のスキルを開発していた。
肝心の水咲さんだが、彼女の適正戦闘スタイルは意外にも格闘術。
母親を助けたいという思い故か思金神に幾度となくスキルの開発を頼み、《拳帝演武》という混沌第8階梯のスキルを獲得してからは強さの箍が外れる。
これなら中途半端魔術師など敵ではあるまい。
それにしても、風魔剣を900体討伐したことにより、ミスリルが4500トン近く手に入った。総量凡そ8000トンだ。オリハルコンも数十トンはあるし使い道も検討すべきであろう。
自室で凡そ3時間ほど泥のように眠ったあとで作戦は開始された。
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