3人の首脳が空母上で会談し、欧州の強さは変わらないと熱弁を振るう──。いかにも劇的に聞こえるが、メルケル独首相、オランド仏大統領、レンツィ伊首相による22日の会談は、ユーロ圏経済の短期的リスクが現実化しなかったことへの安堵が強くにじみ出ていた。
ユーロ圏主要3カ国の首脳会談は、英国を除く欧州連合(EU)加盟国が9月にスロバキアで開く非公式首脳会合に先立って行われた。スロバキアでの首脳会合は、国民投票でEU離脱を決めた英国との関係が主要議題となると見通しだ。
経済に関する限り、英国のEU離脱決定による影響は、ほとんどのEU諸国で大方の予想をはるかに下回る範囲にとどまっている。しかし、3カ国首脳が欧州の政策協調を強める必要性について語る一方、各国が抱える経済問題は英国の国民投票前と何も変わっていない。政策協調を強化しても、そのほとんどは解決しないのだ。
ユーロ圏が英国のEU離脱決定に動じなかったことを示す最新のデータが、23日に発表された。景気の先行指標となるユーロ圏の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、8月の景況感が良好な水準にあることを示し、7~9月期の域内総生産(GDP)成長率も前期に比べ0.3~0.4%前後と堅調に伸びそうなことを示唆している。
特に心強い数値だったのが4~6月期に成長率が横ばいだったフランスで、7~9月期の回復が見込まれる。
しかし、成長は堅調ではあっても、欧州中央銀行(ECB)の異例の金融緩和策に助けられていることは疑いようがない。めざましい成長には程遠く、失業率を大きく減らせるような勢いはない。
欧州各国の指導者は、連携を強めるのではなく弱めることに最善を尽くしたいところだろう。つまり、政策協調が不要な自国の経済問題の数々に対処する上で、EUルールの適用は緩和されるのが望ましいと考えている。
オランド氏とレンツィ氏が財政出動の拡大を訴えるのは正しい。ユーロ圏の財政協定はもはや、かつての取り決めの数々と同様、笑いぐさになろうとしている。基準を大きく超える財政赤字を出しているスペインとポルトガルに対し、欧州委員会が罰金の見送りを決めるありさまだ。
ドイツも難民危機関連の支出が一因となり、財政規律の緩みを放置している。それでもなお、中期的な経済運営において、課税と財政支出が金融政策と少なくとも同等に考慮されるべきであると認めるには全く至っていない。
EU主要3カ国の首脳はいずれも、景気循環による回復は健全な成長基調を意味しないことを認識し、長期的問題にも対処する必要がある。自由化政策は中長期の成長を生み出すとは限らないが、オランド氏は後退を余儀なくされた規制緩和の推進に再び努めるべきだ。
イタリアのレンツィ氏は、地方行政のスリム化などを狙った憲法改正の是非を問う10月の国民投票に、政府の信任を賭けている。ドイツも経済は近年、好調に推移しているが、生産性は過去20年間、ほとんど上昇していない。
3首脳は22日の会談で不屈の姿勢を打ち出した。しかし、内心ではおそらく、ユーロ圏経済が英国のEU離脱決定の影響を乗り切ったことに安堵していたはずだ。だが、抱える経済問題をめざましく改善するには、現状の政策を維持するだけでは事足りない。
(2016年8月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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