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虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌 作者:力水

第1章 異世界武者修行編

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第20話 角の少年

 
 2082年8月5日(水曜日) 夏休み終了まで残り28日

 朝食後、今週の《妖精の森スピリットフォーレスト》の簡単な決算報告をする。
 今週の紅石の換金代金が640万ジェリー。
 このうち、資金は《妖精の森スピリットフォーレスト》に55%の352万ジェリー、僕、ステラ、アリスに96万ジェリーが割り振られる。

 352万ジェリーのうち350万ジェリーは《妖精の森スピリットフォーレスト》のギルド活動で消費した。内訳は以下の通り。

・《半月草》、《紅焔草》、《白燕草》、《魔性牡丹》、《鬼無花果》等の各薬草の5年間の購入代金:50万ジェリー。
・各種金属購入代金2週間分の頭金:200万ジェリー。
・石英200トンの購入代金:100万ジェリー。

 したがって、《妖精の森スピリットフォーレスト》の収入から支出を差し引いた総額は2万ジェリーとなる。
 現在ギルドが保有する資金は602万ジェリー。
 今日はこの後、ギルドハウスの購入もしなければならない。ギリギリだ
 第5の試練の攻略からは魔物(モンスター)の撃破による紅石の確保を最も重視すべきかもしれない。

 96万ジェリーをステラとアリスに渡す。アリスは素直にピョンピョンと兎のように飛び跳ねて喜んでいたが、ステラは終始不満げだった。勿論、自分達が金を貰う事に対してだ。この頑固なところがステラの本質なのかもしれない。


 【修練の扉】をリビングに運び、この扉の簡単な説明をする。
 本来の半分の能力を持ち襲い掛かってくる人形。
 だが修練者はHPのMAXの70%を決して下回ることはない。HPが70%残存していれば、掃いて捨てるほどあるポーションで即座に回復すればよい。


 白い部屋へ入ると、二人とも暫し絶句したがもう耐性が付いたのか魔術の修行にのめり込んでいた。
 案の定アリスは顔に喜色を漲らせながら人形を生み出しては拳や蹴りで破壊している。
 アリスの奇怪な構えは子供向けに放映されている人気ヒーロー実写活劇の主人公のキメポーズ。あくまで小学生低学年向きなので高学年になってとんと見なくなったが、精神年齢が幼いアリスにとっては殊の外琴線に触れる番組らしかった。
 しかし……この娘は今日武器の帯刀を禁止した意味を分かっているのだろうか? この午前中の鍛錬は魔術の鍛錬だ。肉体の鍛錬は迷宮でやればよい。
 そうアリスには何度も言っているのだが空返事で聞いちゃいない。放っておこう。




 ステラは流石に真面目だ。今は授業で教えた基本的な黒魔術につきお浚いしている。
 魔術審議会は全ての基礎魔術をLV1~5に分けている。
 すでに解析で確認済みだが魔術には魔術分野の《魔術種》と個別の《魔術》があり、この《魔術》にはLV1~7までがある。
 この分類法は魔術審議会のものとほぼ共通する。
 魔術審議会の分類法では魔術はLV1~5までしかない。この点が相違点だが審議会もこの上に禁術を設定しており、その使用を審議会の許可の下においている。
 この禁術がLV6、LV7の事だろう。
 《黒魔術》の才能を得たステラはこの数日で習ったLV2までの魔術を完璧使いこなしていた。

 LV1――火球(ファイアーボール)土槍(グランドスピア)水矢(ウォーターアロー)風刃(ウインドカッター)
LV2――爆炎(エクスプローション)土監獄(グランドプリズン)氷結(フリーズ)雷撃(サンダーボルト)

 LV2以上の魔術を実際の戦闘で使えるのは明神学園でも半数ほどしかいない。他の大部分の者は長い発動時間と集中力を要し、銃が主体の現代日本の戦闘では使い物にはならない。
この半数に属する天才達は何れもが由緒正しき魔術師の系譜に連なる者達だ。おそらく彼らのステータス欄には例外なく個別の《術》が刻まれているはず。
 そしてこれこそが魔術師が血統と優秀な血を重んじ、家同士の子供を婚姻させたがる理由だ。
 もっとも、兄さんの場合を考えると一つの謎が生まれる。
 世間で兄さんは黒魔術、白魔術、呪術にも通じる楠家の全てを受け継いだ天才と評されていた。
 しかし髪の毛を摂取しても《錬金術》と《呪術》以外の魔術はラーニングできなかった。
 兄さんが黒魔術、白魔術を他の天才たちと同等に扱えた事実は僕のステータス欄に対する考察と一見矛盾するように思える。
しかしこの謎も《錬金術》の理不尽さを実感した今なら容易に解き明かすことができる。
 現代魔術はスピード重視。だが才能があるものなど魔術師のエリート校――明神学園でも半数しかいないのだ。
 故に魔術師は一般に魔術道具(マジックアイテム)で発動時間の短縮や、集中力を保っている。明神学園も魔術師の育成所だけありこの手の魔術道具(マジックアイテム)は禁止してはいない。
 だが魔術道具(マジックアイテム)は極めて高価であるし通常、厳つい武具等の形をしており、使用すれば他者にバレバレだ。
 明神学園では有名な系譜の家系が多いことから、魔術道具(マジックアイテム)に頼る者は馬鹿にされる傾向にあり、学園内で使用する者は皆無と言ってよい。
 だが兄さんの持つ《錬金術》で作成した魔術道具(マジックアイテム)なら、指輪やブレスレットの形態で身に着けることも可能であり魔術道具(マジックアイテム)を使用したことすら他者は気づかない。
 結論を言えば、兄さんは黒魔術や白魔術の才能は皆無だったが錬金術で造った魔術道具(マジックアイテム)の効果で天才以上の力を見せた。こういうことだ。

 このように黒魔術を使いこなすのは才能と努力の両方が必要であり極めて難解なのだ。それを数日学んだにすぎないステラが数秒で発動させる。この黒魔術の才能も存外チート能力だ。


 さて他者の修練を見ていても始まらない。僕も魔術の鍛錬を始めることにする。
 今日はステラ達と同様、魔術欄に存在する黒魔術の実験をする。
その前に――。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
           【黒魔術】
★説明:自己の魔力により物理現象を起こす魔術。
・《黒魔術の叡智》:黒魔術の理論を学ぶだけでその魔術を行使できる。
・《黒魔術演唱破棄》:黒魔術の演唱を破棄し発動時間を大幅に短縮する。
・《必至黒魔術》:黒魔術の発動が必ず成功する。
★ランク:固有(ユニーク)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 呪術とほぼ対応する。
 通常、数年の理論と実践の両面からの修行で発動自体ができるようになる。実際に実践なしで魔術は使えないのが常識だ。だがこの《黒魔術の叡智》はその常識を覆し、理論を学ぶだけでその行使が可能とする。この能力を得られるなら魔術師なら人さえ殺すだろう。
 《黒魔術演唱破棄》で長い演唱をする必要がなくなった。
 才能がない者に対し魔術はいつもそっぽを向く。長い演唱を終えても魔術が必ず発動するとは限らない。慣れたものでも痛み等の精神上の影響で失敗する危険性は比較的増す。《必至黒魔術》は魔術の発動を必ず成功させる。随分無茶な能力だ。
 僕はLV3の理論まで一応学んでいる。
 次々に使用してみるが、ほぼ問題なく使用することができた。
 魔術の実践の授業で糞教師どもが理由を付けて僕を授業に参加させなかったときは腸が煮え返ったものだが、おかげでその時間魔術の専門書が読めた。
 今度魔術を使ったときにでも礼を言っておこう。しかもでかい声で。それがあいつ等に対する最大の意趣返しとなる。




 魔術の実施の修行が終了する。

「明日、新しい魔術の理論、教えてください!」

 顔を興奮で真っ赤に発火させたステラが僕に詰め寄る。目を光らせ、決死の表情で懇願する彼女の血相に若干後退する僕。

「そのつもりだよ。明日からはLV3の魔術。
 でもLV4の魔術が記載されている魔道書は魔術審議会が管理している図書館にしかないんだ」

LV4以上はLV3までとは格が違う。
ここで一般に魔術審議会は以下のようにLVの説明がなされる。

LV1――個々の魔術師が扱うべき一般の戦術級魔術。
LV2――中位から上位魔術師が扱うべき戦術級高位魔術。
LV3――各組織でもトップクラスの力を持つ魔術師が扱うべき戦術級最高位魔術。
LV4――複数の最高位魔術師達で発動させる初級戦略(・・)級魔術。
LV5――複数の最高位魔術師達で発動させる中位~上位戦略(・・)級魔術。

 このようにLV4からの魔術は戦略級魔術であり、対組織戦争に用いられる大魔術。一人での発動はできなくはないが演唱が長く、失敗のリスクも大きい。そこで通常複数の最高位魔術師達の《共鳴魔術》により発動される。
複数の最高位魔術師の共鳴魔術による大魔術だ。当然、学校の図書館に置いても無意味だし、管理上相応しくもない。
 だからLV4の魔術は魔術審議会の運営する図書館にのみ置かれ厳重に管理されている。
 ただ厳重に管理されていると言っても必要な者に利用されなければ本の存在する意味はない。そこで魔術開発の促進のためLV4の魔術の閲覧を必要な者に許可している。
 ここで言う必要な者とは魔術師の事であり、基本魔術師なら誰でも閲覧可能だが、中でも魔術大学の生徒の利用が圧倒的に多いらしい。
現に帝都大学の魔術科の学生達が論文研究のためグループで頻繁に閲覧している様子を、以前テレビのドキュメンタリー番組で放映されていた。

「その本は御借りするわけにはいかないのですか?」

「貸出が禁止されているらしくてね。
でも閲覧だけなら可能だし図書館内に部屋を借りれるらしいから、君らの日本在留資格の獲得の件が解決次第訪れるとしよう!」

 図書館の利用にはステラ達を魔術審議会に登録する必要があり、異界の門がばれる危険性は付きまとう。
 しかしそんなことを言っていたらステラ達は魔術師として地球で活動できなくなる。一定の危険を冒す必要はある。

「はい!」

 両手を胸の前で組、目をキラキラ輝かせる姿を見るとどうしても叶えてやりたくなる。頬をやや紅潮させてステラに視線を向ける僕。

「マスターの僕とお姉ちゃんに対する態度、違い過ぎない?」

 いつの間にかアリスがふくれっ面で僕を見上げていた。ごまかし気味にアリスの頭を乱暴に撫でて、真っ白な修練の部屋から屋敷へ戻る。


 次は回復薬製造についての授業。
 ステラ達が《妖精の森スピリットフォーレスト》を去らない以上、手作業にはさほどの意味はなくなった。
 だが今止めてもあまり意味があるわけではない。回復薬の手作りの授業は当面続けることにした。

               ◆
               ◆
               ◆

 少し早めの朝食をとり今日は不動産屋を訪れ物件を購入した後で第5の試練の攻略に入る。
 グラムの宿屋ルージュの自室から東区に出て不動産屋のある西区へ向かう。
 不動産屋の西区は西門から中央に抜ける大通りに面しており、商人たちのやかましい鼓騒と人の往来による熱気が漂っていた。
僕らは人混みの中、行き交う人を避けながら目的の場所へ足を動かす。
前方に人盛りがあり、その理由は僕には楽勝で見当がついた。それは僕が普段されていることだったから。
 ドスッ、ゴシュッという鈍い音が僕ら通行人の耳にまで飛び込んでくる。

「おい! ゴブリン! 俺は《紅剣》を買って来いと言ったはずだぞ!
 ただでさえ役に立たねぇんだ。こんなときくらい働かなくてどうするよ?」

目にしたくない光景が自然と視界に入ってしまう。集団心理というやつだ。大多数という視線の暴力からは逃れることなどできはしない。
一人は銀色の全身性のプレートメイルを着用した金髪の青年が、ボロボロの布きれを着た小学生低学年ほどの子供を折檻していた。
この世界は美男美女が多い。金髪の青年も例にもれず大層美しい顔の造りをしていた。
だが子供を唾棄(だき)するように責める姿は今まで出くわしたどの魔物(モンスター)よりも醜悪に見えた。

「ご、ご……めんなさい。でも――」

 消え入りそうな声は再度、暴力の音により掻き消される。

「ああ? モンスターのくせに口ごたえすんじゃねぇよ!」

 金髪青年は怒りの顔つきで鼻の穴を膨らませ、少年の横っ腹に右足のつま先を突き立てた。

「ゴボッ!」

亀のように丸くなる少年を何度も蹴る。蹴る。蹴る。蹴る……。

(本当に醜悪な奴だ。明神学園の糞共を思い出す。
それにこの観客共――)

遠巻きに見ている見物人達の嘲笑を含んだ顔。
少年に向けられる蔑みを隠そうとすらしない視線。
顔を嫌悪で歪めているやからもいるにはいるが、その対象は信じられないことに少年に向けられていた。
あのファッキン金髪は少年の事はゴブリンと呼んでいた。魔物(モンスター)という事だろうか? 
だが、背格好も人間と変わらない。パッチリとした目に鼻筋の通った顔など、地球人に僕と少年のいけてる度合いを比較させたら間違いなく少年に軍配が上がるだろう。
周囲と異なるのはやや赤みがかった肌に頭上から生える小さな角。
確かに異形に耐性がなかった30年ほど前の日本の一般人なら悲鳴の一つも上げるかもしれないがここは異世界だろう? 
昨日会った竜人(ドラゴニュート)のおっさん等大きな2つの角を生やしておられた。獣人など尻尾と耳だ。肌がやや赤いのと小さな角など許容範囲もいいところだろう。
少年の右肩には奴隷の刻印がある。最初そのせいかとも思ったがこのグラムの街で奴隷など掃いて捨てるほどいる。他の冒険者が連れている姿も沢山目にした。
しかし、どの奴隷もこれほど強烈な侮蔑の視線は向けられてはいなかった。
とすると文化的なことか、風習的な事か。どちらにせよ、碌なもんじゃない。子供を殴ってよい理由などあるはずはないし、それを見て笑うなどあり得ない。
 珈琲に垂らされた一滴のミルクのように僕の怒りはゆっくりと身体中を巡っていく。

「彼はゴブリンとヒューマンのハーフです」

 内臓が震えるほどの激しい怒りに胸を押さえている僕にステラが脇から説明する。

(……そうか。母親がゴブリンに襲われて――)

「でもそれ、彼とは無関係の事情だよね」

「その通りです」

震え声のステラを横目で見ると、その顔には獣のような怒りがギラギラ光っていた。アリスも射殺すような視線をファッキン金髪に向けている。
 奴隷として売られた彼女達からすれば、少年の境遇は他人事ではないのだろう。

「ねえ、マスター、あいつ等やっていい?」

 それができれば苦労しない。
スキルも魔術も持たないLV4の雑魚だ。ここで僕らがあのファッキン金髪を痛めつけるのは容易い。
だがそれをすれば、あの少年は僕らが去ったあとさらに激烈な虐待を受ける。僕らが自己のうっ憤を晴らしても意味はないのだ。
人を買うという最悪な手段ではあるが金で少年の身柄を買い取る方法も一応あり得る。いやあり得た。それがあいつ等じゃなければ。
 あのファッキン金髪の前腕部分には剣のマークがある。あの剣のマークは中位ギルドの一つ――《聖騎士(セイントナイツ)》。
 《聖騎士(セイントナイツ)》のギルドマスターは覚えている。
中世の騎士風の格好の奴が僕のところまで来たかと思えば得々と自慢話を始めた。
なんでも南部国家――フリューン王国の貴族出身の冒険者らしく身分がどうとかほざいていたが興味がなかったので全てスルーした。
ステラを移籍させろとしつこいので、《僕にその権利はない。僕のギルドを抜けるのは彼女次第だ》と告げると僕に目をくれず、今度はステラを口説いていた。
僕が少年を買い取ることを主張すれば《聖騎士(セイントナイツ)》はステラの移籍を主張するだろう。
僕は絶対に受け入れない。交渉は確実に決裂する。そして決裂しただけで事態が終わるとも思えない。
聖騎士(セイントナイツ)》のギルドマスターはフリューン王国の貴族。
以前関わったから断言できる。彼らは基本貴族以外を家畜としか見ていない。
交渉が決裂すれば僕が少年の略取を目論見、暴力まで振るったと冒険者組合に主張するくらいするだろう。
 助けて利する点は少年にとっても僕にとっても蚤の毛ほどもありはしない。

「行こう」

 アリスが癇癪を起こして立腹し、僕に怒りの言葉を吐き出そうとするがステラがその口を右手で押え耳元で話始める。
 程無くして、アリスは肩を落としシュンとしてしまう。そんなアリスを連れてこの場を離脱する。
 ファッキン金髪が少年を蹴る鈍い音が遠ざかるのを耳にし、僕は悔しさと無力感で下唇を噛み切った。




 不動産屋に到着し、丁寧な接待を受けている間も僕の頭の中にはあの少年事があった。
 特にあの少年の全てを諦めたような目は僕の心に深く釘を打ちつけた。
 その理由は子供が不幸にあっているからではない。僕はそれほど純粋ではないし、英雄(ヒーロー)ごっごなどに憧れてもいない。ただ単純に僕はあの少年と自分を重ねてしまっているのだ。
僕も明神学園では理不尽な折檻など茶飯事。朱花や瑠璃が僕に絡んできた直後は特にひどい。初めの数か月は悔しさで一睡もできないことなどざらだった。
そして止めはあの少年の希望を失った冷たい目だ。あの目はこの世界への扉を発見しなかった未来の自分なのかもしれない。そう考えると何もかも放り出してあの少年を助けたくなる。自分自身を助けたくなる。
 しかし、僕にはステラがいる。アリスがいる。僕はもう一人ではない。全て投げることは今の僕にはできないんだ。
 笑顔で不動産屋の言葉に相槌を打つ僕の右手の甲に温かく柔らかな感触がする。これがステラの掌だと気付くのに数秒を要した。
ステラは自分が交渉するとばかりに僕の手を握りながら不動産屋とやり取りを始める。
 ただステラの右手の掌の温もりが心地よかった。そしてその優しさが嬉しかった。


 僕もステラのおかげで次第に調子を取り戻し、不動産屋に上手く対応できるようになっていた。
 予算を聞かれたので、僕の100万ジェリーを加え700万ジェリーと告げると、ステラが900万ジェリーと訂正する。
 アリスも異論がないようだ。確かにこれは僕だけの買い物ではない。この世界での僕達の記念すべき城の購入だ。彼女達がお金を払いたいというのを拒むのは寧ろ失礼な行為。
 僕が900万ジェリーと言い直すと不動産屋の態度が一変する。
 ニコニコと揉み手をしながら物件を紹介始める。
 物価が日本の8分の1ほどの事情を踏まえれば、900万ジェリーは日本円にして7200万円。商売人ならこの反応も頷ける。


 不動産屋が紹介する物件は2つ。
 一つ目の物件。敷地はそこまで広くはないが建物が絢爛豪華な造り。外装と玄関の扉には職人達が腕の粋を凝らしたと思しき装飾が凝らされ、室内は真っ赤な絨毯が敷かれている。豪奢な内装に、階段。二階も同じく豪華。
 このように贅沢な屋敷ではある。
しかし若干ギルドハウスとしては敷地が狭すぎる。
僕は屋敷を改造する。LV90の精霊を召喚できるようになった今不審者の侵入を危惧する必要は僕らにはなくなった。思う存分改造しても他者に知られることはない。
 地球の快適な生活に慣れた二人のエルフは僕の意図を読み取り、この屋敷を駄目だしする。
 そして次に案内されたのがグラム最大の物件。高校の2倍近くもある敷地に明神高校の校舎ほどもある馬鹿でかい屋敷。
 過去にとある大貴族が別荘に使っていたが大きすぎて維持費が馬鹿にならず引っ越したらしい。
敷地が無駄に広く全部で800万ジェリーもする。800万ジェリーもの大金、弱小ギルドには手が出ない。さらに別荘として使用されていたため普段人が住んでいないので建物がかなり老朽化しており一見みすぼらしい。
だから800万ジェリーもの大金を出してまで買う物好きのギルドもいなかった。それ故にいまだに買われずに売れ残っていたらしい。
僕らは冒険者。原則としてこのグラムでは納税義務が免除されている。敷地が広かろうが一銭たりとも払う必要はない。
建物の老朽化の件もどうせ屋敷は建築系のスキルをラーニング次第取り壊す。老朽化していて実に結構なのだ。
これほど広大な敷地なら様々な魔術工房を造れる。まさに僕にとって夢の地に等しい。
 屋敷に入ってみるとボロイのは外装だけで、その建物の造りも内装も思った以上に良質だった。部屋も百個近くあるようで取り壊すのがもったいないくらいだ。
満場一致で即決し、不動産屋に800万ジェリーを支払う。
こうしてこのグラムの街に僕らの初めてのギルドハウスが誕生した。

 お読みいただきありがとうございます。
 少年を殴ったクソ金髪はのちに地獄を見ます。それは暴力で片づけた方が幾分ましというくらい。でも、もう少し先でのお話です。この少年も物語に深く関係してきます。ご期待いただければと。
 誤字修正いたしました。誤字報告マジでありがとうございます。
 
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