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【社説】

世界の山ちゃん 羽ばたいた変人経営者

 名古屋発の居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」の創業者、山本重雄さんが亡くなった。変化を恐れず、むしろ歓迎し、飛べないはずの手羽先で地域の殻を打ち破り、その名の通り世界に羽ばたいた。

 「なごやめし」という言葉は、まだ新しい。

 バブル崩壊後の長い景気低迷期、「元気な名古屋」が注目を集める中だった。二〇〇五年の愛知万博などをきっかけに、みそカツやみそ煮込み、あんかけスパといった地域のソウルフードが、首都圏などに進出し始めた。

 山ちゃんの手羽先もその一つ。山本さんは「元気な名古屋」「変わる名古屋」を象徴する経営者の一人として、頭角を現した。

 手羽先は、山ちゃんのオリジナルではない。一九六三年に名古屋市熱田区で開業した「風来坊」が「元祖」を名乗る。

 岐阜県生まれの山本さんが名古屋市中区新栄で創業したのは八一年、串カツと焼き鳥の店だった。客の九割が注文するという看板メニューの「幻の手羽先」は、山本さん自身、「風来坊のまねをした」と正直に語っていた。

 甘辛でゴマをまぶした元祖に対し、幻の手羽先はピリ辛、スパイシー。元祖の味は出せなかったが、独自の味に行き着いた。

 快進撃の要因は、ど派手でユニークな看板だ。オープンから三年、アルバイト店員が電話応対に「はい、世界の山ちゃんです」と名乗って出たのを採用したという。山本さん自身をモデルにした「鳥男」のイラストとともに、酔客のまぶたに焼きついた。

 関東進出の際には、“お値打ち”感を打ち出した。「値段の割には出来がいいもの」を評価する名古屋伝統の価値観だ。

 客の出費を減らすため、駅から至近、坪二万円以下という安い立地にこだわり、手羽先以外のなごやめしも用意した。

 山本さんは社員やスタッフに「立派な変人たれ!」と説いてきた。変人とは、人と違うことを恐れず、変化する人のこと。変化とは、言い換えれば成長だと−。

 二年前、香港とタイに出店した。スパイシーな味が受け、行列ができる勢いだ。冗談は誠になった。最近は“脱手羽先”も考えていたという。

 3・11後、日本も日本経済も、いろいろな意味で変化を求められている。だが、古いマニュアルにしがみつき、変わりたいのに変われない−。そんな時だからこそ、“変人”の早世が格別惜しい。

 

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