国内版ワーホリに批判殺到。地方の労働市場はもはや市場メカニズムを放棄?
総務省が、都市部の学生や若手社員が長期休暇を利用して地方で働く「ふるさとワーキングホリデー」制度の立ち上げを検討している。だが、同制度に対しては「意味不明」「ワーキングホリデーの主旨を履き違えている」などの批判が殺到している。
ふるさとワーキングホリデーとは、都市部の学生や若手社員が長期休暇を利用して地方で働くことを支援する制度。都道府県ごとに数百人程度を受け入れ、1週間から1カ月ほど、地方で製造業や観光業、農業に従事してもらう。地域の消費を増やすことや人手不足の解消を見込むという。
もともとワーキングホリデーとは、2国間の協定に基づき、若者が相互に国際交流する目的に限り、外国人の部分的な就労を認める制度。
観光目的で入国した外国人がそのまま就労してしまうことを防ぐため、全世界的に観光ビザでの就労は固く禁止されている。一方、若者が相互に外国に滞在し、異なる文化圏の人と触れあうことは、両国の長期的な関係性を深めるきっかけになる。
ワーキングホリデーの制度は、休暇を使って相互交流を楽しむ若者に限って部分的な就労を認め、現地で滞在費用を稼げるようにするための施策である。あくまで目的は、休暇を使って相互交流することであって就労ではない。このため同制度は一生のうち一回しか利用することができない仕組みになっている。
こうしたワーキングホリデー本来の主旨から考えると、今回の制度に対して「趣旨を履き違えている」との指摘が出るのは当然だろう。
国内版ワーキングホリデーの制度では、若者が休暇中に地方で働くことが大前提となっており、休暇を楽しみ、相互交流を行うという趣旨とは正反対になっている。また、国内でアルバイトするのは自由であり、そもそも、こうした制度を設ける必要がない。
一部からは、地方で深刻化している人手不足を解消するために、若者を農業などの労働に従事させることが狙いではないかとの声も聞こえてくる。もしそうなのだとすると、状況はさらに深刻だ。
日本には研修という名のもとに、実質的な奴隷労働になっているとして、諸外国から批判されている「外国人技能実習制度」というものがある。本来の趣旨は、新興国に対する技術移転だが、地方の人手不足の解消と低賃金労働力の確保に悪用されており、完全に本末転倒な結果となっている。
今回の施策に人手不足解消といった背景が存在するのだとすると、地方における労働市場には、もはや市場メカニズムは残っていないことになる。市場メカニズムを放棄した産業に未来がないことは自明の理である。このようなことばかりやっていては、地方創生どころか地方の破壊につながってしまうだろう。
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