米国アラスカ州にいる数千羽の野鳥で、くちばしが異常に伸びて湾曲する奇形が確認されている。この原因は長らく不明だったが、最新のDNA分析技術を用いた分析により、20年来の謎が解明に近づいている。
【写真】網にかかった鳥たちのフォトギャラリー8点
分析の結果、コガラウイルス(poecivirus、コガラ属のウイルスの意)という新種のウイルスが、コガラやカラスなどの鳥にくちばしの奇形を起こしている可能性があると判明した。くちばしがゆがんだ箸のように交差してしまうこともあり、そうなると餓死したり、毛づくろいができなくなり早死にしてしまう。
「このウイルスにより、世界中の鳥類の健康が危険にさらされるかもしれません。特に、絶滅が危惧される不安定な種は打撃も大きくなります」と話すのは、アンカレッジにある米国地質調査所(USGS)アラスカ科学センターの調査野生生物学者、コリーン・ヘンデル氏だ。
この奇形は既に広まりつつある。北米の太平洋岸北西部、英国、インド、南米の野鳥愛好家から、くちばしに異常がある鳥が増えているとの報告が寄せられており、北米で24種、英国で36種の鳥に奇形が確認されている。
こうした奇形は「鳥ケラチン障害」と呼ばれる。今回見つかったウイルスがその原因だとすると、多くの疑問が浮かんでくる。この病原体は最近現れたのか? 新たに進化したウイルスなのか? なぜ広がっているのか? 拡大を促す要因は環境にあるのか?
USGSの生物学者たちが、アメリカコガラ (Poecile atricapillus)の奇形に初めて気付いたのは1990年代後半のことだ。以来、彼らはカリフォルニアの分子科学者らの協力を得て、原因の解明に取り組んできた。確実に突き止めたとはまだ言えないが、研究チームは7月に発表した論文で「アメリカコガラとコガラウイルス感染と鳥ケラチン障害の間には、揺るぎない、統計的に有意な相関」を発見したと慎重に述べている。
くちばしに奇形のあるアメリカコガラ19羽を検査したところ、すべてコガラウイルスに感染していたが、奇形のない個体は9羽のうち2羽しか感染していなかった。この2羽が感染していながら奇形を生じていない理由は不明だが、感染時期がごく最近のため、くちばしの異常成長がまだ現れていなかった可能性がある。このほか、くちばしに奇形のあるヒメコバシガラス(Corvus caurinus)2羽、ムネアカゴジュウカラ(Sitta canadensis)2羽からもウイルスが検出された。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の疾患生態学者、マクシーン・ジルバーバーグ氏は、「新種のウイルスを発見したことに大変興奮しています。奇形の原因はこのウイルスである可能性が高いと思われますが、まだ証明はできていません」と話す。同氏はカリフォルニア科学アカデミーのチームと連携し、次世代シーケンサーと呼ばれる最新のゲノム配列分析機器を用いて、ウイルスの存在と鳥ケラチン障害との関係を発見した。