欧州各国の議員はテロとの戦いで新たな対象に狙いを定めた。暗号化だ。
フランスのカズヌーブ内相は23日にベルリンでドイツのデメジエール内相と会談し、欧州連合(EU)全体で通信の暗号化を制限する新たな対策について協議する。カズヌーブ氏は先週記者団に対し、「これはテロとの戦いの主要課題だ」と述べた。
電話の傍受などは、長年テロ対策担当者がテロの容疑者を追跡し、通信を監視するために用いてきた手段だ。だが、エンドツーエンドの暗号化機能を標準装備したオンラインプラットフォームやアプリの成長は、フェイスブックの対話アプリ「ワッツアップ」やアップルの「iMessage(アイメッセージ)」などが今や欧州の情報機関にとって解読不能になったことを意味する。
パリやブリュッセルのテロ攻撃に関与した過激派組織「イスラム国」(IS)の下部組織がどう連携しているかが明らかになるにつれ、過激派にとって欧州でテロを遂行するにはこうした暗号化メッセージが不可欠であることが分かってきた。欧州でテロ対策を巡る議論が米国の論調に傾きつつある中、EU情報機関の上層部は法律の改正を強く働きかけている。
米政府関係者は暗号化の普及を嘆いている。というのも2013年にエドワード・スノーデン氏の暴露がきっかけで情報機関が当時秘密裏に行っていた大規模なインターネット上の通信記録の傍受に対して反発が起きて以来、暗号化が普及したからだ。
米連邦捜査局(FBI)のコミー長官は5月に「暗号化の利用はテロリストの主要ノウハウだ」と語っている。
フランスのカルバル国内治安総局(DGSI)長官は、昨年11月のパリの銃乱射事件以降、数ギガバイトのデータを収集したが「ほとんどは暗号化され、解読不能だ」と述べた。テロ襲撃犯であるISの下部組織は対話アプリ「ワッツアップ」と「テレグラム」を使用していたが、このいずれにもエンドツーエンドの暗号化機能が備わっている。
暗号化問題に直面し、欧州のテロ対策関係者は時に常軌を逸した行動に出てまで暗号化の裏をかこうとしている。
例えば、英国の私服警官は、捜査対象の企業の雇用主の仕事用の電話を見せてもらうために、その企業の人事部関係者を装ったりもした。取得した大量の情報の中にはシリアのISのスパイとの通信が含まれていた。
(ノウハウは)進歩しているが、ある欧州情報機関の高官は、最近の相次ぐテロ攻撃から手掛かりを見つける作業は、対話が暗号化されているために「何度も何度も」壁に突き当たっていると話す。
その高官は「非常に大きな脅威にさらされているのに、我々は常に片手を後ろ手で縛られた状態で捜査しているようなものだ」とした上で、「誰かがテロ組織の一員だと分かっていても、彼らの対話をすべて解読できないため、点と点を結ぶのに必要以上に時間が掛かっている」と語った。