緊急対談!
急速に拡大する「チケット転売 サービス」について考える
チケット転売サービスのサイトが今、注目を集めている。そこには良い面もあるが、 数千円のチケットが何万円にも跳ね上がって売られていたり、昨年の紅白歌合戦では 偽造チケットが大量に出品され、高額で落札したのに入場できない音楽ファンが多数いたりと、 大きな社会問題や事件にもなっている。テレビCM等で認知が広がってはいるが、 「チケット転売サービス」は、実は音楽業界が認めているものではない。 そこで今回は、プロダクションとコンサートプロモーターのお2人に、 この問題についての見解と実情を訴えていただいた。
text:阿刀“DA”大志 text:内海裕之
野村達矢さん
(一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション常務取締役執行役員)
中西健夫さん
(一般社団法人 コンサートプロモーターズ協会会長、株式会社ディスクガレージ代表取締役社長)
突き詰めると、この問題は音楽文化の継承に大きな損失をもたらすことになってしまうんです。
チケット転売サイトの問題点
最近、チケット転売サイトが音楽業界で問題になっていますが、チケットの転売というのは以前から問題視されていました。今、これだけ大きな問題になっている理由は?
中西これはもう単純で、今まではC to Cでやり取りされていたところに、転売サイトというビジネスとして仲介する大手企業が出てきたんですよ。大手が始めたことで転売の規模が大きくなってしまったというのがこれまでとの大きな違いだと思います。
具体的にはどんな問題が起きているんでしょうか?
中西まずひとつは、転売目的で購入したチケットが以前よりもたやすく売られるようになったこと。それと、テレビCMなどを大量に打つことでポピュラリティを得ているがゆえに、“信頼されているサイト”だという認識がユーザーの間に広がったことですね。だけど、実際には偽造チケット等の入場できないチケットが売られている。これは非常に大きな問題です。転売サイトは偽造チケットかどうかをチェックする機能が弱いので、こういうことが頻繁に起こってくると、音楽業界の信憑性まで問われてしまう。
野村ユーザーにしてみたら、あれだけ大々的にCMを打っていて、サイトに行ってみるとさも安全ですよというようなことが書いてあるので、音楽業界の人たちが公認しているように見えると思うんです。だけど、実はまったくそうではないということも知ってもらいたいんです。
なるほど。
購入枚数制限を極端に少なくすることで友達と一緒に行けなくなったり、楽しみ方を制限した方法でしかチケットを販売できなくなってしまうという弊害も出てきているんです。-野村-
野村こうして転売がやりやすくなってしまったので僕らも対策を練っているんですけど、本来お客さんが不都合になるような売り方はしちゃいけないわけじゃないですか。だけど、入場時に個人認証のシステムを取り入れることで“お客さんを疑う”という姿勢で迎え入れざるを得なかったり、チケットの購入枚数制限を極端に少なくすることで友達と一緒にコンサートに行けなくなってしまったり、僕らはエンタテインメントを供給しているにもかかわらず、楽しみ方を制限した方法でしかチケットを販売できなくなってしまうという弊害も出てきているんです。さらに問題なのは、仮に5,000円のチケットを2万円とか定価よりも高い値段で売った場合、その差額分はアーティストサイドにまったく還元されていないんです。転売サイトの手数料とチケットを出品した人の個人的な利益にしかなっていない。僕らが知らないところで、客席の中に2万円分のエンタテインメントを求めている観客を入場させてしまっている。こういったことが続くと、僕らがコンサートビジネスを継続していくうえでチケット収入という基盤が崩れて、次の新しいエンタテインメントに対する投資につながらなくなる。つまり、突き詰めると、音楽文化の継承に大きな損失をもたらすことになってしまうんです。
僕らには“一定の料金で1人でも多くの人に楽しんでもらいたい”という思いがある。お金さえ積めば買えてしまうというのはアーティストの意向とも反するところがあるわけです。-中西-
中西それに、僕らには“一定の料金で1人でも多くの人に楽しんでもらいたい”という思いがあるんですよね。お金さえ積めば買えてしまうというのはアーティストの意向とも反するところがあるわけです。
野村ただ、ああいう転売サイトに対する需要があるというのも事実で、僕らも理解している部分はあります。チケットを買ったけれどもコンサートにやむを得ない理由で行けなくなりました、だったらチケットがもったいない、誰か興味のある人に観てもらいたい、でも自分の周りにそういう人がいない、そうなったらネットなりで転売したい―そういう気持ちになるのはわかるし、そういう需要があることも理解できる。なので、そこに関しては僕らも今後の対策として、たとえば一度買ったチケットをキャンセルできますとか、新しいルール作りをしていかなきゃいけない。転売サイトがよろしくないというのと同時に、チケット購入やキャンセルに関するルール改正をしつつ、キャンセルしたチケットのその後のケアまでできる仕組みを作っていかなきゃいけないと考えています。
著作権的な問題にも関連
そういった前向きな対策作りも少しずつ動き出しているんですね。
中西これはとても大きいことで、今までは「一度購入したチケットのキャンセルはできません」って僕らは言い切っていたんですよ。今までの概念を覆すことになるので慎重に話を進めなきゃいけない部分はあるんですけど、そこをまず僕らが変えていかないかぎりはこの問題に関して先へは進めないなと。それと、たとえば現在は東京ドームのアリーナ1列目と2階席の一番後ろの席を同じ価格で販売していますけど、転売サイトを見ると、席によって確実に値段が違ってきているという世の中のニーズがあるんですよ。こういうことも含めて、我々はこれまでの凝り固まった古いルールにもフレキシブルに対応していかなきゃいけない。そこで、イープラス、CNプレイガイド、チケットぴあ、ローソンチケットが加盟しているチケッティング協議会との話し合いもすでに始めています。
最近、海外のライブや日本の洋楽系フェスだとVIPチケットで差をつけたりしていますよね。
中西これは転売サイトとは別の問題です。というのも、コンサートにおける著作権使用料の規定については、JASRACも柔軟な対応をしてくれている部分もありますが、基本的にチケット料金の平均値に対して料率がかかるという仕組みになっているんです。たとえば、100万円と1円のチケットを作るとするじゃないですか。そうすると、「100万1円÷2」が平均単価になってしまうんです。なので、ルールに縛られたまま来ている僕らにとって、これはいろんなことを見直す良いきっかけだと思います。
野村僕らは著作権料をもらう立場でもあるので、一概に使用料が下がればいいっていうわけでもないんですけど、中西さんがおっしゃるように、コンサートでたくさんの人の前で楽曲を演奏する場合に著作権使用料を支払う仕組みが非常に古いんですね。なので、チケットの料金を上げればいいかというと、そうすることによってライブの制作費が上がってしまう。だから、そこの対策もしていかないと、海外のVIP席みたいな形でチケット料金を上げることがチケットの収入を上げることにはつながらないんです。
中西実はチケット転売問題と著作権の話ってつながっているんですよ。
アーティストの想い
海外では最前列のチケットをオークション制にしてうまくいったという成功例もあるようですけど、それをそのまま日本に持ち込むことはちょっと現実的ではないんですね。
中西そうですね、オークションという形で値づけをすることが、いいことなのかどうかという、モラル的な問題もあります。それに、お客さんのニーズに合わせて値段を高くすることでアーティストや制作側のメンタリティとそぐわない部分も出てくると思うんです。
チケットの値段のつけ方にもアーティストの気持ちが込められてますからね。
野村コンサートタイトル、会場の選び方、日程、チケット料金設定っていうのはアーティストからのメッセージだと思うんですよね。それを心ない人たちによってかき回されてしまうことに心を痛めている部分もあります。
以前、お金がないお客さんのためにチケット代1,000円のライブを組んだら、そのチケットがオークションで1万円を超えていると知って悲しい思いをしたという話を聞いたことがあります。
中西制作者サイドの気持ちとユーザーの受け取り方っていうのも難しい部分ですよね。1,000円でやるっていうのも僕らのマスターベーションだったのかなって思ったり。なので、まず僕らはチケットのキャンセルについて、そしてチケットの値づけの仕方についてもう一度考えます。あとは、チケットを売る時期によって値段を変えてもいいんじゃないかとも思ってます。たとえば、公演1週間前にコンサートに行けることがわかる人も結構いると思うんですよ。そういうユーザーのために“1週間前チケット”というのを用意して通常の1.5倍の値段で販売するとか。理にはかなっていると思うんですけど。
野村これまで一次販売までしか管理してこなかったものを、大きなルールやフォーマットを考えたうえで、公式二次流通という形にできれば、キャンセルされたチケットを引き取って公演直前に販売するという新しい習慣にもつなげられると思います。
新しいルール作りへ
今、チケット転売サイトの存在は大きな問題になっていますが、それが音楽業界の新しい形を作るきっかけにもなっているんですね。
野村そうですね。ただ、ユーザーからしたら、僕たちが転売サイト側と直接話をすればいいじゃんって思う部分もあると思うんです。だけど、そういう人たちと対話する以前に、チケットを買う人たちにこういう問題が起きているということを知ってほしい。そこから解決に向けて動き出したいと思っています。そうしないといつまでたっても同じことの繰り返しになってしまうし、チケット売買のモラルは全員で共有しないといけない部分だと思うんですよね。インターネットの発達に法律が間に合っていないところもありますけど、まずはモラルの部分を理解してもらったうえで、「こういうマナーが必要なんじゃないの?」って一緒に話し合っていくことが大事だと思っています。
中西アーティスト側とユーザー側、2つの目線で考えればどういうプロセスが必要か見えてくると思うんですよ。そして、そのうえで転売サイトの人たちと話をして、偽物のチケットを出されると僕らの信頼まで失われるということを理解してもらったあとに、「じゃあ、一緒に手を組んでやれることは何か」という話をしていかなきゃいけないと思っています。