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リオで取材に応じてくれた高橋(左)と松友ペア。色紙には応援の感謝に「ありがとうございました!!」と記してくれた【平野貴也】リオで取材に応じてくれた高橋(左)と松友ペア。色紙には応援の感謝に「ありがとうございました!!」と記してくれた【平野貴也】

バド高橋・松友 独占インタビュー
金メダルペアが明かす強さの秘密

(スポーツナビ)

 当事者にとっても夢のような出来事だった。五輪のバドミントン女子ダブルスで初優勝を飾り「君が代」を聞く2人は、とても美しかった。高橋礼華、松友美佐紀(ともに日本ユニシス)が日本バドミントン界に初めてもたらした金メダルは、先人たちの思いを結実させる「歴史を変えた証拠」だ。決勝戦では敗戦寸前に陥ったが、大逆襲で世界ランク1位の底力を見せてくれた。優勝候補に挙げられるプレッシャーを受け、決勝で苦境に立たされ、それでも勝ち切って金メダルを手に入れることができた2人の強さの秘密を、大会の感想とともに当地で聞いた。

「勝ったけど、本当に五輪だよね?」

――あらためて、大会を振り返っていただけますか?

高橋 自分たちの力を出し切ることを目標にやっていましたし、6試合すべて、内容面でそれがまったくできなかったという試合はなく、やりたいプレーができました。もちろん、金メダルを取りたいと思っていましたけど、世界選手権でプレッシャーがかかってダメだった経験があるので(金メダルへの思いは)あまり周りには言わないようにしていました。でも、やっぱり、内に秘めた中で「どうしても負けたくない」という気持ちは、すごく強かったです。

松友 初出場でどんな場所なのかも分からずにリオへ来ましたけど、来る前に「五輪でメダルを獲得する確率が高いのは、初出場の選手」という話を聞いていて(笑)、実際に純粋に新鮮な気持ちで臨めました。バドミントンの年間のカレンダーは、毎年同じようなサイクルですが、五輪は4年に1度しかなく、臨み方自体が新鮮でした。この五輪で結果を残したいという思いで4年間ずっとやってきたので、初戦はものすごく緊張しました。でも、単純に1カ月間、実戦がなかったので試合勘がなかったという部分もあります。2回戦からは自分たちらしいプレーができたと思います。充実した1週間だったと思います。

――日本バドミントン界初の金メダルを獲得した実感は、いかがですか?

松友 家族をはじめ、周りの方がたくさん喜んでくれたことが、一番良かったです。

高橋 私は、ツイッターのフォロワー数が1万人くらい増えたんですけど、芸能人とか芸人さんからフォローがきたり、「バトミントン勝った! すごい!」と話題にしてくれているのを見て、ほかにもたくさん話題がある中で、「発信力のある人たちまでバドミントンを見てくれているの?」と驚きました。ただ、自分自身の感覚としては「勝ったけど、本当に五輪だよね?」という感じで、まだピンと来ていないんですけど(笑)。

――決勝戦のファイナルゲーム、16−19になったときは、思わずダメなのかと思ってしまいましたが、大逆転にしびれました。

高橋 正直、最後の方はどうやって勝ったか覚えていないんです。一番印象に残っている試合なんですけど、一番覚えていない試合です(笑)。見ている人は、負けたなって思ったでしょうね。でも、意外と冷静に「1点取れば、どうにかなるんじゃないか」という気持ちが湧いていました。私は、変な自信というか、競っていて緊張感のあるときとか、負けそうになっているときに、逆に燃えてくるんです。「ここから逆転したら本当にすごい。絶対に勝ってやろう。どうすれば、勝てるかな」という気持ちになります。

松友 私は、まあまあ覚えています。1ゲーム目は、自分がやらなければいけないことが全然できなかったんですけど、それでも18点まで取れていたので、少しずつ(相手を揺さぶることが)できれば、大丈夫かなと思っていました。見ている方よりも私たちは苦しくなかったですよ、きっと。もちろん勝ちたいので、言葉としては少し矛盾するかもしれないですけど、ファイナルは、本当に1球1球、楽しんでいました(笑)。本当にラストで追い込まれた場面からは、自分たちのやってきたことがまとめて出せたかなという気がします。

松友「(高橋選手を)尊敬、信用している」

「自分が持っていないものを、ちょうどうまく互いが持っている」と話す松友(左)。高橋も「本当に2人で1つのペア」と信頼を寄せ合う【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】「自分が持っていないものを、ちょうどうまく互いが持っている」と話す松友(左)。高橋も「本当に2人で1つのペア」と信頼を寄せ合う【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】――本当に抜群の連係でしたね。2人のコンビネーションの良さの秘密は、どんなところにあるのでしょうか? プレースタイルも性格も違うということですが、お互いにどんなパートナーだと思っていますか?

高橋 松友は、真面目でストイックですね。練習しなければいけないと思うことがあれば、すぐにやるタイプ。私は基本的に感覚が先にくるので、まず休もうよと思ってしまいます。

松友 先輩は、バドミントンに対しては本当に真面目だし、人を見る目とか観察力がすごいです。相手の癖とか弱点をすぐに見抜きます。大体、私よりも他選手の試合結果を先に知っていますし、試合もよく見ているんだと思います。ほかの選手の良いプレーもすごく見ていて、まねをしていることも多いと思います。

高橋 私は、いつも「こういう癖の人だな」って先に見ちゃうんですよね。それで、どうするかは松友に考えてもらう(笑)。意見が衝突してケンカになることは、ないです。意見が違えば1回ずつやってみようかという感じです。そもそも、あまり意見が異なること自体がないですけど。

――2人はなぜ意見が衝突しないのでしょうか?

松友 衝突というのは、パートナーに「なんでこういうプレーができないの?」と言ってしまう場面などの話ですよね? そういう考え方になるということは、自分がうまくなろうとしていないんだと思うんです。すべての責任を相手にぶつけてしまっているだけですよね。自分がどんなことをできるようになれば、2人でもっと良いプレーができるようになるかというふうに考えていれば、意見が異なったとしても、互いを生かせるように考えるだけで、衝突はしないと思います。あとは、勝ちたい人と楽しみたい人という感じで進みたい道が違う場合があると思いますけど、私たちはお互いが持っている意見が、自分たちが勝つためのものだと分かっています。状況を良くするために、自分がもっとできないかなと思えないこと自体が、おかしいと思います。自分で言うのも何ですけど、私は本当に先輩のことを尊敬しているし、信用しています。お互いがそうやって思えるから成り立つことかもしれないので、本当は難しいことなのかもしれないとは思いますけど。

高橋 ほかのペアを見て(反面教師のように)学んできたこともあります。衝突しているのを見て、どうしてあんなふうになってしまうのかなと思うことはありました。文句を言っている選手がもっとうまくなればいい話じゃないのかなって思ってしまいます。最近だと、前後を入れ替えた場合の連係ですね。私が後ろで松友が前に入るのが得意なパターンですけど、逆の形をやってみました。そのときに「松友が後ろでこういうプレーをしてくれないから……」と考えるのではなくて、私がどんなふうにネット前の球を触れば、松友が前に出られるようになるのかなと考えました。もちろん、全部はできないので、フォローする形をお願いすることもありますけど。

――2人が成長してきた理由や、連係を誇りに思う理由がよく分かる話ですね。では、パートナーだけに限らず、自分たちはどんなペアだと認識していますか?

松友 自分が持っていないものを、ちょうどうまく互いが持っていると思いますし、それが本当に良い意味ですごく合わさったものですね。そういうペアは、なかなかできないと思いますし、自分たちのことですけど、すごいなと思います。

高橋 本当に2人で1つのペアだなと思っています。決勝戦でもそうでしたけど、本当にコンビネーションだけは自分の中で譲れません。そういうところで負けていたら勝てないですしね。点数を取りに行く時(テンポが上がる展開)でも、2人で1つのプレーができていると感じますし、本当に2人で1つだなと思っています。

「頑張れば何かが起こる」伝わったらうれしい

東京五輪への挑戦こそ明言しないものの、まだ手にしていない世界選手権のタイトル獲得へ意欲を示してくれた【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】東京五輪への挑戦こそ明言しないものの、まだ手にしていない世界選手権のタイトル獲得へ意欲を示してくれた【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】――ところで、2人にとっては初めての五輪でしたが、どんなことを感じましたか?

高橋 私は人見知りをしないので、見たいなと思う競技の日本人選手に会ったら「試合、いつからですか?」と話しかけていました。バスケットボールが見たくて、渡嘉敷来夢さんに会って予定を聞いたんですけど、バドミントンと日程が重なってしまって結局、見られませんでした……。でも、陸上の男子400メートルリレーは見れました! すごく感動して、めちゃくちゃ騒いじゃいました。

――高橋選手は、逆転勝ちした決勝戦の後に「レスリングの伊調馨さんが大逆転した試合を見て……」という話もしていましたよね?

高橋 いろいろなことにチャレンジしたくて、例えば引退後にバドミントンだけの世界で働くことというのは、あまり考えられないです。だから、ほかの競技の人と話すのは好きです。友だちになるほどではなくても、知らないことを知ることができます。ほかの競技の選手でも私たちのことを知ってくれている人がいて、バドミントンも有名になって来たかなと思う瞬間もあってうれしかったです(笑)。

松友 ほかの大会だと、会場にいるのは現地のお客さんがほとんどです。大々的に各国のご家族や応援団が来るということは、あまりありません。五輪は、本当にそこが面白いなと思いました。別競技の関係者の方も自国の選手を応援しに来ていて、日本も含めて、どの国の選手にも応援に来ている人がいるって、すごいなと思いました。

――では、少し大会の話から離れます。前回のロンドン五輪は、代表権争いに敗れて出場できませんでした。そこからリオまでは、どんな4年間でしたか?

松友 ロンドン五輪の前から少しずつ主要な国際大会でベスト8やベスト4に入れるようになって、結果が出るようになりました。2014年に(年間成績上位8組のみが参加する)スーパーシリーズファイナルを優勝できるくらいに実力がついて、初めて世界ランク1位になりました。でも、そこから自分たちは勝たなければいけない、うまくやらなければいけないという考え方になってしまいました。それで、15年から始まった今回の(世界ランクによる)五輪出場権獲得レースの前半は、勝てない時期が続きました。でも、その時期に「自分たちが今までやってきたことを試合で出して、初めて次(の進歩)がある」と思えるようになって、相手を倒すために自分たちがどうすればいいかを純粋に考えてバドミントンをできるようになりました。勝てなかった時期があって、それでも上を見続けて進んできたから今があるので、本当に頑張ってきて良かったなと思います。今大会も初戦は良くなかったですけど、2回戦からちゃんとできたのは、昨年8月の世界選手権で自分たちの力が出せなくて負けたという経験があったから、気持ちを切り替えて臨めたのだと思います。

高橋 世界ランク1位になった頃は、世界選手権のベスト16で負けて、プレッシャーがどんどん大きくなってしまいました。松友がケガをして試合に出られない時期もあって、結果を出さなくちゃいけないのに……とすごく追い込まれて、どうしたらいいか分からなくなりました。その後、(15年11月の)中国オープンで、準優勝をした時から少しずつ、こういうふうにやっていけばいいんだなと思えて。レースの前半は苦しかったけど、いい経験かなと思います。

――9月には、東京でヨネックスジャパンオープンがあり、今回の活躍で「タカ・マツ」ペアに興味を持った方や、バドミントンを見てみたいという方にプレーを見てもらえる機会があります。競技の知名度アップや普及に貢献したいという気持ちはありますか?

松友 自分たちの決勝戦を見て面白いなと思ってくれた方がたくさんいて、それが普及につながればうれしいですけど、実際のところは、そういうことを考えて何かをしようと思うわけではなくて、どうやったらもっとうまくなれるのか、強くなれるのかということばかり考えています(笑)。

高橋 私も、自分たちがうまくなって、いつも1番でいたいという気持ちだけです。それが、バトミントンが広まるきっかけになってくれればいいな、とは思いますけど。ただ、今回の決勝戦に関して言えば、バトミントンに限らないところで「苦しくなったからって諦めなくたっていい、頑張れば何かが起こるかもしれない」ということが、伝わったのであれば、人として本当にうれしいなと思っているところはあります。アスリートの世界だけの話じゃなくて、どんな人のどんな場面にも言えることだと思うので。

――それを伝えるために、わざとあの展開に持ち込むということは……

高橋・松友 絶対、できません(笑)!

世界選手権でも結果を残したい

――試合後、2020年東京五輪については明言しませんでしたが、今後はどのような気持ちで進んでいきたいですか?

高橋 今回は五輪初出場だからできたことも多かったと思います。もし東京五輪に出場したら、もっとすごいプレッシャーがかかるのかなと思います。それに、試合後にも言いましたけど、正直、本当に歳(26歳)も歳なので(笑)。いつ、ケガをするかも分からないですし、今の動きを4年後まで持続できるかと言われたら、今ほどバンバンとスマッシュを打てないだろうと思います。だから、2020年については、今すぐには答えられないです。今後は、まず一番に世界選手権です。まだ結果を残せていない大会(最高位はベスト16)なので、そこで金メダルを取って、もう一度、日の丸が一番高いところに上がるのを見たいです。それが、東京(五輪)につながっていればいいんじゃないかなという気持ちです。

松友 国際大会でも、君が代が流れる大会は限られています。五輪か、世界選手権か、アジア大会か、団体戦しかないので、すごく貴重な経験ができたと思います。またもう1回、そういう場面ができたらいいなと思いますね。特に、世界選手権はベスト8に入ったこともないので、競技を辞めるまでには、世界選手権でも結果を残したいなと思っています。

――五輪を取ってもまだ目指せる大会が残っているんですね。

高橋 五輪、スーパーシリーズファイナル、全英オープンのタイトルは取れたので、まだ取っていない世界選手権と、できれば団体戦のユーバー杯(女子の国別対抗戦)や、スディルマン杯(男女混合対抗戦)も取りたいです。中国の林丹選手(北京、ロンドン五輪で男子シングルスを連覇した英雄的選手)がたぶん、制覇していると思います。そこまで並べるかは分かりませんけれど、そういう選手になりたいです。

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平野貴也

平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。