乃木坂46 新しいファン層を呼び込む3つの仕掛け
日経エンタテインメント!
乃木坂46の強さは、既存のアイドルファンだけでなく、それまではアイドルに興味を抱くことのなかった新たなファン層を開拓したことにある。 彼女たちが切り開いた3つのアプローチこそが「乃木坂46らしさ」と言われる独自性だ。その歩みを、関係者の証言と共に検証していく。
乃木坂46の強さは、既存のアイドルファンだけでなく、それまではアイドルに興味を抱くことのなかった新たなファン層を開拓したことにある。 彼女たちが切り開いた3つのアプローチこそが「乃木坂46らしさ」と言われる独自性だ。その歩みを、関係者の証言と共に検証していく。
- (写真:佐賀章広)
【1.音楽映像】
■ 気鋭の作家による作品で音楽通も魅了
乃木坂46の人気がアイドルファン以外にも拡大しているのは、世代問わず親しめる音楽と映像によるところが大きい。乃木坂46の楽曲は、柔らかな生音のサウンド感や流れるようなメロディーが特徴。「楽曲制作で大切にしているのが、王道の美しいメロディーライン。前後に整合性がない展開にならないよう意識します」と語るのは『気づいたら片想い』や『ハルジオンが咲く頃』などの作曲を手がけたAkira Sunset氏。にぎやかなアイドルソングが少なくないなかで、王道のメロディー感やピアノやストリングスを用いた楽曲はある意味で特異だが、ゆえに日頃はアイドルの楽曲に耳を傾けることがない層にも受け入れられた。
そんな乃木坂46らしさが顕著なのが5thシングル『君の名は希望』(杉山勝彦氏作曲、13年3月リリース)。柔らかなピアノで始まるナンバーで、透明感のある歌声と相まって上品な印象を与えた。
一方で、しっとりとした旋律や歌声の個性がしっかりしているため、サウンドは意外にもチャレンジできるという。「彼女たちが歌うだけでどこか憂いを帯び、ジャンルを超越して乃木坂46らしくなるので、トラックは大胆に攻められる。『ハルジオン~』はEDMとストリングス、『今、話したい誰かがいる』のカップリング曲『ポピパッパパー』はEDMとスキャットを掛け合わせた」(Akira Sunset氏)。トップクリエイターがしのぎを削り新しい表現を追求した結果、乃木坂46のアーティスト性もより高まり、耳の肥えたリスナーにも刺さっているようだ。
映像面もまた、数多くの広告賞を受賞する柳沢翔氏(『ガールズルール』『気づいたら片想い』など)や、新人映画賞を受賞した山戸結希氏(『ごめんね ずっと…』『ハルジオンが咲く頃』)などの気鋭の凄腕映像作家たちが彩ってきた。映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』や多くのミュージックビデオを手がけている丸山健志氏は「乃木坂46のメンバーからは、自分たちを輝かせてもらうためには素材となることに徹する心意気が感じられる」と語る。
■乃木坂46は女優集団
『気づいたら片想い』でセンターの西野七瀬が余命わずかな日々を仲間と懸命に生きようとする主人公を演じるなど、表現力が求められるドラマ仕立ての作品が多い。
「『君の名は希望』は演劇のエチュードが題材でしたが、あのアイデアは乃木坂46でなければできないだろうし、女優集団という印象を強くした作品だと思う。僕が手がけた『そんなバカな…』(7thシングル『バレッタ』カップリング曲)はすでに上品さ、女の子らしさが定着していた彼女たちがコントに挑戦。アイドル部という、自らを茶化すような設定も、嫌がるどころかアドリブも自主的にコミカルに演じてくれた。イメージに縛られず、作品ごとに“透明な色”になれるのが魅力。作品をクリエーターと共に作り上げる意識が高いので、創作意欲がわきます」(丸山氏)
さらに彼女たちの表現力に磨きをかけているのが、趣向を凝らした個人プロモーションビデオの存在だろう。シングルリリースごとにメンバー全員が1人ずつショートドラマを演じたり、歌い踊ったりと個性を発揮する映像がCDに同梱されている。生駒里奈が堤幸彦監督と組むなど、こちらでもトップクリエイターの要望に丁寧に応えている。結果的に彼女たちの多面的な魅力が引き出され、映像にこだわりのあるハイセンスなユーザーをも引きつけている。
【2.雑誌モデル】
■ファッション誌やイベントで女性の憧れに
乃木坂46の躍進を支える大きな原動力が「女子人気」の高さだ。ファッション誌やショーへの出演を重ねることで、今では同性の憧れの存在となっている。
きっかけは、白石麻衣が13年よりファッション誌『Ray』の専属モデルになったことだ。香里奈が長い間看板モデルを務めた同誌は、それまでアイドルが専属を務めたことはなかった。白石を起用した経緯を守屋美穂編集長は「本誌は女の子から見てかわいいと思う“王道ガーリー”な上品かわいいスタイルがコンセプト。白石さんは上品でどこかはかなげだけど華があり、透明感のある雰囲気も魅力。本誌の求める女の子像にぴったりと思い、専属を依頼しました」と語る。
起用当初は、今ほど乃木坂46の知名度はなかったが、持ち前のビジュアルとアイドルの経験を生かした愛らしい表情作りなどで人気に。「初登場から半年後には読者からの人気モデルアンケートで上位になりました」(守屋氏)。
15年10月号で表紙を飾った際は、着用した服への問い合わせが相次いだ。「白石さんの着た服はおしなべて売れ行きがよいと評判。私たちの間では“まいやん売れ”と呼んでいます」(同)。透明感のある美肌を生かしたビューティーページ「メイクとヘアのれんしゅうちょう」も人気企画に。同誌では現在℃‐uteの鈴木愛理などほかにもアイドルの専属モデルがいるが、その道筋をつけたという意味でも白石の功績は大きい。
■モード系を着こなす 18歳
また、1期生最年少の齋藤飛鳥は2015年10月から『sweet』で連載を持つ。
コアターゲットが28歳で紗栄子やローラ、小嶋陽菜がメインを張るお姉さん雑誌の中で、齋藤はずば抜けて若い。年上向けのブランドを身につけてその感想をコラムにする企画だが、「若さがハンデになることはない」と連載を担当する宝島社・山口真澄氏は言う。「背はさほど高くないですが、とても小顔なのでどんな服もバランス良く着こなせる。持ち前の勘のよさでモード系を着こなし、クールな表情ができるのも魅力。着用したアイテムへの視点が面白く、今後もっと内面を見せることでさらに人気者になりそう」(山口氏)。連載開始から半年が過ぎた今、読者からの人気も上昇中で、新センターへの期待は高まっている。
乃木坂46には前述の2名のほか、西野七瀬が『non‐no』、橋本奈々未と松村沙友理は『CanCam』のモデルとして活躍。今年3月には、若い女性への高い認知度を背景に5人そろって「東京ガールズコレクション」(以下、TGC)にモデルとして出場した。
「白石さんは女性の『なりたい顔ランキング』で1位になるなど憧れの的。乃木坂46の皆さんは華やかだが作り込まれた感がない。ナチュラルさが同世代に刺さっているようです」とTGC実行委員会の西原基熙氏は話す。またこの時は、生駒里奈が世界的ブランド「ANNA SUI」のショーにシークレットモデルとして登場。「ハイブランドにアイドルが起用されることはまれ。ランウェイを歩く堂々とした姿にたくさんの歓声が飛んでいました」(同)。バックヤードでは出演の合間を縫って多数の取材もこなした。「緊張していてもアイドルとしての経験値から体が自然と動くのが強み。西野さんがショーの合間にウォーキングの先生に指導を仰ぐなど、プロ意識も高い」(同)。引き続き9月の秋/冬コレクションへの出演が決まっており、ますます女子たちの熱い視線を集めそうだ。
【3.ソロ活動】
■趣味を生かしたジャンルでコア層も獲得
グループの飛躍とともに乃木坂46は福神や選抜メンバーがソロでモデル、女優、バラエティなどに進出するようになり、さらに知名度をアップしている。
高山一実は13年頃からバラエティ出演が増え、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレ朝系)が14年に深夜枠で放送開始された当時から生徒役として準レギュラー出演。番組を担当する金井大介プロデューサーは「高山さんは計算ずくではなく、素直に感じたことを表情豊かに表現できる。特に泣けたり怒りを感じさせるような場面では、多くの視聴者が共感を抱くであろう表情のアップが番組には欠かせない。また、最近出演した生田絵梨花さんはものおじしない天然なキャラで、かわいいだけではない独自の世界を持っている。乃木坂46は文化系の雰囲気があり爽やかだけど、実は話すと面白いメンバーが多いんだなという印象を持ちました」と話す。
■女優として頭角を現す生駒
乃木坂46は演劇公演『16人のプリンシパル』を12年から3年連続で行ったことから、演技力を磨いてドラマや映画に起用されるメンバーが少なくない。生駒里奈もその1人で、かつてはバラエティ番組での活躍が多かったが、15年公開の『コープスパーティー』で映画初主演して女優としても頭角を現し、16年7月30日には続編『コープスパーティーBook of Shadows』が公開された。
同作を手がけた山田雅史監督は「こちらの要求にも素直に反応できて、前作よりも人間の内面に意識を向けて演じるようになったところに、大きな成長を感じる。まだまだたくさんの表情を持っているようなので、今回のようなホラーだけでなく、恋愛映画やコメディにも挑戦してほしい」と語る。
さらに最近は前面で活動している福神・選抜メンバーの活躍ばかりでなく、アンダーメンバーたちが趣味・特技を個人の仕事に生かして、ソロ活動を積極的に展開。これが各種ジャンルのコアファンの受け皿になっているのも乃木坂46ならではの強みだ(表参照)。
彼女たちにとって個人の仕事は、大人数のグループのなかで個性をアピールする場となっているだけでない。特徴のあるソロ活動が握手会でのファンとの会話の糸口となり、交流の潤滑剤となって、固定ファン獲得に結びついているようだ。
(ライター、橘川有子、高倉文紀)
[日経エンタテインメント! 2016年8月号の記事を再構成]
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