3人目の「ありがとうございまして」に出会った
突然ですが「ありがとうございまして」の話。
この言葉、奇妙じゃないですか?使い方としてはこう。
「先日は結構なものを頂いてありがとうございまして~」
「ありがとうございました」じゃないんですよ。「まして」なんです。「ました」でいいじゃないですか。「ありがとうございました」で。
でも「ありがとうございまして」を使う人の3人目に出会ってしまったのです。出会ったのは京都の客先の社長の奥さん。「ああもうサキさんいつもお世話になってありがとうございまして」って。
あっ・・・出た!「ありがとうございまして」ユーザーやん。
なんだかもうあとは「まして」が気になってしまって。そもそも「ありがとうございまして」をちゃんと分解したことないなと思ってたのです。モヤモヤするけど正しいのかおかしいのかもあんまり良くわからなくって、奇妙だけど。
そんな「ありがとうございます」と「ありがとうございまして」を分解してみることにしてみたのでお付き合い下さい!
ありがとう
これは形容詞「ありがたい」ですね。
形容詞って何かというと状態や性質を表わす言葉ですね。自立語で活用があり、終止形が「い」で終わるやつ。自立語ってなんだっけ、って?
自立語 それだけで意味を表せる言葉
付属語 自立語の後ろにくっついて文節を作る単語のことです。
えっ、文節?
文節 意味を壊さない程度に小さく区切った言葉のこと。
うしろに「ねー」をつけると文節になるよって習いませんでしたっけ。
「土手に綺麗な花が咲いた」だったら
「土手にねー」「綺麗なねー」「花がねー」「咲いた」これが分節。
さて、「ありがたい」がなんで「ありがとう」になるかというと、形容詞が「存じます」とか「ございます」に繋がるときは「ウ音便」になるんですよ。
ウォンビンじゃなくて、ウ音便。はい、ティーブレイク。
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ございます
「ございます」は難しい。まず、ございますの語源から始めます。今度は古典ですよ。
ございますって「御座います」と昔の人は書いたりします。語源は鎌倉時代ごろに使われるようになった「御座有り」という動詞です。「有り」でピンと来た方は古典が得意だったんだろうなぁ。
- 有り(あり)
- 居り(をり)
- 侍り(はべり)
- いまそかり(いますがり)
そうですよ、ラ行変格活用ってやつです。ラ行四段活用と比べましょうか。
基本形 | 活用形 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
残る | 残 | ら | り | る | る | れ | れ |
御座有り | 御座有 | ら | り | り | る | れ | れ |
さてこの「御座有る」ですが
- 「いる」「ある」「行く」「来る」の尊敬語として
- 「である」「ている」を丁寧に言うための補助動詞として
二つの使われかたがあります。そして今回の御座有るは補助動詞としてのほうでつかわれています。はて、補助動詞?
補助動詞 他のものと繋がって補助的な役割を持つ動詞
ここでの御座有りは「ありがたい」事を丁寧に言うための補助動詞として使われていると考えられますね。
いやまて、それだったら「ありがとうござあり」になるはずじゃないかと。しかしこれが室町時代に「御座有る」とラ行四段に変化してしまったようなんですね。
しかしそれがその後大騒動を巻き起こします(おおげさ)
「御座有る」は言いにくいな・・・
「ご」「ざ」「あ」「る」か・・・
「ざ」も「あ」もア段の音が続くから言いにくいんじゃね?
じゃあくっつけちまうか!
という経緯だと思うんですが「御座有る」は「ござる」に変わるのでした。
さて、その「ござる」には続きがござる(笑)それは「申す」との結婚。「言う」の意味を表わす「申す」という動詞は中世ごろ他のいろんな動詞とくっついて、その動作を敬うような意味を持ち始めます。そこで生まれたのが「ござりもうす」しかしその「申す」も言葉が変化して生まれたのが今も使われている「ます」であります(笑)
このように「ござりもうす」は「ござります」に変化し、「り」がいつのまにか「い」に変わり「ございます」になったようです。
そしてここに「ありがとうございます」が完成したのでした。
「ました」「まして」の話
ましたの「た」は過去・完了・存続・確認を表わす助動詞ですね。「ありがとうございました」は以前に何かをしてもらってことにたいして感謝しているのですから「ました」で問題ないんです。
でもここに「ありがとうございまして」なる「して」が出てくるとなんなんだ、というのがこの記事のそもそもの始まりでした(だいぶ寄り道していますが)
じゃあこの「て」って何かというと、これも助詞です。接続助詞。「ます」の連用形の「まし」に「て」がつながって前の文と後ろの文をつなげる役割なんですよね。
だから意味としては「ありがとうございました、そして」となるはずなので、その後ろになにか言葉が出てくるはずなんですけど、省略されてるんですよねきっと。
「ありがとうございます、そして私は喜んでいます」とか
「ありがとうございます、そして皆様にはご迷惑をお掛けしました」とか。
その後ろはあえてはっきり言わず、相手にそれとなく感じてもらおうという作戦なのかなと思ったりもします。
最後に
「最後まで読んでいただいてどうもありがとうございまして~」
後ろの言葉をちょっと考えると不思議な言葉だけれども成り立ってもいいような気がしてきます。日本語って不思議です(自分は使わないけど)
そういえばこんな本、ありましたね!