(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年8月18日付)
証券会社はあまりにも弱気で、彼らが予想する米国企業の利益は低すぎると米国の市場は確信している――。今のところ、これ以外の解釈をする余地はほとんどない。ブルームバーグのデータによれば、S&P500株価指数の株価収益率(PER)は来年の予想利益ベースで18倍に達している。これは2002年以降で最も高い値で、2000年代の信用バブルのときにも、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和で資産価格を押し上げたときにも見られなかった水準だ。
企業業績に対する楽観論が根付きつつある兆候はほかにもある。S&P500指数では長い間、配当利回りの高い銘柄が支配的だった。ところがここ数週間、S&P500配当貴族指数*1のパフォーマンスが市場全体のそれを下回り始めた。公益株のように配当収入が見込まれる典型的なセクターも、トップの座を明け渡している。
また、自社株買いで先行し、市場全体を上回る株価パフォーマンスを何年も続けてきた銘柄も、足元では市場をアンダーパフォームしている。企業部門はここ数年、米国株の相場を決定付ける買い手だっただけに、自社株買いが減っているとの報道は、良き時代が終わった兆候だと受け止められてもおかしくない。
だが、決算発表シーズンが自社株買いにとって冴えないものになった(業績の伸び悩みは自社株買いに使う現金の不足を暗示する)にもかかわらず、株式市場は上値抵抗線を突破して新高値を更新している。この現象は、業績が拡大する良い時代が戻ってきたのでなければ正当化しづらい。
企業業績への楽観論が強まっていると考えられる理由はもう1つある。そう考えなければ過去の傾向との不一致を説明できない、というのがそれだ。S&P500の組み入れ銘柄の利益は4四半期連続で減少している。過去の例に従えば、これほど長期にわたって利益が減少すれば市場は常に弱気相場*2に陥る。
ところが、多くの証券会社が引き合いに出す企業業績が控えめなものになりがちなこの減益局面において、米国株式市場は10%を超える調整をすでに2度経ているにもかかわらず、弱気相場入りだけは免れているのだ。
従って、株価の大半は企業業績を材料に動いている。実際、割高に見える米国株に買いが入るときには、その主たる理由として業績の回復が挙げられることが多い。理屈はこうだ。まず、相場において重要なのは変化の方向であり、その点で言えば米国企業の利益は転換点に達したように思われる。また、第2四半期の利益は前年割れに終わったものの、そのマイナス幅は縮小しつつある。
*1=S&P500指数組み入れ銘柄のうち、過去25年間連続で増配している銘柄で構成される指数
*2=直近の高値から20%下落すること