核兵器禁止条約 一歩進めた意義はある
「核兵器のない世界」の実現に向け一歩前進した。
スイスのジュネーブで開かれていた国連の核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の締結交渉を2017年中に開始するよう国連総会に勧告する報告書を採択した。
具体的な年を盛り込んだ報告書の採択は、核兵器の非人道性に着目して禁止条約の締結を求める国際世論が、かつてないほど高まっていることを反映したものだ。
ただ全会一致にはならなかった。投票で多数決により、賛成68、反対22、棄権13で採択された。日本はスイスやスウェーデンなどとともに棄権した。核兵器廃絶への道の険しさを見せつけたとも言える。
賛成したメキシコやオーストリアなどは、作業部会の設置を主導した国々だ。昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の決裂を受けて、核軍縮の停滞に業を煮やし、禁止条約の早期締結を目指している。
一方、日本や豪州、北大西洋条約機構(NATO)諸国など、米国の「核の傘」に依存する国々は、安全保障を考慮しながら段階的に核軍縮を進めるべきだという立場から、禁止条約は時期尚早と考える。
これら段階的な核軍縮を求める国々の間でも、豪州、韓国、ドイツなどは反対、日本などは棄権と、対応が分かれた。非核保有国の間にも幾重にも溝がある。
非核保有国と、米露英仏中の核保有5カ国の分断状況はさらに深刻だ。核保有国は禁止条約に反対し、2月、5月、8月と開かれてきた作業部会に一度も参加しなかった。
報告書は秋の国連総会に提出される。メキシコなどが勧告をもとに、禁止条約の交渉開始を求める決議案を提出すると見られている。国連加盟国の過半数の107カ国が交渉入りを支持しているとされ、決議案が採択される可能性は十分にある。
「唯一の戦争被爆国」として核廃絶を訴えながら、「核の傘」に依存する日本は、核保有国と非核保有国の「橋渡し役」になると言ってきた。だが、その姿は見えず、棄権が象徴するように苦しい立場にある。
禁止条約は、内容が定まっているわけではない。メキシコなどが考えているのは、非核保有国だけでも核兵器の使用や保有を禁止する条約とされる。だが他にも、核廃絶の大枠をまず条約で定め、具体的内容はその後の交渉で決めていくという、枠組み条約などの考え方もある。
日本は、米国など核保有国を動かし、核廃絶の理想と安全保障の現実を結びつける議論にもっと積極的に参加する必要がある。報告書採択という意義ある一歩をいかす道に貢献すべきだ。