核兵器禁止条約づくりの交渉を来年始めるべきだ――。スイスで開かれてきた国連核軍縮作業部会が、今秋の国連総会に勧告する報告書を採択した。

 「核兵器の使用・威嚇は一般的に人道法に反する」とした国際司法裁判所の勧告的意見から今年で20年。いまだ核兵器を明確に禁じる国際法がないなか、条約づくりが具体的に動き出すなら、「核兵器のない世界」に向けた大きな一歩となろう。

 日本の姿勢は残念だった。作業部会では「現在の安全保障環境を考えれば、条約の交渉開始は時期尚早」との主張を繰り返し、報告書の採決は棄権した。

 核兵器の非人道性を最も知る国としてあまりに後ろ向きだ。作業部会をボイコットした核保有国も引き寄せ、今後はどう交渉に入るのか、日本が道筋を率先して考えるべきだ。

 約100カ国もの非核保有国が禁止条約を支持したのは、核保有国任せでは核兵器のない世界への展望が開けないことに対する不満の表れだ。

 米国とロシアの核軍縮交渉は止まったまま。米ロや中国は巨費を投じ、核戦力の近代化を進めている。北朝鮮は、核・ミサイル開発を進める。

 日本や欧州など、米国の「核の傘」の下に入る国々は、核兵器禁止条約は核の抑止力による安全保障のバランスを崩し、世界を不安定にする、と抵抗してきた。核廃絶に向けては、段階的に進める、というばかりだ。

 国連総会では、核保有国が、条約の交渉開始にそろって反対する見込みだ。被爆国・日本が核保有国側に加担するなら、国際社会に失望を与えよう。

 核抑止力に頼り続ける限り、人類は破滅のリスクから抜け出せない。最終的に核兵器を法的に禁じることは、世界に真の安全をもたらすために不可欠だ。

 一口に条約といっても、さまざまな案が出ている。

 一部の非核保有国や国際NGOの間では、核保有国抜きでも核兵器禁止を明文化しようとする急進的な案が支持を広げる。

 一方、これとは別に核廃絶を法的義務とすることに合意し、具体的な道筋は段階的に定める「枠組み条約」案もある。

 この案であれば、核抑止力への依存が一定期間は許容されるため、「核の傘」に頼る国々でも参加できる、との見方もある。日本にとって有力な選択肢となりうるのではないか。

 これから求められるのは、核兵器禁止条約をめぐる国際社会の決定的な亀裂を避ける方策だ。そのためのリーダーシップを日本に期待したい。