ある男が人通りの多い路上でラッパを吹き始めた。
その光景は珍しく、道行く人は足を止め、ラッパの音色を楽しみ、路上に置いてあったラッパのケースにおひねりを入れた。
それから、その路上には噂を聞きつけたラッパ吹きが増えた。人気のあるラッパ吹きは大勢の人を集め、多くのおひねりをもらっていた。
人気のないラッパ吹きは人通りの少ない通りで、だれにも聞いてもらえずひっそりと止めていった。だれの記憶にも残らなかった。
ラッパ吹きとして人気を集めるには「誰が」「何を吹くか」より重要な要素があった。
「どこで吹くか」だ。
下手くそなラッパ吹きでも良い場所を確保できれば、人を集めることが出来るようになった。
一方で確かな腕を持つラッパ吹きでも、場所が悪ければ人を集められず、一人ただ美しい音色を響かせるだけだった。
やがて多くの企業がラッパ吹きビジネスに目をつけラッパ吹きたちに専用の場を提供することになった。
そしてラッパ吹きからみかじめ料を徴収するようになった。
ある日、芸能人たちがラッパ吹きでお金儲け出来ることに気づいた。
彼らの持つスケールメリットを生かして少額のおひねりを大金に変えることができた。
ある企業はラッパ吹きのコンテストを開催した。投票で上位になるとより多くの聴衆と、おひねりを徴収することができた。
あるラッパ吹きはサクラを使って投票を増やし、ある企業は素人を装ってコンテストに参加したりした。
そのうち自らのラッパに火をつけて注目を浴びるものも現れた。人々は彼らに石を投げつけたが、間違えておひねりを投げつけることもあった。味をしめたラッパ吹きは、すべてが灰になるまであらゆるものに火をつけ続けた。やがてみんなに飽きられてしまい、燃やせるものもなくなってしまったため、最後は自分自身に火をつけてしまった。
ラッパ吹きでお金を稼げるらしい、そんな噂を聞きつけた人たちがラッパ吹きになった。
新しい世代のラッパ吹きたちはコミュニティを作っていった。最初はわずか15人ほどのセンスのないラッパ吹きばかりが揃っていた。
彼らはラッパの音色ではなく、ラッパの見た目や改造方法、人の集め方、おひねりの増やし方、の腕を磨いていった。
やがて、たまたま運良く人気がでたラッパ吹きの中に、教祖となるものが出てきた。教祖はラッパを法螺に持ち替え、若い世代に経典を伝えた。
教祖に憧れた信者の中には大学を卒業して、ラッパ吹きになるものや、会社をやめてラッパ吹きになるものもあらわれた。
彼らはプロのラッパ吹きではなく、プロの路上ラッパ吹きを目指しているらしい。それを見た人々は彼らをパッパラパラーだと揶揄した。
今日、ラッパ吹きはビジネスになった。
コンテストには毎日似たようなラッパ吹きが出るようになった。
昔を懐かしむ人たちは怒りに任せ石を投げるつもりが、間違えておひねりを投げてしまっている。
そんな中、確かな腕を持つラッパ吹きは、今でも誰もいないところで美しい音色を響かせているだろう。
僕はたまにそんなラッパの音色を聴いてみたいと思う。
- アーティスト: ブランキー・ジェット・シティ
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- 発売日: 2008/12/17
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