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ダイジェスト版 第2話 過去編①
*書籍化に伴い、ダイジェスト化いたしました◎ 2015. 8. 25
【母様は最強でした】
サティアは過去、三つの頃に誘拐された事があった。
それは、元冒険者であった母、マティアス・ディストレアを、王妃として認めないという貴族達の仕業だった。
サティアはまだ幼過ぎて、そんな貴族達の思惑も、マティアスの事情も知り得なかったのだ。
誘拐されたサティアは、貴族から依頼を受けた男達の元で囚われてしまった。
だが男達は、後々、面倒な事に巻き込まれたくはないと、約束の日まで預かるだけだったサティアを、売り飛ばす事に決めたらしい。
「たく、貴族様ってのは、わかんねぇよなぁ。俺らよりひでぇ事を、平気でやるんだからなぁ。なぁ、嬢ちゃん。ママんとこに帰りてぇよな?」
男の一人に、荷造りをしながらそう言われたサティアは、キョトンと目を見開く。
理由は簡単だ。
「ティアがどこにいても、かぁさまは、むかえにくるっていったもん。かぁさまは、つよい〝ぼうけんしゃ〟だったから、かえれるよ?」
そんな舌足らずな幼いサティアの言葉に、それを聞いていた男達は改めてサティアを観察する。
薄暗い部屋の中、小さな檻に入れられたサティアの髪の色は、よく見れば赤い。その事が、男達に嫌な予感を抱かせた。
その時、外から激しく何かがぶつかるような音が響いて来た。
そして、なにがあったのかを報告に駆けて来た見張りの男は、勢い良く飛んできた何かに弾き飛ばされるように消えた。
「かぁさま」
サティアの可愛らしい声が場違いに響く。
サティアの視線の先には、長い赤い髪を一つに束ねた、冒険者姿の美女がいた。
マティアスが、攫われたサティアを迎えに来たのだ。
「怖かったでしょ?そのまま、動いてはだめよ?」
「はぁい」
そんな母子の会話を、男達は怯えながら、身動きも出来ずに聞いていた。男達には、かつてマティアスがどんな冒険者だったのか分かっていたのだ。そして、そんな彼らに、マティアスがガラリと声音を変えて言った。
「その子、あたしの大事な娘なんだけど……死ぬ覚悟は出来てんだろうね?」
この時、震え上がる男達とは別に、マティアスが来た事で安心したティアは、意識を手放してしまうのだった。
束の間、サティアが眠っているうちに、マティアスが全ての男達を倒したらしく、気絶して無造作に転がる彼らを身軽に避けながら、マティアスはサティアを抱いて歩いていた。
「あら、ティア。目が覚めてしまったの?大丈夫よ?母様が、悪い奴らを全部倒したからね」
それならば安心だと、マティアスにキツく抱き付いた所で、サティアは現状に気付く。
一瞬、驚きに目を見開くが、誘拐された恐怖心よりも、マティアスの圧倒的なまでの力を感じた事で、サティアはこう言った。
「ティアもつよくなりたい」
この言葉が、サティアの今後の人生を大きく変える事になるとは知る由もない。
「そう……では、強くなりなさい。〝赤髪のディストレア〟を名乗れるくらい強く。私の娘ですもの。〝最強〟には届かなくても、〝強者〟でなくてはね」
この時、最強の冒険者〝赤髪のディストレア〟の後継者が胎動を始めたのだった。
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