日本はリオデジャネイロ五輪で過去最多のメダルを獲得し、二〇二〇年の東京大会につなげた。スポーツの力を四年後に向けて一層強めていきたい。
スポーツは心の状態が結果を大きく左右する。リオ五輪はチームや仲間を引っ張る多種多様なリーダーの存在が目立った大会でもあった。
◆最強のリーダー
男子団体総合で金の体操は、個人総合を連覇した内村航平選手が際立っていた。白井健三選手が「自分の練習をしているようで、ほかの選手もしっかり見ている。キャプテンというのはそういうものなのかと初めて知った」と話すように実力とキャプテンシーを持ち合わせた最強のリーダーだった。
二大会連続でメダルを獲得した卓球の女子団体では、四大会連続出場の福原愛選手が“泣き虫愛ちゃん”の愛称そのままに感情を表に出し、その必死な姿が石川佳純、伊藤美誠両選手の心を動かして「先輩を手ぶらで日本に帰すわけにはいかない」(伊藤選手)と、三姉妹といわれるほどの結束を生んだ。
同じ卓球の男子はエースの水谷隼選手が、かつて自己中心的といわれたという。それが結婚や男子代表の倉嶋洋介監督との出会いから、他者に敬意をはらう人間力がプレーの向上に大切であることに気づき、チームメートとの距離が縮まって男子史上初のメダルをもたらした。
タイプこそ違えど、三人はいずれもリーダーとしてチームを引っ張り結果に結び付けた。
個人競技ではあるが女子レスリングの吉田沙保里選手が四連覇を逃して「ごめんなさい」と泣いた時は、ほとんどの人が「謝る必要はない」と感じ、むしろ競技を支えてきた功績をたたえたと思う。誠意を尽くした頑張りは、みんなが認める。同じように頑張っている人たちには、何よりもの勇気につながったのではないか。
◆成果上げた強化策
大舞台での経験を経て成長していくこれらのリーダー像は、今後の日本にとってスポーツに限らず大きな財産となるはずだ。
五輪は東京にバトンが渡される。日本は今大会で過去最多のメダル数となり、これまで取り組んできた強化策が一定の成果を上げたといえる。
陸上は男子400メートルリレーで銀を獲得し、メダルと縁遠いとされてきた短距離で快挙を成し遂げた。銅の男子50キロ競歩も同じだ。バドミントンでは女子がダブルスで金、シングルスで銅を手にし、カヌーは初のメダルだった。柔道とシンクロナイズドスイミングは強力な指導者の下で復活し、同じくお家芸とされる競泳とレスリングも安定した力を示した。
日本は二〇〇〇年以降、選手を医・科学の側面からサポートする国立スポーツ科学センターや、各種トレーニング施設と宿泊所が完備されたナショナルトレーニングセンター(いずれも東京都北区)を設置した。競技団体は強化合宿を定期的に実施できるようになり、練習場所の確保などに四苦八苦することがなくなった。
〇八年にはメダル獲得の可能性が高い競技を重点的に支援する制度も立ち上がり、用具・用品やトレーニング機器の開発、映像による分析などが選手らと一体となって行えるようになった。また、前回のロンドン五輪から選手村の近くに「マルチサポートハウス」を設置し、施設内のジムやプール、体育館を選手が自由に利用できるようにしている。
これらの選手支援は米国などが以前から取り入れていたが、日本もようやく追い付き、実をつけてきた。
リオ五輪は治安やジカ熱への不安、ロシアの国ぐるみのドーピングなど、さまざまな問題が開幕前から持ち上がった。その中で自らの限界に挑み、見る人に感動を与え続けた選手とスタッフには心から称賛の声を送りたい。
今後の選手たちは、東京大会に向けて大きな責任も負う。
卓球、バドミントン、レスリングなどマイナースポーツといわれる競技は、五輪を終えるとほとんど注目されなくなる。メダルや選手のキャラクターに興味が集中し、競技自体の魅力がなかなか伝わらないからだ。
◆スポーツの力を
さまざまな競技に触れる機会を選手が率先してつくり普及させることはスポーツ人口を増やし、東京五輪で使用される施設を二〇二〇年以降も有効活用できることにつながる。これらの活動をバックアップする態勢を周囲が確立していくことも必要だ。
リオで示したスポーツの力を一層強めて東京に引き継いでいくためにも、選手たちにはもうひと踏ん張りしてもらいたい。
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