「重厚感があって良かったのに」「頼むからやめて」。富士重工業が2017年に「SUBARU(スバル)」に社名を変更すると発表した5月12日、インターネットには同社の車を持つ人らの悲鳴があふれた。
吉永泰之社長(62)は「発表後にネットをチェックしたら8割方が『反対』でがっかりした」と言う。
社内はどうか。富士重が社員に聞いたアンケートでは「賛成」が6割、「どちらとも言えない」と「反対」が合わせて4割だった。賛成の理由は「世界で通用する」「航空機事業でも浸透している」など。
賛成としなかった人も「寂しいが、ビジネスとしては正しい判断だ」といった声が多かった。調査を担当した広報部主査の増田茂純氏は「会社の判断に反対というわけではなく、心情的に抵抗感があるのでは」と分析する。
富士重の前身は1917年に創業した航空機メーカー、中島飛行機だ。戦後に解体されたが、解体されたうちの5社が出資して53年に富士重を設立した。55年に富士重が5社を吸収合併し、6つの会社が1つになったことから、星が6つ見える「プレアデス星団」の和名をブランドとした。
ネットには変更を否定的に受け止めた人たちが書き込みがち。支持する「スバリスト」もいる。昨秋に他社からスバル車に乗り換えた大阪市の男性(39)は「航空機事業をやっていることも知っているけど、スバルの方がなじみ深い」と話す。
6月28日の株主総会に出席し、40年来の株主という横浜市の女性(73)は「良い車を作っているのにトヨタ自動車などに及ばず悔しかった。変更は大賛成だ」。かつて「フジシゲ工業さんですか?」と聞かれ、「スバルです」と答える社員もいたというだけに、車のブランドに社名を合わせることで他の大手メーカーと肩を並べる感覚を持ったようだ。
看板の掛け替えなど変更に伴う費用は2億円程度の見込み。販売店をはじめ「富士重」の表記はもともと少なく、社宅や陸上部などもスバルで通しているため実務への影響は少ない。
(企業報道部 秦野貫)
[日経産業新聞8月22日付]