日本の上場企業はすでに国有企業?懸念されるガバナンス問題
公的年金による積極的な株式投資の結果、多くの企業で政府が事実上の大株主になっている。年金の運用方針が変わらない限り、この傾向は長期間継続することになり、将来的にはガバナンス上の問題が浮上する可能性がある。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2016年7月、2015年3月末時点において保有する全銘柄と株数を公表した。これまでGPIFは銘柄を公表しておらず、具体的にどの企業の株を買っているのかまでは分からなかった。
公的年金はTOPIXなどをベンチマークにして運用しており、時価総額の大きさに準じて主要企業の株式を購入している可能性が高いとされていた。実際にフタを開けてみると、やはり時価総額に準じる形で広範囲に株式を取得していた。
GPIFがもっとも多くの金額を投資していたのは予想通りトヨタ自動車だったが、トヨタについては1億8200万株を取得している。2015年3月末時点におけるトヨタの発行済株式数は約34億1800万株なので、政府はGPIFを通じてトヨタの株を5.3%所有していることになる。
トヨタの筆頭株主は日本トラスティ・サービス信託銀行で持ち株比率は10.28%、第2位は豊田自動織機で持ち株比率は6.57%、第3位は日本マスタートラスト信託銀行で持ち株比率は4.7%となっている。
単純な持ち株比率ではGPIFは第3位となるが、筆頭の日本トラスティ・サービス信託銀行はGPIFの株式資産を管理している会社である。同社の持ち分10.28%にはGPIFの持ち分5.3%が含まれている可能性があり、これを考慮すると、場合によってはGPIFが第2位の大株主となっているかもしれない。
驚きなのが、トヨタに次いで投資金額が大きかったメガバンク2行である。三菱UFJフィナンシャル・グループは持ち株比率が7.7%、三井住友フィナンシャルグループは7.8%となっており、両行ともGPIFが筆頭株主となっている可能性が高い。
こうした状況を総合すると、日本政府はGPIFを通じて、事実上、日本の主要企業を国有化していることになる。政府が企業を所有してしまうことは、ガバナンス上、大きな問題を引き起こす可能性がある。
GPIFは基本的に独自運用であり、政府からの介入は受けないことが建前になっているが、現実にはそうはならない。株価が暴落したり、企業の業績が大きく落ち込むようなことになった場合、あるいは政府の施策と企業の戦略が大きく乖離するような状況になった際には、カバナンス上の問題が必ず発生する。
一方、政府がモノ言わぬ株主として一切経営に関与しない場合はそれはそれで問題である。経営に介入しないことが分かっている大株主に支配された企業は確実に株主からの監視が効かなくなる。放漫経営に走ったり、経営者が私的な利益を追求する可能性は否定できないだろう。
GPIFの方針転換はあまり深く議論されることなく拙速に進められてきた。だが、政府が事実上の所有者となっているという現実は、今後、何十年にもわたって株式市場に影響を与え続ける。何が問題が発生してからパニック的な大騒ぎにならないことを祈るばかりだ。
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