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【私説・論説室から】

本の文化を耕す「選書」

 きれいな冊子が届いた。送ってくれたのは「かりんさん」。東京に住む大学院生の是恒香琳(これつねかりん)さん(25)のペンネームだ。「飛ぶ教室」という、ドイツの児童文学作品から名をとった読書会で知り合った。彼女の描くイラストやコラムには独特なユーモアと風刺がある。

 そんなかりんさんは、先日解散した「SEALDs(シールズ)」の一員でもあった。無残な戦争の後に手にした自由と民主主義を担い手の一人として耕したいと、国会前でマイクも握ったが、彼女は「選書」という試みで活動を支えた。「年齢や職業、立場が違えば、抱えている困難や問題意識も違う。でも本を通してなら分かちあえるかもしれない」。冊子は、政治、憲法、生活、戦争、記憶、社会、未来、思想、子ども、文化−の十の分野で「共有したい」と思う百二冊を紹介する。

 かりんさんが担当した中に、「そして、トンキーもしんだ」がある。戦時中に上野動物園にいたゾウが餓死させられた実話に基づく絵本だ。書評は記す。「戦争は、子どもだからといって、動物だからといって、避けては通らない。戦場に行く兵士だけでなく、あらゆるものに見えない軍服を着せてしまう」

 シールズが解散しても民主主義を育む「文化」という名の畑づくりを止めない。それが二度と戦争にのみ込まれない歯止めになる。「選書は本の文化を耕す。そこに私は根を張る」。彼女の心意気が伝わる。 (佐藤直子)

 

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