田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 いろいろ世間を騒がせ、日本の左翼やリベラルに妙な期待と幻想を植え付けたSEALDsが8月15日に解散した。SEALDsの一年ほどの活動のピークは、昨年の安保法制をめぐる国会論戦の最中であった。政治に参加する若い世代の新しい力としてマスコミなどに注目されるようになり、実際に左翼やリベラル的勢力の支持は、ネットや国会前のデモを中心に熱くなる一方だった。

 筆者の見聞する範囲でも、SEALDsに批判的な発言をした論者が、とある有名ライブ会場に、その発言ゆえに出演することが難しくなったことも聞いた。それだけ熱狂的なファンがいたことは間違いない。ただしネットの一部や国会前のデモが、どれほど国民の支持を集めていたかというと、ほとんど実体を伴っていたようには思えない。

 例えば、安保法制反対や安倍政権批判を全面に出した先の参院選では、SEALDsと同じ「若い世代」と目されている人たちの投票結果はどうだったろうか? 共同通信社の出口調査では、20代、30代の半数近くは自民党に投票したし(43・2%、40・9%)、10代もそれと同程度の40・0%だった。この数字は全世代の平均よりも高かった。その一方で、SEALDsと事実上の共闘関係にあった共産党や社民党などは10代では他の世代よりも低い支持率だったし、また民進党も同様だった。
解散を表明し、会見するSEALDsの奥田愛基(左)氏ら=8月16日、衆院第二議員会館(斎藤良雄撮影)
解散を表明し、会見するSEALDsの奥田愛基(左)氏ら=8月16日、衆院第二議員会館(斎藤良雄撮影)
 簡単にいうとSEALDsは若者の代表でもなんでもなかったのである。では、なぜ同じ世代の人たちの多くが自民党を支持したのだろうか。それは安倍政権以前まで、特に麻生政権後期から民主党政権でピークを迎えた経済の大停滞の苦しい経験をリアルに知っているからではないだろうか? 

民主党政権下の2011年に大学の就職率は最低水準(91・0%)にまで落ち込んだ。この数字の背景には、就職先がなく途中で求職自体を断念した膨大な人数を無視している。筆者は当時、大学の就職指導の担当だったが、職務先や近隣の大学も総じて就職はまさに「大氷河期」の様相だった。また高卒・専門学校も就職地獄であった。筆者は当時、就職指導による過労のあまり倒れてしまった。

 この状況は安倍政権の経済政策が発動するまで基本的に変わらなかった。ちなみに最新の統計(2016年春)では、大卒の就職率は統計を取って以来最高の水準である。また高卒の就職率も24年ぶりの高水準であった。要するに若い世代の多くは、SEALDs以上に実際の経済や社会の動向に敏感だったのだ。

 では、SEALDsは何を代表していたのだろうか? 政治的な行動(国会前での長時間のデモなど)に時間を割くことができる、経済学的にいえば時間当たりの機会費用が低いひとたち。要するに暇人の代表であった。

 筆者は暇が大好きである。暇がなければ社会も文化も成立しない。だが、どうやらSEALDsのメンバーはあまりその暇を有効には活用していなかったかもしれない。少なくとも前記のような経済の動向を同世代の若者たちより学ぶ機会に利用しなかった。確かに先鋭的な政治スタイルへの評価はある。しかし少なくとも経済を見る視点は同世代に比べて鈍感だったし、また正しくもなかった。