2016/08/08 公開
『シン・ゴジラ』における謎の一つは、「牧悟郎教授は何をしたのか?」ということです。
本稿では牧・元教授が何を行い、何を好きにしたのか?考えています。
参考にしてみてください。
※本作をすでに鑑賞された方向けの内容です
※GODZILLAを、本作登場前の第一形態のゴジラ、「シン・ゴジラ」をゴジラ第二~第四形態(あるいはそれ以降)についての呼称とします。
※以下、常体表記とします
Contents
本作から明らかになったゴジラに関する事実
教授の真意を考える前提となる、確認された本作における事実について記してゆきたい。
GODZILLAについての事実
・GODZILLAは核分裂をする機能(放射能)を有するというのは基本前提
・GODZILLAは海底に存在し、放射性廃棄物を食べていた
・GODZILLAはを米国エネルギー省(DOE)が研究していた
・GODZILLAは素人目(志村官房副長官秘書)の視点から見ても、放射性廃棄物の残存量には限界がある
・GODZILLAは無性生殖で個体増加を行う*
*元素を生成する生体細胞の機能によるものであれば、シン・ゴジラ特有の機能とも考えられる
シン・ゴジラについての事実
・シン・ゴジラは自由に進化・退化が可能
・シン・ゴジラは陸上進出したが、積極的な破壊をしていない。どちらかといえば、「自己防衛」「エネルギー放出」を目的としたものに近い
・シン・ゴジラは放射性物質も半減期が短いため、物理的被害以外の被害は少ない
・シン・ゴジラ第四形態の覚醒状態における発生レーザーの威力は人智をこえる異常な出力である(つまり、凄すぎる)
・シン・ゴジラはの放射性物質の半減期は20日程度となっている。
・シン・ゴジラ凍結後に人類らしき骨が背骨から現れていた(最後のシーン)
牧悟郎・元教授に関する事実
・牧はDOEから調査依頼をうけ、GODZILLAを調査していた。
・牧は何らかの理由で日本からは追放されていた
・牧は妻を死に追いやった放射能を恨んでいたとともに、それを無力化する方法を研究していた
本作では明らかになっていないが、可能性として考えられる裏設定
・現実の日本と「シン・ゴジラ」世界はパラレル・ワールドである(空想生物として”ゴジラ”に準ずる生物を想像したことがない世界)
・妻が「シン・ゴジラ」世界における日本の放射能汚染の被害者になった可能性。
(その理由)
・牧・元教授「妻を見殺しにした日本を憎んでいた」
→原爆なら恨む対象が日本というのは若干論理的ではない(ただ雑誌社が右か左かによる表現の違いの可能性はある)
・尾頭「(ゴジラの放射性物質の半減期が短いことについて)東京の女性に光明が差しました*」
→そのまま読み解くことも可能であるが、あえて”女性に光明”としたところはやや不自然。
裏を返せばどこかの女性が被害を受けた歴史があるか?
上記前提・設定をもとに、仮説を展開したい。
*本来、放射性物質の半減期と人体への影響については、必ずしも相関性がない(場合によっては半減期が短い方が危険であるともみられる)が、ここは本作の定義(新元素の放射性崩壊は害が少ない)に沿って考察を行う。
またコメント欄で、「東京の女性に光明が」ではなく「東京の除染に光明が」ではないか、という指摘を受けた。その可能性のほうがどう考えても高いので、二つ目についてはほぼ論拠とならず薄字とした。以下薄字のところは同様の理由からである。
教授はGODZILLAに何をしたか?
GODZILLA状態では人間が投棄した放射性廃棄物が不足することから、生存時間は有限である。
そこで教授は、GODZILLAに「何か」を加えることで「シン・ゴジラ」へと進化させた
この「何か」、それを教授がGODZILLAに与えた、と考えるのが自然であろう。
「何か」のヒントは教授が遺した暗号にあり
巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)のチームの仮説は
「生体細胞が水素や窒素を原料とし、必要な元素を生成、ゴジラはその崩壊熱をエネルギー源としている混合栄養生物」
とのことだった。(ただし暗号の解析結果はその生体細胞の抑制物質であると、作中の話の流れが若干複雑である)
いずれにせよ教授が発見したのは、放射性物質を無害化する技術ではなく、好きな元素を生成できる生体細胞であった可能性が示唆されている。
これはDOEの研究の延長により、地球上にその生体細胞を見つけたと推測できる。
DOEを欺いた理由
DOE側(米側)は当初、博士の暗号を「新元素の構造レイヤーが意図的に歯抜けになっているため、暗号はそれに関するものではないか」と考えていたが、結果は「あらゆる元素を生み出す生体細胞を抑制する分子構造図」という、奇想天外なものであった。
なぜ教授がDOEをこのように撹乱したか――? まあ理由は簡単で、その生体細胞が「とんでもなくヤバイもの」であるからだろう。主人公矢口が「脅威であるとともに福音」と表現した、まさにその通り。
水と空気からあらゆるモノをつくりだせる生物の方が新元素よりもはるかに実用性に富んでおり、アメリカの手に渡れば軍事転用は当然、国力の差ともなりかねない。
そのためあらゆる方法で暗号化し、正体をくらませたと思われる。
教授は空気と水で無限増殖する生体細胞をとゴジラに投与したのではないか
上記をまとめると、
GODZILLA(新元素・放射能)
+生体細胞(空気から必要な元素作れる)
=シン・ゴジラ(混合栄養生物)
と考えられる。教授はその生体細胞を、なんらかの方法で投与した(おそらくは自身を捕食させる形)と考えられる。
教授の目的は?
教授の目的は「放射性物質の無害化」にあった、ということは、ライターのハヤフネの取材内容で明らかとなっている。
しかし今作の内容から推測するには、教授は実際のところ、放射性物質の無害化技術を発見したという根幹につながる資料を残していない。
教授の本旨が放射性物質の無害化であるならば、なぜ実用化に向けて動かなかったのか?
いや、
「シン・ゴジラこそがその目的をかなえる唯一の手段であった」
のかもしれない。
シン・ゴジラが教授のどういった夢を叶えてくれるか。以下の説を考えたい。
人類の進化を宿願したか
牧教授は新人類をつくることを目指した、という可能性はないだろうか。
この説のベースとして考えたいのが、「無性生殖での個体増加」。
仮に裏設定である(女性)被ばくの歴史が存在するとすれば、生殖への懸念を取り払うこと、ましてや放射線で傷ついた細胞を修復できる、超進化した人間をつくることで、被ばくと関係のない世界を作ろうとしたという可能性はないか?
あるいは裏設定がなかったとしても、単に人類の進化という妄執に囚われた人間の行動、と考えることも不可能ではない。
ゴジラと一体化した牧
上記のような見出しをつけると一気に庵野的世界観を感じるが、少なくとも”必要な元素を生成”できる生体細胞は、その他のエネルギーを取捨選択する能力を有していた、とも考えられる。
と書くと超科学的になるが、今回のシン・ゴジラについて、前提を再考してほしい。
シン・ゴジラは積極的攻撃を人類に繰り広げたわけではないのである。
第三形態時においても、第四形態時においても、特に兵器による攻撃に対しての防衛のみにゴジラは積極的に活動をしていたように感じられる。
牧の脳を選択的に採り入れられたかは不明だが、ゴジラが陸上進出した目的が、人類破壊にあるのであれば、”怪獣モノ”然として積極的な破壊行動があってしかるべきである。
それともう一つ重要なシーン。
矢口が「彼(教授)は最期に何を好きにしたんだろう」
という言葉に対して、シーンが切り替わり静止したゴジラに尻尾部を映し出す。
非常に甲高い音とともに、尾てい骨が動く演出がとられる。
そして、血流が流れる音……かとおもいきや巨災対の森が茶を啜る音であったというシーンのつなぎ方も印象てきであるが、
これは矢口の教授への問いかけへの呼応とも考えられ、すなわち「牧はゴジラの中に存在する」という可能性を示唆したものではかろうか。
「抑制物質」その恐るべき予言
ところで、本作に存在する不思議のなかで、この「抑制物質」の存在は妙に際立っている。
なぜ牧はこの暗号を遺したのか。
ここでGODZILLAの生態である「自由な進化・退化」に着目したい。
シン・ゴジラ第三形態になった後、排熱機能が不十分であったことから、第二形態に退化した実例から、進化・退化が比較的容易に行える生物となっている。
しかしゴジラは、その細胞の性質からいえば、肥大化の一途を辿ってしまうことが予測されている。
つまり牧はゴジラと一つになったはいいが、その知的生命体はただただ肥大化してゆく、あくまでただの一個体。
人類全てを飲み込み一つになったとすれば、これはまさに庵野総監督の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』でいうところの「人類補完計画」であるが、しかしながら、牧の興味はあくまで「放射性物質の無害化」であり、それに応じた人類の進化である。
進退化がフレキシブルであるGODZILLAの性質に牧は、「人類進化の可能性」も見出したのかもしれない。
結論、牧は「シン・ゴジラ」の第五形態を作ることを「好きにした」
シン・ゴジラの最終変態は人間の形をとる可能性が終幕時には示唆されていた。
炉心冷却システムに対する欠陥を強制的に認識させれば、小型化を余儀なくされる。
しかし退化は難しい。というのは第三形態から第四形態まで細胞増加率は明らかに倍以上であり、この状態で退化を選択することは、却って生体機能の保持上難しいからだ。
退化的な進化、つまり個体の分裂が考えられる。
上記可能性に基づけば、ゴジラに対し血液凝固剤と抑制物質を強制的に投与すれば、炉心が冷却され、個体の増殖に関する危機的状況が発生する。
その環境に耐えるための進化が「第五形態」。牧はこの製造を目論んだとのではないだろうか。
好きにしろ それは科学者に向けられたメッセージ
抑制剤を暗号化したのは、そのデータが国際的に共有されることを狙ったものであると考えられる。
かりにDOEがその正体を(細胞生物の抑制物質である)認識していたら、共有されず、ただ日本は熱核兵器の被害に遭うだけであった。
結果としてデータは世界中のスパコンを通じ国際的に共有されることになり、「共有知」となりえたのだ。
さて、「君らも好きにしろ」この問いかけについても考えたい。
このメッセージが向けられたのは人類
というのが一般的な見方だ。その理由としては、終幕直前のカヨコ・アン・パタースンと矢口が「この国で好きを通す」ということについて話していたことが大きい。
ただ、この点についてはもっと単純に考えてみたい。
この暗号のようなメッセージを読み解く最後の砦は、現場の科学者になってくる。
ましてや、何か意味があるのではないか、として巨災対の机上に提示された資料である以上、「核の勝利か科学の勝利か」「日本で好きを通すか否か」という、表層のメッセージだとすればあまりに幼稚・小学生じみている。
本当は、科学者に向けたメッセージ
「人類の進化を拒むか受け入れるか、好きにしろ」
ということだったのではないか。
そして巨災対のメンバーらは、進化を受け入れた、ということになる。
『春と修羅』の意味
プレジャーボート「GLORY MARU」に遺されていたのは揃えられた靴と折り紙、「好きにしろ」書き置きと宮沢賢治『春と修羅』。
この『春と修羅』に潜むメッセージはなにかというところ、気はなるところ。
表題詩である「春と修羅(mental sketch modified)」は、やや簡略化して解釈すると、春の雷も作者(宮沢賢治)で、それに立ち向かう農夫も作者(宮沢賢治)であるという対峙構造を成しており、大きなものへのあこがれとそれに至れないジレンマが描出された作品である。
これを本作に落としこむと、
- 雷=シン・ゴジラである牧悟郎
- 農夫=人間である牧悟郎
となる。
自己対峙の世界が繰り広げられ、結果牧はシン・ゴジラと一体化するとともに、新たな人類の一個体にもなった、リアル『春と修羅』たえりえたのである。
……といった読み解きは可能かもしれないが、どうもこれはあくまで牧(あるいは制作陣)が撹乱要因として備えたのではないか、と言うふうにも個人的には考える。牧(あるいは制作陣)の性格上、全てに明確なメッセージを刻み込んでいるとは限らないからだ。
(あるいは、牧悟郎・宮沢賢治・春と修羅である可能性が微レ存……!?)
結びに
いかがでしたでしょうか。
以上前提から牧悟郎の行動について仮定してみたところです。
中には強引な理屈付けをされているところもありますが、牧はゴジラを最終形態まで進化させる目論見をもって人類に挑戦状をたたきつけた、というのはなかなか興味深いのではないでしょうか。
こういった内容を考えると、『シン・ゴジラ』は作品として、過不足のない結末であり、次回作はもうないような気がしますがどうでしょう。
2016年映画ランキング(暫定)
K.が2016年に劇場で観た映画のランキングです。1週間に1回は観ていますが、同じ作品を2回観ることもあるのでそこまで多くはありません。
観終わった作品でも結構順位はシャッフルしています。感想はリンク先から。
1位:『シン・ゴジラ』→感想(あらすじ)・考察
2位:『64-ロクヨン』→感想
3位:『あやしい彼女』
4位:『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』
5位:『ブリッジ・オブ・スパイ』
6位:『オデッセイ』
7位:『ファインディング・ドリー』
8位:『ズートピア』(→foxの感想)
9位:『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』
10位:『殿、利息でござる!』
11位:『エヴェレスト-神々の山嶺』
12位:『女が眠るとき』
13位:『パディントン』
14位:『ザ・ウォーク』
15位:『アイアムアヒーロー』
16位:『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
17位:『ブラック・スキャンダル』
18位:『テラフォーマーズ』
19位:『世界から猫が消えたなら』
20位:『Sherlock/忌まわしき花嫁』
21位:『秘密 THE TOP SECRET』
コメント
>東京の女性に光明が差しました
「女性」ではなく「除染」では?
by 匿名 2016年8月8日 23:12
>>匿名様
なるほど……これは大変な勘違いをしてましたね……改稿やむなしです
by life-hacker 2016年8月8日 23:57
今回の巨大不明生物が人為的に作りだされた、という仮説にはどうしても違和感があり、おもわず自分でも考察記事を書いてしまいました(反論の体ですが、そういう趣旨ではなく、議論を深める材料として捉えてもらえれば、と)。
by ma-kun 2016年8月17日 16:57
ありがとうございます!
またそちらの方にもお邪魔させていただきます!
by life-hacker 2016年8月17日 19:50
本編で、「(ゴジラは)放射性廃棄物を食べていなかった」という発言があったと思います。
by 匿名 2016年8月18日 14:26
志村「しかし、これだけの図体、昔の放射性廃棄物だけじゃ、腹持ちしなさそうですよね」
森「そうだな、かみ合わせの悪そうな歯並びだ、これじゃ核物質も捕食できんぞ」
間「折り紙……食べてないんだ」
という流れでしたかね。ただその一連のセリフは放射性廃棄物が食い散らかされた映像を見た時のものとなっていたはずなので、
「ゴジラは放射性廃棄物を過去に食べていたが、進化して食べなくなった」
と考えることもできます。
僕は、教授が進化をそそのかす前は、放射性廃棄物は捕食していたと考えているのですが、
とっくの昔から進化していた、という、先にコメントを頂いたma-kun様のご見解もありますので、
そちらも参考になるかと思います。
by life-hacker 2016年8月18日 15:26