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エストニア共和国より愛をこめて Season 2

寒い国から帰ってこない人のブログ。

貧困者が貧困者をたたく悲劇 ~日本人とスパイト行動

国内 教育 社会

「日本で貧困家庭に生まれる」という罰

やっぱり日本ってめちゃめちゃ恐ろしい国じゃないですか。今回の騒動の件を知ってあらためて震えあがりました。NHKニュースの「子どもの貧困 学生たちみずからが現状訴える」というレポートで、「貧困のために進学が困難という高校生が、子どもの貧困を考えるイベントで当事者としてスピーチを行いました」と報道したところ、その高校生に対してインターネット上で凄まじい攻撃が始まった――匿名の大人たちによって個人情報が暴かれ、誹謗中傷され、さらには国会議員までがそれを煽っていると。

ほんとうに恐ろしい。日本で「貧困家庭に生まれる」というのはそれほどの「罰」なのですね。私もNHKニュースの動画を見ましたが、この高校生は「子どもの貧困の現実を変えるために、このことを知ってほしい」と、自分だけではなく同じ悩みを持つ同世代たちのためにも立ち上がったわけですよね。これ、日本社会では破壊的なバッシングを生むパターンなのでしょう、「貧困者の分際で社会にものを申している!!!」と。

輪をかけて気分が悪くなるのが、「この高校生が外食をしていた」だとか「画材を買っていた」とか、その程度のことを「贅沢だ!」とあげつらって攻撃していること。これは現実として直視しないといけないと思うのではっきり書きますが、攻撃している側の多くも「経済的に苦しい人たち」だと思われるわけです。ちょっとした外食や画材が「贅沢品」に見えているわけですから。もう想像するだけで苦しくなる、あまりに悲惨な現実です。しかもニュース動画では『彼女はデザイン系の仕事に就くのが夢』とのことだから、画材は勉強道具なわけですよね? 貧困から抜け出すためには仕事に就くことが必要で、職業によっては技能を磨くために投資が必要な場合もあるのは当然ですよね。しかしそれすら許さないと。お前だけが貧困から抜け出すのは許さない、その足を引っ張ってやるぞ、と。

日本人は「いじわる」がお好き?!

今回の惨劇を目にして、日頃から格差や貧困の問題などに関心があるインターネットユーザーのみなさんのなかには、この研究について頭をよぎった方も多いんじゃないですか。

<※PDF注意>

日本人は「いじわる」がお好き?!(「日本人はいじわるがお好き?!」プロジェクト 西條辰義)

(西條辰義――経済学者。高知工科大学マネジメント学部教授。上記論文の発表時点では大阪大学社会経済研究所教授)

で、その内容をかいつまんでまとめるとですね、

  • みんなで公共財を使用しますよ、という場面で、日本人は「たとえ自分が損をしてでも、ほかの人が得をすることを許さない」という行動をとる。しかしこの傾向は北米では見られない。

みたいな感じになるんでしょうか。このような傾向の行動を「スパイト(いじわる)行動」と呼んでいるらしいです。

(※すみませんこんなエントリを書いているものの行動経済学ゲーム理論についての知識は特にないので間違っていたらご指摘ください)

「日本人は自分が損をしてでも他人が得をするのは許さない」って、もう感覚的にもいかにも真実っぽく思えてしまって、まさに日本人特有の行動原理ではないか、「貧困者が貧困者をたたく」をばっちり説明できてしまうではないか、くらいに飛躍させちゃう方もいそうですが、なにぶんわたしはこの研究について検証を行えるような知識はまったくございませんので、紹介するだけにとどめておきます。なんかあまりむやみに飛びついてはいけない感を感じるので。

貧困のスパイラルを断ち切るために何が必要か

いまだに壮絶な攻撃の矛先が向けられているくだんの高校生の子ですが、少しでも良心が残っている方はもういちど彼女が何をスピーチしたかに注目してくれませんかね。

「あなたの当たり前は、当たり前じゃない人がいる」

「子どもの貧困の現実を変えるために、まずこのことを知ってほしい」

「お金という現実を目の前にしても、諦めさせないでほしい」

「その人の努力に見合ったものが与えられて手にできる、そういう世界であってほしいと思っています」

もう一ミリの意義も差し挟めないレベルの正論ではないですか。ここまで立派で堂々としたスピーチした高校生を愚かな匿名のインターネットユーザーたちが壮絶な総攻撃を仕掛けているのが日本なわけです。貧困の連鎖を切断するためには「教育を受ける機会の平等」って最も大事なもののひとつでしょ。これに異論がある人なんているのかな。

しかし相変わらず日本の教育への公的支出はOECDのビリっけつなんですぜ。

教育への公的支出、日本また最下位 12年OECD調査 :日本経済新聞

「 教育分野の公的支出総額(GDP 比)」を、まだまだ裕福な国ではないもののITと教育水準の高さで勝負をかける電子立国エストニア、ご存じ高福祉で大学院まで学費無償の隣国フィンランド、そして子どもの貧困の解決を訴える高校生を匿名で総攻撃しているどこかの情けない国で比較してみると、こうだ。

 

 

いやー、日本もここまで(いろんな意味で)貧しい国になっちゃったのかな、という感じですね。もう怖くて帰れませんわ。

 

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ソビエト連邦からの独立25周年の祝日を楽しむエストニアの人々(2016年8月20日)