話題の『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』のタイトルが多くの人に衝撃を与え興味をひいたように、「性」に関することは、やはり関心分野として強いのだと思う。同じ性別同士でも他人と同じかどうかは確かめづらいし、異性となればもっと謎だらけという部分も、その関心の理由のひとつではないかと思う。
昨今話題として上がる頻度が高まっているLGBTに関しては、より「知らない・分からない」ことが多い。そんな「謎」のひとつである性別適合手術の一部始終をエッセイとしてコミック化したものが平沢ゆうなさんの『僕が私になるために』だ。
ニュースなどのLGBTに関する情報からすると、著者の平沢さんが何かしらに悩んだであろうことは想像に難くないけれど、そこで身構える必要はない。可愛くて愛らしい絵とテンポの良いストーリーと絶妙なコメディ具合で、重くなりすぎないように丁寧に作られている作品だ。
著者が手術に向かったタイはかなりの数の手術が行われているらしく、著者も驚くほどスムーズにスタッフや看護師のアテンドがある。みんな慣れていてノリノリで、読んでいるこっちも著者と一緒に体験したかのように衝撃を受けさせられる。こんな風に。
(17ページ)
す、すごい!選べるのか!!
むしろ女性として生まれた女性は選べない(いや、もしかしたらそういう手術もあるのだろうけど)わけで、なんとも想像がつかないけれど、その後の性交渉のことを考えると、一度しかない手術で希望を叶えられるのはいい気がする。でも、とはいえ、希望出したところでそれってどうやってつくるの!? と読者は思う。そんな疑問にも、丁寧に解説で応えてくれる。
(47ページ)
食品で例えての解説、わかりやすいけど、なんか逆に見ちゃいけないような気になる!!(汗)
もちろん、手術のシーンだけではなく、カミングアウトのときの辛さや精神的な悩みにも触れている。フラットで手に取りやすく書いてくださっているけれど、面白おかしくしているわけではない。
(35、36ページ)
物語は、手術後日本に帰ってきた後まで触れられている。戸籍変更で裁判所に行かないといけなくて、「事件番号○○の〜」と言われるのに驚いた。ただの扱い上の言葉なのだろうけど、そういう少しずつのことが、当事者の気持ちをすり減らすのかもしれない。
(113ページ)
きっと、同じように手術を受けた人でも、その悩みや感想は千差万別で、この著者と同じとは限らないと思う。でも、その例のひとつひとつを、こうやってフランクに、フラットに教えてくれることって、とても貴重だと思うのだ。私も同性愛者の友人が「男性を好きな男性にも色々なタイプがある(お化粧や手術等で女性に近づいたりなったりしたいと思うか否かなど)」と解説してくれるまで知らないことだらけだったし、「あの〜……」と聞くのもなんだか失礼にあたる気がしてしまって聞けなかった。
そう、聞けないことだらけなのだ。そのタブー感がある中で、こうして作品として楽しく読ませてくれること、すごくありがたいなあと思う。友達になっても、何が失礼なのかわからないと発言しづらかったり、逆に発言しないと永遠にお互いのことがわからないから。こうして少し糸口があるだけで、たくさんのことを知ることができる。まさに、驚きの連続、知らないことだらけの1冊なのだ。きっかけは、他意なく興味本位でいいと思う。ぜひ手にとってみてください。
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