マイナス金利策 効果ないなら見直しを
日銀が2月にマイナス金利政策を始めてから、半年が過ぎた。住宅ローン金利が一段と低下し、借り手の負担が軽くなるといったプラス面もみられるが、経済全体では期待された景気刺激の効果が表れていない。
企業や個人投資家にリスクを取るよう促し、経済活動を活発化させる狙いが込められた政策だったはずが、現実はむしろ逆の方向に向かっているようだ。6月末の個人の預金残高は過去最高を記録した。
金利の低下は企業の年金や退職金の運用にも影を落としている。マイナス金利の影響で収益が落ちたゆうちょ銀行が、現金自動受払機(ATM)を使った同行顧客間の送金の一部有料化を決めるなど、利用者への負担転嫁が広がる恐れも出てきた。
マイナス金利に効果が乏しく弊害が多いことは、日銀自身の行動からもうかがえる。先月、追加の金融緩和を決めた際、日銀はマイナス金利のマイナス幅を拡大するという手段を選ばなかった。効果が高いと考えるなら、切ってもおかしくないカードだったはずだ。
日銀は9月の金融政策決定会合で、これまでの大規模な金融緩和策について「総括的な検証」を行う。効果が表れるまで「半年も1年もかかるものではない」(黒田東彦総裁)としていたマイナス金利政策だが、その効果が明確に感じられない以上、早期に解除した方が日本経済にとっても、日銀の信用という点からも望ましいのではないか。
マイナス金利政策が効果を発揮しない理由は、多くの企業や世帯が、借り入れを特段必要としていないところにある。企業の設備投資が伸び悩むが、人口減少で国内市場の成長が見込めないなど、金融政策では解決しない課題による面が大きい。
より根源的な問題もある。人々の心理にマイナスの働きかけをすることだ。お金をためたら利子でもうかる。借りたら利払いの負担が生じる。そうした本来当たり前のことが通らないほど経済が大変なことになっている−−。そんな危機信号を図らずも発してしまった。
マイナス金利により最も得をしたように見えるのは国債の利払い負担が一段と軽くなった国家財政だろう。ただ、借りるほどもうけが出るマイナス金利は、借金依存をより強めさせる長期的な弊害が大きい。
見直すべきはマイナス金利政策だけではない。日銀が大量の国債を買って、市場に資金を流し込む異次元の量的緩和はとっくに限界に達している。異次元緩和がもたらす円安効果と、異次元緩和を前提とした財政支出を経済政策の両輪に据えたアベノミクスそのものも、「総括的な検証」を必要としている。