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[FT]米「世界への関与」復活か

2016/8/21 3:30
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 最近まで世界の大部分は米国にもっと普通の国になってほしいと切望してきた。世界はブッシュ前大統領の「世界に自由をもたらす」という外交方針にうんざりし、「米国は特別な国」などという考え方は永遠に葬り去ってほしいと思ってきた。「米国は特別」という考え方を否定するリーダーを求め、確かにそうした候補が登場した。だが、それがトランプ氏だった。

クリントン氏(右)がオバマ氏の後任の米大統領になった場合、外交方針は変わることになりそうだ=ロイター

U.S. President Barack Obama waves with Democratic U.S. presidential candidate Hillary Clinton during a Clinton campaign event in Charlotte, North Carolina, U.S., July 5, 2016.  REUTERS/Brian Snyder/File Photo
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クリントン氏(右)がオバマ氏の後任の米大統領になった場合、外交方針は変わることになりそうだ=ロイター

U.S. President Barack Obama waves with Democratic U.S. presidential candidate Hillary Clinton during a Clinton campaign event in Charlotte, North Carolina, U.S., July 5, 2016. REUTERS/Brian Snyder/File Photo

 トランプ氏は歴史上最も失言が多く、攻撃的な大統領候補かもしれない。だが、米国の使命は普遍的な価値観を守ることだとの考え方を軽蔑する初の候補者でもある。そもそもそんな価値観が存在すると考えているかどうかも定かでない。

 一方、もう一人の大統領候補のクリントン氏は、こうした価値観の積極的推進者だ。「私は心から米国が並外れた国だと思っている」と同氏は6月に述べた。「リンカーンの言葉を借りれば、我々はまだ最後にして最大の地球の希望だ」と。

 現実主義者たちは、米国は自国の国益だけを追求すればいいと考えてきたが、その望みは長年、かなえられることはなかった。確かにトランプ氏は「米国のことを最優先する」と豪語するが、彼らは自分たちが一体何をしたからこんな候補者を抱える羽目になったのかと思っているに違いない。

 トランプ氏は、イラクで先制攻撃をするような外国の紛争に巻き込まれる事態を避けると誓っている。これこそ現実主義者たちが聞きたがってきたことだ。米国の同盟国は防衛費をもっと負担すべきだとか、中国には自国にちなんで名付けられた海(南シナ海)で環礁を占拠する権利があるといったトランプ氏の見解も同様だ。なぜ米国が常に審判を務めなければならないのか、というわけだ。

■トランプ氏言動 現実主義者は葛藤

 ところが、トランプ氏は現実主義者たちを喜ばせるどころか、過激派組織「イスラム国」(IS)に核攻撃すると約束したり、オバマ大統領がISをつくったと主張したりして、常に墓穴を掘っている。現実主義を成功させるカギは、戦術的なずる賢さと、世界に関し深い知識を持つことだ。だが、トランプ氏は正反対のものを体現している。こんな人物が友人だと、その友人の対応で手いっぱいになり、現実主義者は敵をつくっている暇もない。

 そもそも11月の本選挙でトランプ氏はクリントン氏に勝てない可能性がある。トランプ氏は米国人が聞きたがってきた外交政策を掲げているが、それにもかかわらず負けるかもしれない。米国民は長年、軍事的冒険にはうんざりだ、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国はもっと軍事的負担をすべきで、米国の世界的な役割はもっと控えめであるべきだと言ってきた。世界に民主主義国家を築いていくと主張しても、もはや選挙で勝つことにはつながらない。

 トランプ氏が掲げる「米国第一」というスローガンは、1940年代初頭に米国のファシストのシンパが掲げた言葉だったことを考えると、不名誉な前例があったといえるかもしれないが、多くの米国人はこの言葉の現在の意味に満足している。もしトランプ氏が負けたら、それは明らかに大統領らしからぬ気質と、米国のほぼすべてのグループを侮辱する傾向が敗因だ。

 現実主義者にとっては残念なことに、彼らの船はトランプ氏とともに沈むかもしれない。これは「エクセプショナリスト(『米国は特別』号)」という名の艦船が来年1月にクリントン氏の指揮下で再び出航することを意味する。

 この艦船はオバマ時代はどこにいたのか。オバマ氏の外交政策は「米国は特別」というものでもなければ現実主義でもなく、この2つの複合型だった。同氏が大統領に就任した数週間後、筆者は会見で「米国は特別」との見解を持つ一派に賛同するかと聞いたことがある。オバマ氏は「英国人が英国を特別と信じ、ギリシャ人がギリシャは特別と信じる」のと同じように、自分は米国を特別だと信じていると答えた。つまり、同氏の信条は本人も言っている通り主観的なものでしかなかった。

 批判的な向きがオバマ氏の愛国心を厳しく疑問視してきたことを考えると、今なら彼の答えはそれほど曖昧でないかもしれない。また、クリントン氏が同じことを言うとは考えにくい。「米国は特別」と心底考えている者に疑問の余地はないからだ。彼らはかつてオルブライト元国務長官が言ったように、米国は他国より高くそびえ立ち、遠くまで見渡せると信じている。

 クリントン政権が誕生した場合、これは何を意味するだろうか。世の常でクリントン大統領も予想外の出来事への対応に追われることになるだろう。ソ連を「悪の帝国」と名指しするレーガン大統領(当時)の闘争は、ゴルバチョフ氏の台頭により意味を失った。2001年にそれより謙虚な外交政策を約束して大統領に就いたブッシュ氏は「9.11」の米同時テロの後、即座に傲慢な姿勢に転じた。オバマ氏はアフガニスタンとイラクでの戦争を段階的に終わらせると宣言したが、両国にそれぞれ数千人の米兵を残して退任することになる。

 一方、ビル・クリントン氏は人権を守り、人権軽視の中国と対峙すると誓った。だが、1994年のルワンダの大虐殺を見て見ぬふりをして後々まで後悔することになった。大虐殺に目をつぶったのは、その前にソマリアの内戦を終結させようと米軍を派兵したものの、戦闘ヘリが撃墜された惨事から学んだ教訓が大きかった。同氏は中国の世界貿易機関(WTO)加盟も受け入れた。いずれの場合も、各大統領の哲学がさまざまな出来事への対応方法を形作った。

■オバマ大統領と異なる外交姿勢

 多くの人は、ヒラリー・クリントン氏がオバマ政権の最初の国務長官だったから、単にオバマ氏からバトンを引き継ぐと思っている。だが、大統領に仕えることと大統領になることには大きな違いがある。オバマ大統領の1期目に生じた軍事問題で、クリントン氏は常にタカ派的な見方をした。リビア介入など、議論に勝つ側に立っていたこともあれば、シリアの反政府勢力に武器を提供するか否かという問題など、助言が却下されたこともある。イラン核協議の初期段階に関与していたにもかかわらず、クリントン氏がオバマ氏の合意に署名したかどうかは疑わしい。

 クリントン氏の選挙運動の発言内容も、オバマ氏のそれとは著しく異なる。オバマ氏は2008年、ブッシュ氏が仕掛けた戦争に大きく揺らぐ世界で、米国の道義的な権威を復活させると宣言した。クリントン氏は使える手段をすべて使って危険な世界と戦うと誓っている。彼女のその姿勢は、オバマ氏のとは異なる。

 オバマ氏はかつて、自らの外交政策の方針を「バカなまねはするな」という言葉で要約した。クリントン氏がオバマ氏を正面から批判することはなかったが、オバマ氏のこの方針は行動原則にならないと指摘した。もちろん、クリントン氏は正しかった。だが、危険に満ちたこの時代に、害を及ぼさないという考え方は、我々が思っている以上に大きな価値があるのかもしれない。

By Edward Luce

(2016年8月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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