安倍批判を展開する鳥越氏を多くの「人権派」が支持したが……〔photo〕gettyimages

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安倍批判を展開する鳥越氏を多くの「人権派」が支持したが……〔photo〕gettyimages

「人権」とは、人類が長きにわたる歴史的努力の果てに獲得した概念だ。しかし、この日本ではふしぎなことに、いともあっさり見捨てられることがある。世界各地の紛争現場で武装解除を指揮してきた伊勢粼賢治氏には、先の都知事選で見過ごせないことがあった……。

文/伊勢粼 賢治(紛争屋)

■人権の二重基準が生まれる時

人権の二重基準。

そんなものがあっていいわけがない。

でも、それを恣意的につくることがある。非常時、つまり緊急事態だ。

私は長年、紛争国の和平交渉を生業にしてきた。武装解除だ。敵対する武装勢力の間に入って行って、とりあえず銃を置いて将来を考えろと説得する。

ここで人権を停止する。

当たり前だ。こやつらが犯してた戦争犯罪を裁くとここで話題にしたら、銃を置くわけがない。

アフガニスタンでは、アルカイダより、そして今の「イスラム国」より極悪非道な連中の人権侵害を、武装解除と引き換えに、問わないだけじゃなく、連中に恩恵まで与えた。

こやつらは、今でも政府に君臨している。こやつらを味方に付けておかないと、アメリカとわれわれはグローバルテロリズムと戦えないからだ。

人権の、平和と引き換えの二重基準。平和のための戦争のための二重基準。緊急事態ゆえの二重基準。

こういう時に、われわれ「平和の使者」は、人権派から糾弾される。Culture of Impunity(罪が罰せられない文化)を蔓延させる悪魔だと。

われわれは、涙を飲んで、人権の二重基準を実行する。人権の重さをわかっているから、やたらに緊急事態をつくっちゃいけないとわかっているから、寡黙に実行するのだ。

だから、悪魔の分際でも、襟を正して言わせてもらう。平和時に、憲法が機能する時に、緊急事態をつくっては、絶対に、絶対に、ならない。

ところが、平和な日本で、これが簡単につくられる。先の都知事選でも、それが露わになった。

■人権を上回るイビツな「正義」

安倍政権の出現が緊急事態だと……。憲法はちゃんと機能してるのに……。だからこそ、選挙運動ができるのに、当の選挙運動がそれをつくった。それもたかが都知事選である。

安倍政権の非人権性を糾弾する人権派のその運動が、宇都宮氏とその支援者たちの公民権の行使をいとも簡単に妨害し否定した。組織票固めを、人権を上回る正義とした。

〔photo〕iStock

教育機会で得た人間の上下関係、「上」が「下」をその教育以外の目的で、隔離した場所に連れ出した疑惑。「(女子学生を)連れて行っていない」というただの一言を釈明できない候補者を、人権派が応援した。「正義」のために。

「セクハラ」「パワハラ」をやっと人権の訴求要件として確立した歴史的努力をあざ笑うかのように。

すべては、安倍政権を倒すためか。それも都知事選で。

鳥越氏を応援した人権派の学者さん、活動家さん、作家さん。あなた方はいったい何をしでかしてくれたんだ。

伊勢粼 賢治(いせざき・けんじ)
1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インド国立ボンベイ大学大学院に留学中、現地スラム街の住民運動に関わる。2000年3月 より、国連東チモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。2001年6月より、国連シエラレオネ派遺団の武装解除部長として、 武装勢力から武器を取り上げる。2003年2月からは、日本政府特別顧問として、アフガニスタンでの武装解除を担当。現在、東京外国語大学教授。プロのト ランペッターとしても活動中(https://www.facebook.com/kenji.isezaki.jazz/)。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』、『本当の戦争の話をしよう』などがある。