「は」と「が」をどう使い分けるかは新聞記事でも古典的な問題で、時に当欄も迷う。そのたびに思いだして指針と頼む一文が、作家の故井上ひさしさんにある▼いまは亡き国語学者の大野晋さんによる説を易しく紹介している。言葉をこよなく大切にした井上さんが「これで決まり」と太鼓判を押すので信頼感は絶大だ▼一言でいえば、既知の情報には「は」、未知の情報には「が」を使う。「は」と「が」に関して長年議論される「象は鼻が長い」も、この大野説ですっきり解ける▼象はすでに知られている動物だから「は」。鼻のことを話題にするとは誰も知らないので未知のことと扱って「が」。(「日本語教室」新潮新書)。なるほど、と納得したものだ▼お盆に起こった悲劇が気に掛かっている。東京都内の地下鉄駅ホームから目の不自由な男性が転落し、電車にひかれて死亡した事故である。盲導犬を連れていたのにと、つらい▼ホームが狭く「欄干のない橋」と危険視されていた。点字ブロックを遮るように柱が立ち、電車の出入りによる騒音も激しかった。なのになぜ対策を講じなかったのか▼一番有効なホームドアは工事が難しく、費用も高額になるという。そうか、と納得するわけにはいかない。視覚障害者の4割にホームからの転落経験があるという。「命は大切」なのか「命が大切」なのか、問う。