陸上男子競歩50km 荒井の失格 抗議で覆り3位に

陸上男子競歩50km 荒井の失格 抗議で覆り3位に
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リオデジャネイロオリンピックの陸上男子50キロ競歩で3着に入った荒井広宙選手が、ほかの選手と接触し、妨害したとして一時、失格となりましたが、その後、日本の抗議が認められ、荒井選手の銅メダルが確定しました。日本の選手がオリンピックの競歩でメダルを獲得するのは初めてです。
19日に行われた男子50キロ競歩で、荒井選手は終盤の45キロすぎに3位争いをしていたカナダのエバン・ダンフィー選手と接触しました。ダンフィー選手は、その後バランスを崩したようになって4位に後退しました。その後、荒井選手は3時間41分24秒のタイムで3着でレースを終え、ダンフィー選手は荒井選手より14秒遅いタイムで4着でフィニッシュしました。

この接触についてレース後、荒井選手はダンフィー選手を妨害したとして一時、失格となりました。しかし、その後、日本側の抗議が認められ、日本陸上チームの麻場一徳監督によりますと、国際陸連から日本陸上競技連盟サイドに「審議の結果、荒井選手に非は無く抗議は認められた。失格は取り消され、荒井選手の3位が確定した」と連絡があったということです。この結果、荒井選手の銅メダルが確定しました。日本選手がオリンピックの競歩でメダルを獲得するのは初めてです。

このほか、日本の谷井孝行選手は3時間51分0秒のタイムで14位、森岡紘一朗選手は3時間58分59秒で27位でした。金メダルはスロバキアのマテイ・トス選手、銀メダルはオーストラリアのジャレッド・タレント選手でした。

荒井「予想外の展開だった」

荒井広宙選手は序盤、先頭集団のなかで自分のペースを守ったことで、中盤以降もペースを落とすことなく「狙いどおりだった」というレース運びを見せ、最後はフィニッシュ直前まで続いたカナダの選手との競り合いを制しました。

荒井選手はフィニッシュした直後、「最後の1周で抜かれるかもしれないと思ったら、『絶対負けられないな』という気持ちになって、自分でも不思議になるくらい力が出た。ここまでつらいこともたくさんあったが、メダルを取ることができて本当によかった」と涙ながらに話しました。

このあと、荒井選手は4着のカナダの選手との競り合いの中での接触が妨害行為だったとして、いったん失格となりましたが、日本の抗議が認められ銅メダルが確定しました。揺れ動いた判定について、荒井選手は「レース中の接触はよくあることで、失格は納得できなかったが、3番でゴールしたことには変わりなく、どちらに転んでも次につながるレースになったと思っていた。予想外の展開だったが、とりあえずメダルが確定してよかった」とほっとした様子で笑みを浮かべていました。

粘り強いレース運びが持ち味

荒井広宙選手は長野県出身の28歳。崩れにくい、きれいなフォームで粘り強いレース運びが持ち味です。大学3年から50キロ競歩に挑戦し、前回ロンドン大会で代表を逃した悔しさから、オリンピックを強く意識するようになりました。

去年の日本選手権で、日本記録まで8秒に迫る自己ベストで優勝し、去年の世界選手権はメダル争いに加わって、ともにオリンピック代表となった谷井孝行選手に続く4位と、安定した強さを見せてきました。そして、ことし4月の日本選手権で、日本陸上競技連盟が設けた派遣設定記録をクリアして2位に入り、初めてのオリンピック代表に決まりました。

判定が不服の場合は

国際陸上競技連盟のルールによりますと、選手やチームの関係者が試合の判定に納得ができない場合、正式結果が出てから30分以内であれば、試合の審判長に対して口頭で抗議できます。

審判長は試合の映像を確認し、抗議の対象になっている選手やチームの言い分を聞き取るなどしたうえで判定を下します。審判長の判定に納得できない場合は、上訴審判を開くことを要求することができ、競歩の日本代表チームによりますと、今回のケースでは上訴審判は国際陸連の5人の理事で構成されるということです。上訴審判は多数決で審判長の判定を支持するか、却下するかどうかを決め、この判定は最終的なもので、CAS=スポーツ仲裁裁判所を含めて、不服を訴えることはできません。

日本とカナダの主張

陸上の日本選手団の関係者によりますと、レース終了後、4着でフィニッシュしたカナダの選手側が、フィニッシュからおよそ4分前の競り合いの際に荒井選手の妨害行為で接触してバランスを崩したと審判長に抗議したということです。

審判長はこの抗議を認めたため、3着だった荒井選手は失格と判断されました。競技結果にも荒井選手は「失格」と表記され、カナダ選手が3位に入りました。日本側はこれを受けてレースの映像などを確認し、麻場一徳監督は「本人の感覚からしても不可抗力での接触だし、お互いにバランスを崩している。われわれからするとカナダ選手のひじが先に当たっている状況で、荒井選手が失格にされることは納得がいかない」として上訴したということです。

陸上の日本選手団の関係者によりますと、競歩ではレース中の接触による失格や判定への抗議などは珍しいことではないということです。

出身地では父親らが応援

リオデジャネイロオリンピック陸上の男子50キロ競歩で、失格が取り消され銅メダルが確定した荒井広宙選手の出身地、長野県小布施町では家族や地元の人たちが集まってレースの行方を見守りました。

荒井選手の出身地長野県小布施町のホールには、日本時間の19日夜、父親の康行さんや同級生など200人以上が集まり、大型スクリーンでレースの行方を見守りました。終盤まで粘り、上位につける荒井選手に、会場からはたびたび歓声が上がり、「頑張れ」といった声援や「荒井コール」も起きました。そして、荒井選手が3着でフィニッシュすると大きな拍手と歓声が沸き起こり、父親の康行さんは両手の拳を高く突き上げ、周りの人と抱き合って喜びんでいました。

荒井選手は母親の繁美さんを去年、がんで亡くしていて、康行さんは「最高の息子だと思う。抱きしめてあげたい。最後、背中を押してくれたのは、亡くなった母親だと思います。帰ったら仏壇に『やったぞ』と報告します」と話していました。また、荒井選手の同級生の男性は「小学校・中学校と9年間一緒にいた仲間なので、こんなに頑張っているのを見て、言葉にならない。友人として誇りに思う。お疲れさまと言いたい」と話していました。