つれづれイタリア~ノ<ジロ2015グルメ・後編>神父も窒息しそうなおいしさ ジロ・デ・イタリアは最終ステージまでグルメ尽くし
前回に引き続き、ジロ・デ・イタリア観戦のもう一つの楽しみ方、各ステージを見ながら味わえるグルメツアーをお届けします。ジロは、開催される地域の食文化と歴史を少し知るだけで、レース観戦以外にもたくさんの楽しみ方ができます。イタリアではレースに合わせて各地の情報がたくさん放送されるので、バーチャル旅行が楽しめます。それでは、旅行しているつもりで後半のステージを楽しんで下さい。
第11ステージ(5月20日)フォルリ~イモラ
エミリア・ロマーニャ州の真ん中を走るこのステージは、イタリア人の“心”において大きな意味を持っています。まずはフェラーリ。イモラには、フェラーリのサーキットがあります。そしてマルコ・パンターニ。彼がこの山で練習をしていました。補給食もボトルも持たず、いつも決まった噴水で水を飲み、お腹が減ったら、バーでパニーニを食べる。シンプルなスタイルですが、そんな行動がファンを虜にしました。
さて、グルメはどれを選ぶか困ります! 農作物が豊富で、パスタ、ピアディナ(ピザのようなもの)、サラミ類、ラザーニャなど、どれもおいしい。一番有名なのは、ストロッツァプレーティという変わった名前のパスタです。意味は「神父殺し」。神父が窒息してしまうほどおいしいので、この名前が付けられました。新鮮な海の幸、ミートソース、たっぷりのパルメザンチーズを一緒に食べると、天国に上る気分を味わえます。私も大好きです。
第12ステージ(5月21日)イモラ~ヴィチェンツァ
イモラを離れ、ヴェネト州に入ります。ゴールのヴィチェンツァ市は、カンパニョーロの本拠地として有名なだけでなく、街の中心街とその周辺の別荘群が世界遺産となっています。日本人があまり訪れることのない、美しい街です。
ヴィチェンツァでは、まずバッカラとポレンタを味わってもらいたいです。ポレンタは、トウモロコシでできたお粥。バッカラはタラの干物を用いた料理で、ここでは牛乳煮込みが用いられます。牛乳と魚、ミスマッチのように思われますが、これが見事に合うのです。
パスタは、アヒルソースのビゴイ(うどんに似た太麺)が有名です。また、リゾットが好きな人にオススメしたいのは、野生のホップのリゾット。ちょうどこの時期の郷土料理で、私も小さい頃によく食べました。ホップのほろ苦さがたまらない!
第13ステージ(5月22日)モンテッキョ・マッジョーレ~イエゾロ
ヴィチェンツァを離れ、イエゾロに入ります。水の都、ヴェネツィアの北端にあるこの海のリゾートは、夏はとてもにぎわいます。また、魚介類の宝庫です。
砂地の中で育ったボンゴレとマテ貝、桟橋で簡単に捕れるムール貝、岩に潜んでいるカニ。毎日、海の幸が楽しめます。地元の白ワインもクセがなく、魚料理によく合います。
実は、このステージは私の実家のすぐそばを通るので、生中継が楽しみです。
第14ステージ(5月23日)トレヴィゾ~ヴァルドッビアーデネ
トレヴィゾといえば、ティラミスとベネトン。 そしてピナレロ、シディ、デマルキ、バイシクルライン、ディアドラなど、自転車関係だけで30以上のブランドがあります。ミラノに次いで、イタリアの自転車産業を支えている地域です。
ゴールのヴァルドッビアーデネは、プロセッコというスパークリングワインのメッカです。値段が安く、飲みやすく、そのままでも、ケーキにも、リゾット料理にも使えます。日本でも、もっと普及してほしいと思っています。
第15ステージ(5月24日)マロスティカ~マドンナ・デル・カンピリオ
ヴェネト州を離れ、いよいよアルプスへ。ゴールは、トレントの近くにある有名な山のリゾートです。全長60km以上のスキーゲレンデを誇ります。
トレントといえば有名なのが、往年の名レーサー、フランチェスコ・モゼールのファミリー! ここでブドウ園を営み、ジロの公式ワインとなった人気のワインを製造・販売しています。このステージはモゼールのワインを飲みながら観戦しましょう。
第16ステージ(5月26日)ピン ツォロ~アプリカ
アルプスが続きます。この日のゴールは、有名な峠の一つ、アプリカ峠。ジロのゴールとしては、今年で10回目の登場です。春、夏は毎日のように多くのサイクリストが挑戦している人気のコースです。
アルプスといえばチーズ類、ソーセージ、そして温かいスープですね。しかしゴールのアプリカ峠は、ヴァルテッリーナ渓谷のすぐ近くにあり、名産はそばと牛の生ハム。特に、そば粉でできたピンツォッケリは、味付けを除けば日本のそばに近い食べ物です。ハムは、ブレザオラがおすすめ。赤ワイン漬けの牛肉ですが、脂肪分がほとんどなく、自転車選手から愛されている一品です。レモンをかけるか、クリームチーズに巻くか、食べ方はお好みで。
第17ステージ(5月27日)ティラノ~ルガノ
スイスとの国境を越えるこのステージ。湖に面したルガノ市はスイス南部の街で、公用語はイタリア語。ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)も、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファルマ・クイックステップ)もルガノに住んでいます。隣町には、今年引退したばかりのカデル・エヴァンスも居を構えていました。サイクル・アパレルメーカーのASSOS(アソス)も国境のすぐ隣の街にあります。ウィンタースポーツだけでなく、スイスは自転車競技が熱い!
イタリアの影響を受けるルガノ料理は、淡水魚やスープが中心の、とてもシンプルな郷土料理です。ただし、スイスフラン高でレストランは非常に高くなっているので、お勘定に驚かないでください。銀座の高級レストラン並みの価格です。
第18ステージ(5月28日)メリデ~ヴェルバニア
グルッポ(プロトン)はイタリアに戻りますが、しばらくアルプスが続きます。ゴールはマッジョレ湖に面する高級リゾート、ヴェルバニア。庭園が多く、多くの著名人が平地の熱さをしのぐため、ここでバカンスを楽しみます。
料理は、やはり淡水魚とチキン料理がおすすめ。特にポッロ・アッラ・カッチャトーラ(猟師風チキン)は人気です。野菜と地元の赤ワインで煮込んだチキンは、鶏肉とは思えないような味わいです。
第19ステージ(5月29日)グラヴェッローナ・トチェ~チェルヴィニア
2012年に続き、標高2000mを超えるアオスタ州チェルヴィニアにゴール。イタリア屈指の山のリゾート、チェルヴィニアは、ツェルマットからわずか10km。この周辺だけで350km以上のゲレンデが楽しめます。標高3500mから滑走できます。
チェルヴィニアの名物は鹿肉と、心と体を温める赤ワインのバローロで煮込んだ牛肉です。チーズフォンデュも人気の一品です。
第20ステージ(5月30日)サン・ヴァンサン~セストリエーレ
アルプス最後のステージ。イタリア大手自動車メーカー、フィアット社の創立者、ジョヴァンニ・アニエッリが1930年代にスキーを楽しむために開発したリゾートです。2006年のトリノオリンピックの舞台にもなりました。
このあたりはピエモンテ州の料理の影響を強く受けています。肉料理とリゾット、そしてデザートにはレモンボンネというさっぱりしたレモンクリームケーキ。うん、太りそう…!
第21ステージ(5月31日)トリノ~ミラノ
いよいよグルッポは最終ステージに突入。アルプスを制覇した王者は、よほどの事がない限り、ゴールのミラノまでマリア・ローザを守るでしょう。
トリノもミラノも世界遺産の街、そしてグルメの街。トリノはかつてイタリアの王家がいた影響で、上品で味わい深い料理が多くみられます。リゾット、トリュフ、赤ワインで煮込んだ牛肉。甘党には、ジャンドゥーヤというヘーゼルナッツを贅沢に使ったチョコが人気。何を食べてもおいしいです。
ミラノは伝統的にジロ・デ・イタリアのゴール地点となっています。白く光るドゥオーモ大聖堂、おしゃれなヴィットリオ・エマヌエレ二世ギャラリーとモンテナポレオーネ通り、オペラの殿堂、スカラ座、そして名画「最後の晩餐」があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会。
これだけでお腹一杯になりそうですが、もちろんグルメも大切です。多くの移民が住んでいるミラノでは、世界中の食べ物が楽しめるし、ミラノの郷土料理もおいしい。サフランのリゾット、じっくり煮込んだオッソブーコ(子牛の煮込み料理)、そしてコトレッタ・アッラ・ミラネーゼ(ミラノ風カツレツ)がおすすめです。これにはワインのオルトレポ・パヴェーゼがベストマッチングです。
さて、ジロ・デ・イタリアは自転車レースとしてだけでなく、各ステージの魅力を少し知るだけで、もっと面白く見られます。ただし、毎年のように贅沢な悩みがあります。それは、眠れない夜が3週間が続くこと。対策を考えないといけませんね…
文 マルコ・ファヴァロ
イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ」