要旨:
・インディーズタイトルは、その不安定さと偏りから、AAA級タイトルの半額以下の価格で販売される傾向にある。
・例外的に、シム系タイトルは、同じく不安定な作品であっても、ニッチに特化した宣伝と専門性を保つ信頼から、AAA級タイトル同様の価格で販売される。
・『Star Citizen』は例外的に高価でオリジナリティも高い作品だが、段階的な価格調整とファンへの敬意を両立することで受け入れられた。
・インディーズ市場における相場は相応の理由が説明できる。その点『No Man's Sky』が”高い”のは事実であり、僅かに調整するだけで不評は避けられたかもしれない。
インディーズ出身の最新作『No Man's Sky』。「1800京個」以上の惑星が存在している宇宙を、資材集めや原住民との交流を交えつつ冒険する夢のある作品だ。
しかし、いざ発売されてみると評判は芳しくない。Steamの平均評価は現時点で54%と平均的な数値から大きく下回る結果になった。
さて、批評の中には、ゲーマーたちの期待、未熟なバランス面など、ありきたりな原因が挙げられる中で、「値段が高すぎる」という聞きなれない声が混ざっていた。
特に決まった「相場」が存在しないゲーム市場において、適正な価格とは何か。価格は何を持って決められるのか。『No Man's Sky』と他の作品を比較して展望したい。
※本稿では一般的価格設定の作品を「AAA級タイトル」 と一括して表記しているが、あくまで顧客が商品として比較する場合の概念であって、作品として独立系作品とどちらが優れているか、という意味ではないので注意。AAA級でも作品の評価が玉石混合というのは同じ。
インディーズゲームは何故安いのか
少し疑問に思ったことがある。何故、『GTAV』は7000円で、『Minecraft』は3000円なのか。
確かに「何故『GTAV』は『Minecraft』より高いか」という疑問なら答えもわかる。しかし、「何故4000円も高いか」「何故『Minecraft』は3000円に落ち着いたか」と考える説明することは難しくなる。
そこで、一般的なインディーズゲームの価格について調べてみたところ、
『Terraria』『Undertale』など、技術面やボリューム面をコンパクトに抑えた2Dタイトルは1000円代、
『OUT LAST』『Sub Nautica』など、そこからグラフィックス等の技術面を向上させる上で2000円代、
『Surival Evolved』『Minecraft』など、更に洗練されゲームとして完成されると3000円代と騰貴していく。これは、AAA級タイトルの半額以下を基準に出回っているとも考えられる。
以上から、確かにインディーズには素晴らしい作品がたくさん眠っているものの、現実的にはAAA級タイトル並みの手厚いサポート、満足の行くボリューム、万人が楽しめる普遍性といったリスクが、安い価格として反映されていると見てよいだろう。
ただしこの価格水準にも例外がある。一部のコアなゲーマーが愛する「シム系」だ。インディーズといかないでも規模の小さい『ARMA』シリーズや「Paradox」作品、『Euro Truck Simulator』は、AAA級タイトルと同様で売り出されながら、手堅い支持を得ている。
では何故、『NMS』が”高い”と言われ、成功した一部のシム系ゲームは受け入れられたか。この理由は2つ考えられる。
1つは局地的な技術でAAA級タイトルを凌駕している点。全体的なクオリティはやや劣っても、現実に存在するトラックや戦闘機を再現する上で極めて精巧に再現されており、費やされた労力たるや想像するまでもない。
2つは購買層をしっかり絞っている点。作品の魅力を予め宣伝し、あくまで一部の”理解者”が心行くまで楽しめると説明することで、興味のない層が排除され、一方でファンは自身がパトロンたる自覚を持てる。ニッチへの貢献によってプレイヤーとの信頼を構築しているのだ。
『No Man's Sky』は”高い”
『No Man's Sky』に話を戻そう。本作は価格面で6000円代というラインに挑戦し、その結果プレイヤーの顰蹙を買った。バリエーションに乏しい、同じ作業の繰り返し、パフォーマンスの低下といった、正直インディーズなら珍しくもない不具合であっても『NMS』は容赦なく指摘された。
しかし、先述したように6000円代の作品は、小規模スタジオでもシム系の作品なら珍しいことではない。シム系が受け入れられる条件は上記の通り、①AAA級に引けを取らない技術と専門性を持つこと。②購買層を絞りニッチを定めることで顧客の信頼を得ることだ。
『NMS』は、間違いなく1番目の理由をクリアしている。開発陣の努力と情熱は誰もが認めるところだ。なら問題は2番目の理由か。
シム系ゲームは、動作も不安定で娯楽的な魅力も乏しい。だが自分たちの目指すべき方向性、実現すべき水準、そして「実現不可の内容」を明確にし、貴重なパトロンたちとの信頼関係を築いている。
一方、『NMS』はインタラクティブアート、箱庭アドベンチャー、様々な点が混ざり合ったオリジナリティを目指し、その夢のあるデザインがファンの大きな期待を形成した。
だがこれは、「6000円払っていい」という理解のあるパトロンを確保するには様々な面で不十分だった。何をどこまで楽しめるのかは不明確で、悪く言えば色々な客に夢を見せて取り込もうとしたように思える。虚偽の宣伝をしたわけでないが、あの漠然としたトレーラーでは誇張宣伝の誹りを免れないだろう。
本作に類似するケースとして『Star Citizen』を紹介したい。このゲームも広大な宇宙を舞台に、自分だけの宇宙船で探索するロマンある作品だ。
アルファ版が発売される現在、価格は45ドルとかなりの強気設定だ。無論、バグやパフォーマンス低下のような不具合も残り、ボリューム面の改善も求められている。それでも、ある程度ファンから理解を得られたのは何故か。
やはり、「シム系ゲーム」のように事前に「出来ること・出来ないこと」を明確に、執拗なまでに説明した上で理解者を募ったこと、宇宙船の細やかな描写など既に存在するニッチへアプローチしたことなど、信頼構築に努めたためだと思う。
ここから理解できるのは、決して安い価格に設定したり、シム系のような特化する必要もなく、あくまで独立系ならではの独創性と挑戦心溢れる作品であっても、プレイヤーとの信頼を築くことで寛容な評価を得られることだ。(実際の作品としての品質はともかく)
インディーズゲームはイノベーションの宝庫である。アイディアが枯渇しがちなこの業界で、クリエイターたちの挑戦を促す上で、プレイヤーの理解も必要だとは思う。
しかし、盲目的に芸術的な何かを飲み込ませ、理解できる人間だけ満足すればいいという巷の意見も甘すぎる。『NMS』は明らかに説明不足だったし、(有料ベータを連発する)AAA級タイトルと比較しても不具合の程度は看過できない。「金を返せ」と憤る声も尤もではないか。
『NMS』は意欲的で独創性に優れた魅力を持っていた。だからこそ、妥当な価格と慎重な対話を重ねてリリースすれば、今より高い評価を得ていたことは間違いない。
余談:
昨今のインディーズ業界では、「Devolver Digital」「505 Games」みたいなインディーズ専門のパブリッシャーも出てるし、一方でAAA級から退いた一級のクリエイターがネームブランドそのままに参戦することもある。(『Star Citizen』もこれ)
一括りに「インディーズ」といっても、そのあり方は様々で、運営する規模も大きな開きがある。良くも悪くも、ゲーマーの理解がその点にどこまで及んでいるかは疑問だし、私自身も学ぶ余地が大きいなと考えている。